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もう一度恋をはじめるまで  作者: 晴後くもり


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7/14

通勤ラッシュ/うなぎの味

駅のホームでは なるべく、

後ろ向きな曲を聴く、なるべく。

服装と空調は今日も折り合わない。



 今朝はいつもより30分も早く駅に着いた。時間としては通勤ラッシュ大本命のタイミングだったので、わざわざ早く家を出て自らラッシュに巻き込まれにいくという、飛んで火に入る夏の虫さながらの愚行だった。


 なんとか車両に乗り込むも、列車内はおしくらまんじゅう状態で、四方八方からぎゅうぎゅうと押し固められる感覚。身動きが取れなかった。


 ならばいっそと、身を硬くして一人で立とうとせず、力を抜いて人海に身を任せてみると、案外心地いい。



「部屋の整理して欲しいから、近いうちもっかい帰ってきて。交通費は出すから」と母に言われたので、3月も京都に帰った。


 二階の納戸には、「ひかり」と書かれた段ボールが6つ積んであった。


「ほとんど要らんもんやろうけど、私わからへんから自分で捨てて。なんか最近やとネットで売れたりもするんやろ?」


 そんな売れるようなもんないけどなあ、言いながら荷を解いていく。


 包みの中からは、出るわ出るわ。鼻を突くような酸い匂いとともに、古ぼけた思い出や、すっかり香ばしくなったあの日の約束、等々。当時やり込んだ動物の育成ゲームなんかも出てきた。懐かしいなと思いつつも、ゲーム本体が使い物にならなかったので、起動は諦めた。


 段ボールの底の方に高校の卒業アルバムがあった。重い。そんなにずっしり詰まった学生生活は送っていないはずなんだけど。アルバムがすっぽり収まった半透明のケースから便箋が透けていて、その厚み分ほんの少し膨らんでいる。便箋はナツキからのラブレターだ。


 当時は随分と戸惑った。嬉しかったけど。致し方がないというか、処遇に困るというか。もちろん嬉しかったけど。何度か読み返したけど(人に褒められることなんてそうないことだもん)。


 でも私は東京へ行くし、大学生だし、幼馴染といっても家が近いだけだったし。そんなに好きになるタイミングあったかな。手近な女が私しかいなかっただけなんじゃないの、なんて思ったり。実際のところはわからない。ナツキは不思議な奴なのだ。


 荷物の整理もそこそこに、お昼は母と祖母と三人でうなぎを食べに行く。せっかくだからたまには、と。四条の駅ビルに新しく入った店らしい。


 母は人混みをすり抜けツカツカと歩き、祖母はその3メートル後をじーっと追う。


 ほんの5年前までは逆だった。元気な祖母は自慢の体力を見せつけるようにツカツカと歩き、母は「そんなに急がんでも」と言いながら最後尾を歩いていたのだ。


 予約の時間を気にして少し苛立っている母と、すっかり自信をなくした祖母。私は、母と祖母を直線で結んだちょうど真ん中1.5メートルの辺りを歩いた。うなぎの味はあまり覚えていない。



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