表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度恋をはじめるまで  作者: 晴後くもり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

風邪/各駅停車

 風邪をひいた。ひとり、家。今月の家賃を払い切る目処の立っていない、家。


 鳥取から帰ってきた2日後に熱を出した。帰りの新幹線からなんだか喉の奥に違和感があるなあとは思っていたが、翌日違和感は痛みに変わり、その後発熱に至る。


 体調を崩すのは随分久しぶり。身体だけは丈夫なのだ。取り柄というほどでもないけれど。熱を出すのなんて東京に来てから初めてではないだろうか。


 鳥取行きでバイトを休んでいたこともあって、そのままこの日も休んだ。蛯沢さんも《ゆっくりしておいで》と言ってくれたのだ。お言葉に甘えてゆっくりすることにする。私がいなくても店は回るのだ。哀しいけど。


 実は一人暮らしで熱を出すのは初めてだったりする。とにかく身体がだるい。お腹は空いたのに家の冷蔵庫には何も入っていない。あっても喉が痛くて食べれないかもしれない。あったかいうどんが食べたい。


 フードデリバリーが簡単にできるアプリの存在を思い立つ。割高なので普段は縁遠いものだが、どうせ家賃も払えないのだと開き直ってとりあえずインストールしてみる。目の奥が痛い。アプリを立ち上げたが、住所やクレジットカード情報の入力欄を見てあっさり挫けた。


 詰んだ。


 抗うことをやめて目を閉じる。諦念。


 辛い。しんどい。おなか減った。喉痛い。


 そして何より、すっごい心細い。


 冷蔵庫から鳴るジーという音だけが響く、薄暗い部屋に一人。


 誰かの声が聴きたくなって、開いたトーク画面はナツキだった。ぼーっとしてそのまま指が通話ボタンに伸びる。コール音が鳴る。


「うん、どした?」


 智紀がいなくても私の世界は回る。回り続ける。


 熱を出しても人生は続く。


 目を閉じると窓の外には鳥の声、さらに遠くからは踏切の音が聞こえてくる気がする。




 3月。更新を待たずに引っ越した。足りない分は両親に泣きついた。東中野、6畳1K、8万6000円。駅までは徒歩15分。


 今朝カーテンを引くと、新しく溜まった埃がふわりと撥ねた。むき出しのフローリングは埃が目立つ。


 今日、ゆうcafeは定休日。14時に到着するナツキを東京駅まで迎えに行く。東中野から中央・総武線で御茶ノ水まで。ホーム向かいの中央線快速乗り換えて東京。暗唱そらでも言える経路だ。


 東中野駅ホーム。視界がクリアなのは季節が移ったから。彩度が上がって、見える景色の輪郭もはっきりしている。道中の桜はもういくつか花びらをつけていた。開花は予報によると明後日になるらしい。


 静かに電車のドアが開き、乗り込む。ロングシートの真ん中、陽の当たる席を選んで座る。


 平日昼間の各駅停車が好き。


 外の景色も、小さな揺れも、ゆとりある空間も。背中から差し込む暖かな光が足元に陽だまりを作る。スニーカーが光を吸収して足が熱いね。



記憶の断片を探して綴る。

私だって忘れていることの方が多い。【了】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ