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もう一度恋をはじめるまで  作者: 晴後くもり


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初詣

 4日。参拝客でごった返している伏見の大きな神社を避け、3駅ほど離れた、慎ましいながらも由緒ある宇治の神社を選んで参った。


「神様に願うとき、住所も伝えなきゃ叶えてくれないらしいよ」

と、前に並ぶ若い女の子たちが話している。


「叶えてくれないらしいよ」


 ナツキが口調を真似る。声、低くなったなあと思う。


 私が小声で、


「わざわざ本人に聞かなわからんような不完全な神様、神様って呼びたないわ」


と反論すると、


「そもそも神様が完全無欠だったら、こんな世の中になってないと思うけど」


とナツキは言う。私はふくれる。


「でも、確かに住んでる所ぐらいわかってほしいよな」と笑うナツキは優しい。


 結局、神様に住所は伝えなかった。


 つつがなく初詣を終え、辺りを歩く。

 日陰で信号を待つのは寒い。ポケットに入れた指先が冷えて乾燥し、サラサラしている。爪が水分を失っているようなこのサラサラが私は苦手だ。


 足踏みして落ち着かない私をみて「全身思いっきり力を入れて、ふっと抜くとぼんやり暖かくなるで」とナツキが言う。ふたりして力み、ふたりして緩む。「ほんまや」などと大声で言い合い愉快。何度も力んだり緩んだりする。


 信号が青に変わり、この時間が少し名残惜しいような気持ちを抱えて渡る。


 近くを流れている宇治川には、鴨や鷭がかたまりをつくって漂う。陽の当たるベンチに幾組かの男女が腰掛けている。同じように座ると、なんとなく何かを打ち明けなければならなくなるような気がして、迂回する。


 迂回中、家のお雑煮はどんなタイプかを明かし合う。ナツキの家は味噌タイプ、うちはすましだ。鴨肉が入るのだと言うと、川にいた鴨を指差して「明日の分採ってきたら」とはやしてくる。五月蝿い。めんどくさい。かわいい。


 細い橋を渡ると、電話ボックス3つ分くらいのケージがあって、10羽ほどの海鵜が飼われていた。「うわ、鵜や」と言い、ナツキはいそいそとケージに近づいた。私も後に続く。


 鵜は黒々として、どれも迫力がある。翼を広げて乾かしている鵜もいれば、塵が額に付いていることにも気づかず凛としている鵜もいる。どの鵜も一様に、足を45°の角度で揃えている。目の前の鵜と目が合う。


「鰻ってなんで鰻っていうか知ってる」


 ナツキが訊いてくる。知らない。鵜から目を離さずに返す。鵜って、魚を丸呑みするでしょ。でも鰻は、長くてぬるぬるしてるからなかなか呑み込めない。鵜が難儀する、から、うなんぎ、うなぎって言うらしいよ。へー。鵜が目を逸らした。私の勝ち。


「去年友達と鵜飼うかい見に行ってん。そのとき鵜匠さんが言うてはった」


「ふーん」


 あれ。聴きながら自分が少し不機嫌になっていることに気づく。ナツキが私以外の人間と会って、交流し、関係を深めていることに苛立っている。私のこと好きって言ってたくせに。なんて薄情なやつ。


 頭がすこし馬鹿になっているのは自覚している。


 17時頃に、神社最寄りの改札内で別れた。ナツキは大阪方面、わたしは京都方面の下りエスカレーターに乗った。


 大阪方面の電車は既にきていて、ナツキはそれに乗ったらしい。空いた向かい側のホームを眺め、立ち尽くす。寒い。力んでみたが、全然あったまらない。


 幼馴染のナツキ。幼馴染ってどこまでも他人だ。きょうだいみたいに施し合う義理もないし、恋人のように踏み込む権利もない。ナツキはどこまでも他人だった。だから、淋しい。別れた途端に恋しくなって、また嫉妬が滲んだ。


「おかえり。あらひかりちゃん、早かったねえ」


 帰ると、祖母だけがいた。ただいま、と言ってリビングにいき、冷たくなった革の鞄を置く。足が温もった床暖にぺたぺたと吸いつく。膝を折って手をつき座ると、気が抜けたのか、ぐうとお腹が鳴った。


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