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もう一度恋をはじめるまで  作者: 晴後くもり


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10/14

オレオレ詐欺/お誕生日会

 茹だるような暑さが続いている。暦ではもう9月だというのに、少しも暑さが和らがない。当たり前である。そもそも9月は暑いのだ。それなのに毎年毎年8月が過ぎれば暑さも落ち着くと思って、9月に期待しすぎる。


《今日もありがとう!途中変なテンションになったけど気にしないで。また飲みに行こう!》


 このメッセージを最期に、迫田さんとのやりとりは止まっている。


 気まずい。変な空気になったのが気まずいのか、向こうからの定期連絡がない。私もなんとなく気後れして、連絡できていない。


 このままこちらから連絡をしなければ、ずっと疎遠になって、そのまま私は綺麗に忘れ去られてしまうのだろうか。なにそれ。


 母から電話がきたのは、ちょうど昼休憩をとっている時だった。


 ゆうcafeでは、好きなメニューを賄いとして自分で作ってよいというスタイルなので、お昼代が浮いて助かっている。今日はランチCのアボカド丼。


 裏返しにして机に置いたスマホが震えた。迫田さんからかと思い一瞬ドキッとしたが、振動が継続するので電話だと分かり安堵する。迫田さんとは電話をしたことがない。


 祖母がオレオレ詐欺に遭ったらしい。


「50万も振り込んじゃって。警察にも届けたんやけど、取り返すのは難しいやろうって。最近増えてるらしいわ」


 母がため息交じりに事のあらましを語る。近頃認知症がひどくなってきたこと。通帳の場所を何度教えても覚えられず、毎日のように盗まれたと騒ぎ立てること。そして今回の詐欺事件。母の留守中に電話が鳴り、急いで銀行に振り込みにいったのだという。


「あんたも詐欺とか気いつけや。東京なんか多そうやんか」


 母の声には疲れが滲んでいた。


 ◇


「お誕生日会をやるんやけど」


 母からそう連絡が入った。


 祖母が施設に入ってから半年後のことだ。詐欺被害に遭ってから、間も無くして施設へと移った(母によると、そこでも一悶着あったそうだが)。施設に入ると、また一段と認知症は進み、もう幼少期の思い出話ばかりになっているそうだ。


 お誕生日会は祖母の80歳を祝うものらしい。もう80歳になるんだ、としみじみ。祖母の齢はもとより、父母の年齢も覚えられない私である。祖父が亡くなったのが確か77、8くらいだったから、5歳年下の祖母は長生きしている。


 女性の方がパートナーを亡くした後も元気に暮らすと聞くが、やはり老老介護で長く面倒を見ていた祖父がいなくなると、緊張の糸が切れたのか、老いの進みは随分早くなったように思う。そんな姿を見るのが辛くて、距離を置いた時期もあった。


 お誕生日会はweb会議ツールで行われると案内がきた。いまどきである。ご時勢から面会の基準も厳しくなっているらしく、親戚も各地へ散っているため、どちらかと言えば消極的な理由でweb開催となった。


 当日、お昼を過ぎた頃に揃って指定のルームに入った。私と母、おばちゃん(伯母)、従姉妹のすみちゃん(伯母の娘)、従兄弟のゆうじくん(すみちゃんの弟)。それぞれ自宅から集まった様子で、背景はみんな白壁を選んでいるみたい。母とゆうじくんはPCから映しているのが、動きでわかった。


 それぞれの近況を短く報告し合っていると、定刻を2分ほど過ぎて祖母が登場した。自分では操作できないため、介護士さんが傍についてサポートしているようだ。


 画面に映った祖母は、半年前に見た姿とは別人のようだった。黄色く濁った目は、焦点が合っていなかった。画面に自分の顔が映ると、ようやく反応し、気恥ずかしそうにはにかんで見せた。


 まずはおばちゃんが先陣を切って画面越しに声を投げかける。今日は祖母の誕生日であること。祖母は82歳になったこと。お祝いのためにみんな集まったこと。


「お誕生日おめでとう」とみんなが次々に声を送る。私も続いて「おめでとう」と言う。話が続かないので順番に何度も何度も「おめでとう」と言う。祖母はみんなから祝福されているのがわかったのか、少し嬉しそうに、またはにかんだ。その姿は幼い少女のようだった。


 「おめでとう」を何周かしてから、祖母の上機嫌な様子を見て私は少し調子に乗った。もう一歩踏み込んでみようと、明るく言葉を足した。


「おめでとう。おばあちゃん、ケーキは食べた?」


 すると祖母はきょとんとした顔をして、表情を変えずに言った。


「あんた誰え?」


 母や伯母が笑いながら「ひかりちゃんやんかあ」とフォローしてくれていたが、その後のことはあまり憶えていない。忘れられるという理不尽が堪えた。




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