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第38話 最後の勝負

 残り二十分程のところで、なんとか洞窟の外に出た。洞窟内は涼しかったが、外に出るとむわっとした夏の空気が押し寄せてくる。


「うっわ! あっつ! 眩し!」


 皆が口々にそう言っていると、上空から笑い声が聴こえてきた。


〝あーっはっはっは! 皆無事に戻ってきたようだの。ご苦労ご苦労! 説得に難航して時間切れになるのではないかと思っておったが……いらぬ心配だったようだ。舞理や。良い魔法の力を得たの〟


 アマノさんが身体を震わせながら私の後ろを見やった。どうやら説得も何もせずにあめを連れて来たことはお見通しのようだ。


「はい。誰かを操るなんて……と始めは思ってましたが、こういう時に便利なんだなってことがわかりました」


『舞理も今や、立派な問題児』


「うん……」


 そこを指摘されると、やっぱりまだ後ろめたい気分になる。


〝くく。それでこそあやつの見込んだ魔女よのぅ。して、舞理よ。これからどうする。わしを捕らえて試験を終わらせるか〟


 終了時間は刻一刻と迫っている。早く捕まえて終わらせねばならない。しかし、その前にやらねばならないことがある。


「そうしたいのはやまやまですが、その前に……」


「っ⁉」


 隣で未琉が驚いたように息を呑んだが、私は構わずにバングルに手を添えた。シンプルなデザインだったはずのバングルは、いつの間にか色々な模様がついていた。魔法を使うたびに模様が増える仕組みにでもなっているのだろう。


「栗枝先生を呼びます!」


 私はバングルを強く握った。すると即座に私の周りで盾の魔法が展開された。何か強い力で守られている。そんな感触のする魔法だった。そしてこれもこの魔法の効果なのか、私の魔法が無効化され、彗とあめの拘束が解けた。


「舞理さん⁉ 何故今それを⁉」


「だってこれしか先生を呼ぶ方法がわからなくって!」


 慌てたような声を出した彗に対し、私は申し訳なく思いながら謝罪の意を込めて手を合わせた。


「ほ~い、来たぞ~。……って、火野屋もいるのか⁉」


 どこからともなく栗枝先生が現れた。先生は今朝いなかったはずのあめの姿を見て驚いて目を見開いた。


「先生! バング——」


「あーあーあー! なんとなく状況は察したが、根音ねおとはこれで棄権扱いだから発言権はねぇぞ。龍神たつかみ薬袋みないのどっちかが説明しろ」


 私が言いかけた言葉と先生の発言からすぐに何をすべきか悟った未琉が、素早くタブレット端末に指を走らせた。


『今からあめにバングルをつければ、試験を受けたことになる?』


「ああ。まあ試験合格の基準を満たさなければ不合格にはなるがな」


『先生はあめ用のバングルを所持している?』


「ああ」


『ください』


 簡素なやり取りの末、先生は未琉にバングルを手渡し、未琉はそれをあめの腕につけた。


「んで、これをつけたあたしは何をすればいいんだ?」


 試験の説明を聞いていないからか、あめは怪訝な顔でバングルを眺めまわした。


あめが魔法を使ってアマノさんを捕まえて。そうすれば合格条件を満たせる』


「……いいのか、あたしで。爆発させることしか能がねぇんだぞ。……ってか捕獲対象あのおっさんなのか⁉ え⁉ あの龍を捕まえろとか正気か⁉」


『大丈夫。これを使えば問題ないはず。衝撃を加えれば発動する』


 そう言って未琉はあめに何かを手渡す。未琉お手製の魔法薬の類いだろう。


「ふぅん? まあ、そこまでするなら……捕まえてやろうじゃねぇかよ!」


 愉快そうに唇の端を吊り上げさせ、あめが駆けだした。同時に龍も飛翔する。


「おいおっさん! 空に逃げるとかヒキョーだぞ!」


〝くく。空も飛べぬ人間が悪いのよ〟


「クソッ。こうなったら……!」


 あめが自分の足元で爆発を起こし、その勢いを利用して空に飛んだ。


(凄い……)


 確かにあめは爆発させたり、何かを燃やしたりすることしかできないのかもしれない。でも、それだって使い道はいくらでもある。


「が……頑張れー! あめー!」


 何度も爆発を起こしてんを駆けるあめに向け、私は腹の底から吐き出すように声援を送った。


『もう少しで射程距離に入る! あめならできる!』


 未琉も端末の音量を最大限にまで上げて声援を送る。


「わざわざ引っ張り出してきたんですから、失敗したら許しませんからね!」


 しんどそうにしている彗も、気力を振り絞って叫ぶ。


「はっ。それくらい、わかってる……よ!」


 あめが何もない空中で、勢いよく跳躍した。太陽を覆い隠す程に高く飛び、未琉から渡されたものを掲げる。


 そして——。


「何が起きるかわかんねぇけど、とにかくいくぜ!」


 手に持ったそれを、龍に向けて投げる。人差し指の銃口をそれに向け撃つ真似をすると、爆発したそれから大量の黒い何かが飛び出した。


〝何だ? 墨汁でも飛び散らせた……か……ッ⁉〟


 何かに気づいた龍が、絶叫を上げた。その咆哮は凄まじく、鼓膜が破れるかと思う程だった。


「何? 何やったの未琉?」


 両手で耳を抑えながら未琉の元まで行くと、同じく耳を塞いでいた未琉がニヤリと笑って人差し指で空を指した。つられるように上を見ると、ようやく黒い何かの正体が肉眼で確認できるほど近づいてきていた。


「ひっ……!」


「きゃああああ⁉ 何ですかこれ!」


「おい馬鹿か薬袋みない! ムカデの雨を降らせるとか正気か⁉」


 そう。上空で弾け飛び、大量に降ってきているのはムカデだった。


『龍の苦手なものを調べておいて正解だった。万が一の時のために爆発ムカデ装置を作っておいたのも大正解』


 誇らしそうに胸を張りピースまでする未琉。私達の周りにムカデが落ちないように防御魔法を展開してくれていなかったら、張り倒しているところだ。


「何でこんなの作ってるって教えてくれなかったの⁉」


『だって、教えたら止めるでしょ』


「そうだよ‼」


 私はぶるぶると震える拳を握りしめながら、唇を尖らせる未琉を睨んだ。


「まさかですけど未琉さん。わたくし達全員分の弱点を把握し、あのようなおぞましいものを作る気ですか?」


 彗の質問に未琉は、明後日の方向に顔を背けることで返答とした。こいつ、作る気だ。いや、もしかしたら既に作っているのかもしれない。まったくもって油断ならないマッドサイエンティストである。


 私達が騒いでいる間も、龍は暴れまわっていた。


〝ぎゃああああ! わしの身体にムカデがあああああ! ひいっ! 鱗の隙間に潜り込みおった……!〟


「んなでっけぇナリしてムカデが苦手とか、案外可愛いとこあんだな、おっさん!」


〝くく……。わしの魅力に気づいてしまったか……。そう。わしはかっこいいだけでなく可愛い一面もあるのだ……。って、おぬしいつの間にわしの背に⁉〟


「今!」


 いつの間にかあめが龍の背中に降り立っていた。大量のムカデをものともせず、暴れ狂う龍にしがみつき頭部へと進んでいく。


〝おぬし、こんなにムカデがおるのに悲鳴の一つもあげんのか⁉〟


「はあ? んなもん燃やせばすむ話だろ」


〝痛っ!〟


 空中では人対龍の攻防が繰り広げられていた。場所的にも、種族的にも、普通は龍が優勢であろう。


 しかし今は、今だけは、人の、あめの独断場と化していた。


「いやぁ、全身ムカデだらけだな、おっさん。流石に見た目が気持ちわりぃから、全部燃やしてやんよ」


〝おぬしのそれは爆発であろおおおおお!〟


 龍の咆哮をかき消すように、空中で爆発音が連続した。あまりにも回数が多いものだから、その一帯が黒い煙に覆われて、何も見えなくなった。


(どうなったんだろう……)


 地上組の皆で固唾を呑んで見守っていると、やがて黒煙の下から二人分の人影が落ちるのが見えた。


「っ!」


 彗が落下地点まで駆け、大きな水の塊を作り出した。が、何故かすぐ蒸発した。


「えっ?」


「うわっ⁉」


「へぶっ⁉」


 ばんっ! どしんっ! と大きな音を立て、空にいた二人が地面に落ちた。しかも盾にしようとしたのか、人間体に変化したアマノさんが下敷きになっている。


(うわあ……痛そう……)


 はらはらしながら見守っていると、あめががばりと起き上がった。


「おい! 何であたしの華麗な着地計画を台無しにしてくれてんだよ!」


「わ、わたくしがあなた方を受け止めようとしたのに、あなたが邪魔をしたのではありませんか!」


「はあ⁉ 誰もてめぇにんなこと頼んでねぇよ!」


「頼んだ頼んでないの問題ではございません!」


『そこまで』


 喧嘩をし始めた彗とあめの間に未琉が割って入り、二人を平手打ちした。目を丸くさせた二人を無視し、未琉は素早く端末を操作する。


『今はこれが先』


 端末を掲げると、そこからひゅるひゅると音を立てて何かが飛び上がり、それは上空で花を咲かせた。花火だ。


 それに続いて遠くからチャイムの音が聴こえてきた。四時間目の授業終了――試験終了の合図を知らせる音だ。


 私ははっとして隣にいる先生を見た。すると先生は満足そうな笑みを見せた。


「合格だ」

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