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第39話 翌日

 翌朝。私達は教室でお説教を聞かされていた。この〝私達〟というのは私、未琉、彗、あめ、栗枝先生の五人のことであり、お説教をしているのは学年主任の先生だ。


「いくら開始地点が山の中だったとは言え、そして龍神たつかみ神社の一人娘がいるとは言え、神聖な場所をあんなにも荒らすのは罰当たりだぞ。しかも何だあのムカデの量は⁉ 事後処理に当たった教員連中の身にもなって考えてみろ」


 いかにも〝デキる女〟といった風体の学年主任は、眉間の皺を深く刻み込みながらくどくどと説教を続ける。


「栗枝先生も、監督すべき立場にあるのに何故注意しなかったんですか。まったく、これだからⅡBは……」


 一時間目の授業時間をたっぷり使って説教し、授業終了を知らせるチャイムが鳴ると、学年主任の先生は深い溜息をついた。


「全員ここで待機。理事長からもお話があるから、絶対に逃げるんじゃないぞ」


 そう言い残し先生は教室を出ていった。やっと緊張感から解き放たれた私達は一斉に息を吐いた。


「あ~あ。あいつ、いつにも増して厳しかったな~。これだからⅠ科の奴とは反りが合わねぇんだよ」


 ああ嫌だ嫌だと言いながら、栗枝先生が身体をほぐし始めた。


「このわたくしが、こんなくだらないことでお説教されるなんて……。わたくしは一切お説教されるようなことをしていないのに……」


 恨みがましく彗が呟くと、あめが挑発しだした。


「はっ。そうやって自分だけは悪くねぇみたいな態度してるのが一番悪ぃんだよ。ああ、そうそう。聞いたぜ? お前真っ先にあのおっさんにやられたんだってな。いつもすました顔して自分が一番強いですみたいな態度してるくせによ。ダッセェ~!」


「それはわたくしが弱いのではなくアマノ様が規格外に強いだけです! あとおっさん呼びはやめてくださいと何度言えばわかるのですかこのオタンチン・パレオロガス!」


「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」


 彗とあめがぎゃーすかぎゃーすか口喧嘩を始めたが、止めるものは誰もおらず、私は本当に卒業までこのメンバーでいられるのか心配になった。


『この二人、夫婦漫才師にでもなればそれなりに稼げると思わない?』


「ううん……だいぶ無理があるんじゃないかな」


 前に座る未琉がこちらを向いてそんなことを言ってきたが、互いに罵詈雑言浴びせているだけでは一銭にもならないのではなかろうか。


『大丈夫。客に催眠術をかけてお金を払いたいと思わせるから。得た収益は私と舞理で山分けね』


「本人達には一円も入らないんだ……」


『私が興行主だから。配分を決めるのも私』


「そう……」


 不安しかない興行だなぁ……。


 詐欺まがいの儲け話はさておいて、私は伸びをしている先生に尋ねた。


「先生、理事長ってどんな方なんですか? さっきの先生も凄い怒ってましたし、理事長ともなればそれはもう物凄い剣幕で怒ってきたり……」


「え? お前理事長には……ああ、そうか。そん時は知るわけがねぇか」


「?」


 ぽかんとした顔で見つめられたが、先生の言っていることの意味がわからず、私も顔をぽかんとさせた。


「安心しろ。理事長はあんな鬼みてぇに……いや、鬼……ああ、いや、うん。怒ってこねぇよ。……生徒相手には」


「何かあったんですか……」


 先生が急に遠い目をしたので、私は余計に心配になった。


『そう言えば理事長は見たことがない。入学式にいなかった』


「ああ、理事長はそういう堅苦しいの面倒臭がるタイプだからな。面白味の無い長話ほど反文化的なものはない、ってたまに愚痴られる」


「はんぶんかてき……」


 何だかよくわからない単語が出てきたが、長々と説教される心配はないのかと思うと少し安心する。だって私は私が荒らした分は綺麗にしようとしたし……。結局はアマノさんが元に戻したけど……。


「つまらない話を聞かされても退屈だから嫌だし、退屈そうな顔を見ながら話をするのも嫌だろう? だからそういう話は手短にするのが、双方にとっていいことだとは思わないか?」


「確かにそうですね。……って、先生。今腹話術でもしましたか?」


 先生の口がつぐまれたまま幼い子供の声が聴こえてきた。よくよく考えたら声も先生のものとは違う気がする。


 先生が渋い顔をすると、また口を開かずに喋りだした。


「やっと気がついたか根音ねおと。何を隠そう私は腹話術が大の得意なんだ」


「こんなもの腹話術でも何でもありませんから、後ろに隠れてないで前に出てください」


 今度はちゃんと口を開けて先生が喋ると、先生はすっと横に移動した。するとその後ろから先生よりも小さい、十歳程度の女の子が現れた。


(あれ? この子、どこかで……?)


「なんだよエリクサー。すぐ種明かししたらつまらないだろう」


 女の子は怒ったようにぷくりと頬を膨らませ、先生を睨みつけた。


「つまらないイタズラをする方が悪いんじゃありませんか」


 見るからに年下の女の子相手に敬語を使う先生。はて何事かと、先程まで騒いでいた彗とあめも静かになって小学生二人を注視する。


「面白いと思ったんだけどな~。ま、バレてしまっては仕方がない。注目も浴びてしまったし、早速本題に入るか」


 女の子は私達を見回し、にっこりと笑った。


(ん?)


「皆の衆、昨日はお疲れ様だったな。あと合格おめでとう。私はこの学園の理事長を務める、鬼崎ハツエだ」


「「「「……」」」」


 沈黙の後、四人一斉に驚いた。


「「「『理事長⁉』」」」

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