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第33話 試験開始!

「なっ……何故あなたがここにいるのですか! どうして試験で捕獲対象となる魔物なんかの役目を、あなたが……!」


 当然のように疑問と怒りをあらわにする彗。怒り心頭に発しすぎてアマノさん目掛けて水滴がびゅんびゅん飛んでいる。


 しかしこれを全く意に介さないのがアマノさんである。またしても高笑いしながら、水滴を水蒸気へと変えてゆく。


「わしの可愛い彗が、遂に初池に入学したのだ。日々学校でうまくやれておるか、心配するのが親心というものであろう? だからあやつに頼んで、わしが彗の成長具合を確かめられるように手回ししてもらったのだ。ああ、もちろんおぬし達がこの場所で試験を行うのもわしがそうさせたのだ。はっはっは!」


たちの悪い親バカを発揮させないでください!」


 彗は特大の水の塊をアマノさんにぶちかましたがなんのその。アマノさんはそれすらも一瞬で消してしまった。何なんだこの親子(?)喧嘩は。


「落ち着け、龍神たつかみ。理由は滅茶苦茶だが、アマノさんはちゃんと試験として成り立つように行動する、と約束している」


「そうは言っても、誰もこの方相手に勝てるわけがないではありませんか!」


「彗よ、安心すよがよい。手加減くらい、わしにもできる」


「わたくしが手加減されるのが好きではないと知っているでしょう!」


「ああ、もちろん知っておるぞ。だから手加減をするのだ。おぬしの怒った顔も、それはそれは可愛らしいからのぅ」


「ッ‼」


『落ち着いて、彗』


 またも何か攻撃しようとした彗を、未琉が止めさせた。


『アマノさんの言葉に耳を貸しては駄目。きっとそうやってあなたの体力を消耗させようとしているのかも』


「っ……。……そうですね。こんなところで使ってしまうのはもったいないことです。お見苦しいところをお見せしてしまいました」


「おやおや。わしとしてはもう少し遊びたかったんだがの。ところで恵里久よ。試験はいつ始めればよいのだ?」


「アマノさんの準備がよろしければ、私が開始の合図を出します」


「ふむ。わしはいつでも準備万端だ」


「わかりました。お前らも準備はいいな?」


 先生のそこ一言で、瞬時に空気が緊迫したものに変わった。今から試験が始まる。私達は緊張した面持ちで頷いた。


「はい」


「大丈夫です」


『いつでも』


「よし。それじゃあ、試験開始!」



 ズバンッ!



「えっ……?」


「っ……!」


 試験開始の合図と共に、彗が木に叩きつけられた。そのまま地面に落ちた彗は、ピクリとも動かない。


「ほれ、これだから手加減をせねばならんというのに。ああ、安心せい。死んではおらぬ。首を捻るだけで死ぬか弱き生き物を殺すのは可哀想だからのぅ。では、わしは捕まらんように逃げるとするかの」


 アマノさんは先程までと同じように、世間話でもするような気楽さでそんなことを言う。そして身体をほぐすような動作をすると、徐々に姿が変化していった。始めは段々身体が大きくなっているのかと思った。だが、それだけではない。太く、長くなっていっている。顔は人のそれとは異なるものに変化し、皮膚には鱗が生えだした。


(これ、もしかして……)


 私はその変化に圧倒され、恐怖し、じりじりと後ずさりした。本能が警鐘を鳴らしている。〝これ〟に敵う訳がない。


〝おぬしらの前でこの姿を見せるのは初めてだの。どうだ? わし本来の姿は〟


 日の光を浴びて白銀に輝く鱗。人間体の時よりも長く、頑丈そうな二本の角。長くて立派な髭まで生えている。そしてその身体は一体何メートルあるのだろう。


 西洋のそれとは違い、翼が無くとも空を飛べる伝説の生き物。


 ここの神社で崇め奉られている神。


 龍だ。




 龍の姿に変化したアマノさんはそのまま上空へ飛んだ。私と未琉は暫くの間呆気に取られていたが、彗の呻き声が聴こえてきたことで我に返った。


「彗さん、大丈夫⁉」


 私は彗に駆け寄り身体を揺さぶろうとしたが、未琉に止められた。


『変に触らないで。どこにどんな怪我を負っているかわからないから。今から身体の状態をチェックする』


 そう言って未琉がタブレット端末を操作している間、私は居ても立っても居られなくて栗枝先生に質問した。


「先生。もし試験が終わるまで彗さんが気を失ったままだったら……」


「お前らが龍神を放置してアマノさんを捕まえても不合格になるだけだな。龍神はまだ魔法を使っていないから。だが、薬袋みないの持っている魔法薬の中に効果的なものがあれば回復する可能性はある」


「でも、効果的なものがなかったら……」


 はあ、と先生は嘆息ひとつ。


「物事を悪い方にばかり考えるな。お前は自分の力を忘れたのか」


「……え。もしかして、それ、私が彗さんを操って彗さんに魔法を使わせれば、彗さんが魔法を使ったことになる、って寸法ですか」


「バングルがそう認識すれば、の話だがな。まあ、前例が無いってわけでもねぇんだ」


 前例、あるんだ。


 しかし私達の会話を聞いていた未琉が反対意見を出してきた。


『今彗の身体を操るのは絶対駄目。治るものも治らなくなる。操るとしても身体を回復させてから』


「それってどれくらいかかる?」


『不明。でも、必ず一時間以内に終わらせてみせる。だから、それまで舞理はアマノさんを見失わないように追いかけていて』


「え、わ、私一人で……?」


『他に誰がいるの。先生が試験を手伝うことは不可能』


 先生をちらりと見ると、神妙な面持ちで頷いた。


 これはもう、腹を括るしかない。


「わかった。一時間……頑張ってみる」


『グッドラック』


 私と未琉も頷き合い、私は上空を優雅に飛ぶアマノさんの姿を追った。




 上ばかり見ているせいで木々にぶつかりそうになりながら、私は森の中を進んだ。葉が沢山生い茂っているせいで、アマノさんの姿を見失いそうになる。


〝まさか昨日立てた作戦が敵に筒抜けだったなんてね。誰も相手があの神様とは知らなかったとはいえ、とんだ災難ねぇ。あ、右に避けると根っこに躓くわよ〟


「うわっ……と」


 危ない危ない。根っこに躓くところだった。


〝……躓いたわよね?〟


「何をおっしゃいますやら」


 その後も妖精の注意喚起を聞きながらアマノさんの姿を追う。アマノさんはまるで私をどこかに誘導するかのように、私が追跡できるギリギリの速さで飛んでいる。


(何か作戦でもあるのかな……)


 昨日からアマノさんには聞きたいことが沢山ある。もしかしたらアマノさんは〝その場所〟に私を連れていこうとしているのではないか。そんな考えが頭を過る。


 あめのいる場所に。


 昨日私達が立てた作戦は、どれも私、彗、未琉の三人で実行するものだった。あめを探しに行く余裕なんてものは含まれていない。だからアマノさんはあめも試験に含められるように、初手で彗に奇襲を仕掛けたのではないだろうか。

彗があんなことになれば、当然放っておくわけにはいかない。だが、魔物も放っておけない。だから彗と魔法薬を沢山持っている未琉の足を引き留め、あめを案じていた私に魔物――アマノさんを追いかけさせる。そしてあめを探し出すことができ、彗も時間内に回復し、最終的に全員が魔法を使って魔物を捕獲できれば、晴れて四人で試験合格となる。


(そういうこと……なのか?)


 もちろんこれは私の想像でしかない。アマノさんの真意は他にあるかもしれない。もしかしたら、ただ単に私達をピンチに陥らせたいだけの可能性だってある。誰かが戦闘不能になった場合の作戦は生憎立てていなかった。作戦会議を聞いていたアマノさんには、そんな作戦の穴をつくことくらい造作もないはずだ。


(でも……)


 理由はどうあれ、アマノさんを捕まえなくては気が済まない。


「ねえ妖精さん。蔓ってあんな上まで伸ばせられるかな」


〝どうかしらねぇ。伸ばすだけならできないこともないでしょうけど、あの神様には届かないかもしれないわ。簡単に捕まってくれるわけがないもの〟


「だよね……。でも、ものは試しに……」


 移動しながら、私は杖を掲げた。


「とりあえず……天まで伸びろぉ!」


 しゅるしゅると音を立てて、蔓が空へと勢いよく伸びていく。際限なしに伸びていくかと思われたが、アマノさんまでもう少しといったところで伸びた分が霧のように消え去った。


「嘘ぉ⁉」


 今までこんな風に消えたことはなかった。私の命令に応じて動いていたのが、私の意思とは無関係に消滅した。


「あの人手加減する気あるの⁉」


〝わたしに聞かないでよ……。って、こっちに来るわよ⁉〟


 はっと空を見上げれば、段々とアマノさんの姿が大きくなってきているのが見えた。距離が迫ってきている。私は杖を強く握りしめた。


(どうしようどうしよう。私一人でどうすればいいんだろう)


〝落ち着きなさいな。わたしもいるわよ〟


「うん……」


 そうは言われても不安なものは不安だ。未知の存在相手にどうすればいいのか、さっぱりわからない。


 アマノさんは木の上まで降りてきた。今の巨体では、森の中で地面に足をつけるのは不可能に近い。


〝ようやくわしに向けて魔法を放ってきたの、舞理。いつ攻撃してくるか、うずうずしておったんだぞ〟


 いつもよりも響く声でアマノさんが言った。私は早鐘を打つ心臓をどうにか抑えながら、アマノさんと対峙した。


「アマノさん……。どうして、彗さんを……」


〝彗を真っ先に倒した理由が知りたいか? くく。おぬしはもう自分の中で答えを見つけておるであろう。それよりも、他に知りたいことがあるのではないかの〟


「……。あめは、どこにいますか」


〝ああ、そうだとも。おぬしが今一番聞くべきはそれだ。だがそれに対する回答は、昨日既に述べておる。覚えておるかの?〟


「……」


 昨日、あめのことを訊ねたときに、アマノさんが言っていたこと。それは……。


「角を、ひっつかむ……ですか」


〝その通り。わしの角を掴むことができたら、あの娘の居場所を教えてやろう〟


「やっぱり知ってるんですね、あめの居場所を」


〝おお、これは口が滑ってしもうた。だがよかろう。彗が回復する前に、わしの角を掴んでみせい。彗が来てしまっては、あの娘のところに行く時間など与えてはくれんからの。さあ、舞理よ。おぬしはわしの角を掴めるかの〟


 嘲笑うかのように、アマノさんは息を吐いた。しゅうしゅうと音がする。私も深呼吸をして、杖を構えた。


「アマノさん……。あめの居場所を、教えてもらいますよ」

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