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第37話 四人揃ったⅡ科1年B組

 全員マントを着用していたから濡れはしなかったものの、場の空気は一気に沈んだ。濡れはしないだけで、それなりの衝撃は受けるのだ。


「おいおい。せっかくここまで来てやったってのに、この仕打ちはねぇだろ!」


 早速悪態をついたあめを、地面に座り込んだ彗がギロリと睨みつけた。


「あなたがこんなところに引きこもっているのがそもそもの原因でしょう」


「はあ? つーか何でお前らはこんなとこに来てんだよ。試験中だろ。サボってんじゃねぇよ!」


「サボっているのはそちらでしょう! まったく。何のためにわたくしがここまで来たのかも知らずに文句ばかり……」


「ああ⁉」


『まあまあ。痴話喧嘩はそこまでにして』


「このどこが痴話喧嘩だよ!」


「このどこが痴話喧嘩ですか!」


 声が揃ったところで、二人共押し黙った。


 彗に任せていては駄目だと気づき、私はあめと向き合った。


あめ。あのね、皆でここに来たのは、私がそうしたかったからなの」


「……お前が?」


 彗を相手にする時よりも幾分か和らいだ表情で、あめは私を見返した。


「うん。皆がどう思ってるのかは知らないし、知ったことじゃないけど、私にとっては、未琉と、彗さんと、そしてあめが初めてできた魔法使いの友達なの。だから、この四人で一緒に卒業まで一緒にいたい」


「あっそ。でもあたしには関係ないね。あたしなんか、初池に入学したのがそもそもの間違いだったんだ……。ワンパターンな魔法しか使えないくせに、強がって……」


 あめが悔しそうに唇を噛んだ。あめは色々な想いがあって、今ここにいるのだ。でも……。


「ねえ、あめ。言ったよね。知ったことじゃない、って。私は、私の皆で一緒に卒業までいたいっていうわがままのために、ここまで来たの。あめの意見を素直に聞く気はないよ」


「……はあ?」


「それに、ここで長話をする気もない。……未琉、今何時? って言うか試験終了まであとどのくらいある?」


 はっと息を呑む音が聴こえた。それは未琉のものだったかもしれないし、彗のものでもあったかもしれない。


『終了まであと四十分。急がないと不味い』


「ありがとう。ってことだから、急ぐよ!」


「だから! あたしは行かない! こんな中途半端なままじゃ——」


「だから‼ 私は意見を聞く気はないって言ってるの! だって、私の魔法なら無理矢理連れていけるからね!」


「あっ、お前! ……うぐ」


 私は蔓で素早くあめを巻き付けた。あめは抜け出そうともがき、無駄だと悟ると蔓を燃やそうとしたが、すぐに彗が水をかけて火を消した。


「どうも強情なのはわたくし達だけではないようですよ。大人しく舞理さんの言うことを聞きましょう、あめさん。でなければ今日の夕飯は抜きです」


「くっ……。それを言われたら言うことを聞くしかねぇじゃねぇかよ……!」


(本当にご飯の話になると素直だな……)


 謎の素直さに関心を寄せたが、私はすぐに頭を切り替えた。早くここから出なければ。


「それじゃあ皆。すぐにここから出る……あ。彗さんは急ぐの難しそう、だよね」


「ええ、お恥ずかしい話ですが、歩くのも精一杯です」


「じゃあ、彗さんも引っ張ってくね」


「……え」


 私はもう一本蔓を伸ばし、彗をぐるぐる巻きにした。


「これでよし、と。行こう、未琉」


『待って。これ写真撮っときたい』


 ぱしゃり、とタブレット端末で彗と天を撮影する未琉。何枚か撮って、満足そうな表情を浮かべた。


『お待たせ。行こう』


「うん!」


「なあ、これ何の嫌がらせだ?」


「ふん。勝手にここに居座り続けた罰です」


「じゃあお前は何の罰でそんなことになってんだよ……」


 不平不満を漏らし続ける二人をよそに、私は未琉と並んで足早に出口を目指した。

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