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修理屋の主人







ウィーン

 朝の通勤ラッシュ前、いつもよりも早い時間に俺は家に出て、出勤前に時計修理屋の店に入った。

 中は冷房が効いていて、暑い夏の湿気から一時的に休息を得た。

 店の中はアンティークな感じで、様々な時計が壁に飾ってある。その奥には眼鏡をかけた優しそうな店主が座っていた。

 店主はこちらを振り向き優しい笑顔で見つめてきた。

 俺はそもそも時計修理屋に行ったことがなかったので、レトロな感じもあいまって新鮮な感じがした。

 そんな空気を感じながら、俺は店主の元へと歩き、声をかける。

「すみません。いまこの時計の修理を頼みたくて、お願いできますか?」

 俺が声をかけると、修理屋の店主はこちらを見て、顎に指をあてて、こう言う。

「いらっしゃいませ。んー。。わかりました。うちで修理できるか分からないけれど、錆び取りとかはしてみます。部品が欠けていた場合、うちに取り扱っている部品なら治せると思います。」

 そういうと、俺は頭を下げ、真摯にこの時計の修理を任せますと頼む。俺が向き合おうとしている世界で手に入れた大事な時計だ。それにこの時計には何かがある気がする。

 そんなことを思っていると、店主は優しい笑顔で、任せてくださいと言ってくれた。

 俺の真摯な気持ちが伝わったのか店主もそれなりに、真剣に取り組んでくれるのだろう。

 俺はそれに安心して、一礼した後、店主に背を向け、仕事先へと向かうことにした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「星跨くん。頼んだ資料、提出期限今日だけど間に合いそう?」

 俺は涼しいオフィスの中、ビルの20階に位置する社内で、直属の上司から以前から頼まれていた書類について言及される。

 普段やる気のない俺だったが、たまたま内容も多いことだったので、家でも進めていて、資料の完成はもう終わりかけに近かった。

 俺の仕事は、基本的にコンサルを業務にしており、さまざまな企業から相談などを受けるため、定期的にこうやって資料の作成をしなければいけない。

 だが、あまり仕事も好きと言うよりは、なんとなくでこなしていることが多かったが、別に出来も悪いということもなかったので、昇格もなく、専門学校を出てから2年近くこの仕事に従事してきた。仕事のためにもっと尽力すべきだとは分かってはいるものの、何かに真剣に取り組めるほど、真面目に仕事を取り組めてはいなかった。

 そんなこんなで、俺は資料の報告をする。

「はい。もう終わりかけなので昼過ぎには完成すると思います。」

 

 そういうと上司は、了解っ。と一言だけいい、俺はそれを聞いたので、自分の机に戻り資料の作成を再開した。




ー午後6時ー


 気がつくと、外は暗くなりかけており、夕焼け空も夜空へと変わろうとし始めていた。

 仕事に集中していた俺は、長いようで長い仕事を終えて、帰り支度をしていた。やっぱり仕事終わりは謎の開放感がある。緊張していた肩の荷が降りるっていうか。

 すると、同期の同僚が俺の机に向かってきて、肩に腕を回してきた。

「なぁ、帰り飲みに行こうぜ。繋。」

 仕事後の恒例のお誘いだ。いつもこいつは俺を仕事後に飲みに誘ってくる。疲れているにも関わらずそんな俺の顔色など気にせず無邪気に明るく誘ってくるんだ。

 こいつとは、仕事を始めた時からの同期で社内で唯一仲良くしている友達の一人だ。友達付き合いの得意じゃない俺でもこいつとは気が合って、よくプライベートでも遊びに行く仲にまで進展している。

 俺はこいつに声をかけられ、帰ろうとしていたカバンを机に乗せて、仕事終わりのお誘いに返事をする。

「あぁ、悪い。今日ちょっと用事あって、また今度いこーや。」

 同期様の一世一代のプロポーズをあっさり断ると、同期は不服そうな顔をしてこう言う。

「なんだよ。用事って。珍しいな。普段ならいつも飲みに向かうお前が断る用事って、まさか女か??」

「あぁ、そんな感じかな。」

 俺はいつも女っ気がないこともあり、少しかぶれた感じでかっこをつけ、顔を少し上に上げて、下目遣いに言った。

 そういうと、同期は不服ながらに、笑ってこういう。

「まぁ、いままで女っけ一つなかったお前にやっと春が来たんだ。陰ながら応援してるぞ。童貞くん。」

「誰が、童貞だ。w」

 童貞の俺は図星を突かれ、グサっとはきたものの、応援してくれる友達に少し照れ臭さを感じたから、笑って誤魔化すことにした。

 そうして、俺は友達とを後にして朝行った時計修理屋へと向かう事にした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 俺は冬の寒い外気の中、手がかじかむのを感じながら、少し赤く腫れた指を自分の吐息で温めようと試みている。

(ハァー・・・)

 指を伝って白く蒸発した息が、指の隙間をすり抜けていき、白く曇った視界を開けるように空へと霧散していく。

 辺り一面は、夜になっており、都会の街灯や建物の光が綺麗に冬の景色を照らしている。

 歩道には街路樹がライトアップされており、カップルたちが歩いているのもあり、クリスマスの雰囲気をより一層感じさせるような光景が目に入る。だが、俺には誰かと過ごす予定もないので、少し寂しさとため息が出そうな虚しさを感じた。


(はぁ、どうせ俺はクリぼっちだよ)

 なぜカップルたちはよりにもよってクリスマスに群がるのだろうか。誰がこんな、行事。。イェスキリストの祝いなのに、俺は何も祝われている気がしない。 彼女一つできてない俺はそんなにブサイクなのだろうか。いや、そんなはずはない。実はこう見えて、何度か告白はされているのだ。ただ、なぜかその告白を受け取る気になれなくて、何かが引っかかったまま気づいたら22歳童貞を拗らせていた。早く捨ててもよかったのだが、なぜか捨てたらダメな気がした。言い訳じゃないぞ、これは。

 そんな悲しき童貞(22歳)は歩いていると、今朝に行った時計屋の看板が光を灯しているのが見えてくる。 俺は寂しさや冬の寒さもあり、余計店内が暖かな空間の様に映って見える。

 俺はその寂しさから逃げ込むように店内へと足を踏み入れた。

ウィーン


 ブワッと店内のエアコンの暖かさが俺を包み込む。寒さから解放されたことで、自然と肩に入っていた力が抜ける。店内は夜になっても相変わらずアンティークな雰囲気を漂わせており、外の暗さとのコントラストで、より一層朝よりも違う世界を感じさせる様なレトロな雰囲気が増していた。

 俺は入ってすぐにホォっと息を吐くと、店の奥に座っている店主が俺を見るなり、いきなり早々とこちらに向かってきた。店主は朝から同じ人で変わりない。 もしかしたら、この店はこの人一人で営んでいるのだろうか。そんなことを思っていると、やはり店主はこちらへ向かってきて、明らかに俺に何かを伝えようとしているように見える。

 すると、予想通り店主は俺に声をかけてくる。

「あ、星跨さん!朝はご来店ありがとうございました。あの、時計の話で少し話したいことがあるのですが、、」

 店主はそういうと、俺は何か問題でもあったのだろうかと少し不安にかられた。やはり夢の世界のものだ。直すことは出来ないのだろうか。そんな不安に駆られていると、店主は言葉を続ける。

「この時計なのですが、錆び取りはしたのですが、中の構造を見てみると、全然見たことのない仕組みで出来ていて、今まで修理してきたものとは大きく異なっていました。ただ、私なりに構造を解釈してみたんですが、おそらく部品の一つの歯車が抜け落ちているのだと思います。その歯車の形に合いそうなものはこの店にはなく、そもそもこの時計自体、電池で動く様には思えなかったんですよ。」

 俺は、話を聞いて、電池で動かないと言われ、修理がやはりできないのかと絶望に駆られそうになった。 自信のなさそうな、なるほど、、という弱々しい相槌をこぼすと、そんな俺を見つめながら、店主は微笑みかけながら言葉を続けた。

「ただ、この歯車の形自体は製造されていました。かなり希少なもので、おそらく日本には取り扱いがないんです。ただ、アメリカでかなり昔の時計に使われていた歯車の形と近似しています。だから、お取り寄せができれば、いいのですが、おそらく歯車の製造も終了しているので、そんなすぐに輸入できるとも思えませんし、おそらく日本での入手は不可能かもしれません。ただ、アメリカに行けば入手は可能かもしれません。かなり昔の時計なので、普通の一般の時計修理屋では手に入らないのですが、アメリカの下町の方に、そういう製造を終えた時計の部品だけを取り扱っている変わった時計屋を知っているので、そこまで行けば手に入るかもしれません。。」

 店主がそう告げると、俺は消えかけていた望みに少し火がついた気がした。

 簡単に手に入る物じゃないのは分かっていたが、まだ望みがあるのなら俺はそれに全振りで一か八かでかけてみるしかない。

 ここで、なら仕方ないと一蹴することもできるが、俺はあの手紙に書かれていたことを確かめなければ、何もこの先、真剣に向き合えないと思う。

「アメリカか、、」

 俺はまさかの国外を告げられ、かなり修理への道のりが長いことに、少し辟易しそうになった。だが、ここで止まる事は俺にはできなかった。

「分かりました。なら、アメリカに行ってその部品を手に入れるしかないです。その修理屋の住所を教えてください。」

 俺はあまりにも自分が盲目であることに自覚したが、もうこんなところで止まる気はなかった。たかが時計一つと思うかもしれないが、俺にとっては何か心をずっと引き留めていたものを、やっと見つけることが出来る気がしていた。

 すると店主はこちらの答えに、驚きを見せ、嘘だろと言わんばかりに質問をしてきた。

「え、、!本当に行くんですか?勧めた私がこんな事言うのもあれですが、かなりお金もかかりますし、時計なら最悪別の物でも、、。こんなのは野暮かもしれませんが、その時計にそれ程の思い入れがあるのですか?」

 そう言われると俺は少し黙ってから、目をゆっくりと閉じ、誰か分からない彼女の声が頭に思い浮かぶ。



「つなぐ、、、、どうかこの世界を救って、、いつか夢の記憶が消えるかもしれないけれど、目が覚めたら、この声を忘れてしまうかもしれないけれど、覚えてて。!私は繋のこと、愛してる。お願い。。世界を、私を、、助けて。。」

 俺は記憶に残っているはずのない声を心で受け止めて、ゆっくりと目を開けて言った。


「はい。大事な時計なんです。変えの効かない大事な時計なんです。だから、私はこの時計のためなら努力なんて惜しみません。」

 そう店主の目を見つめて言うと、店主は俺の真摯さを受け取って、少し頭をさすりながらこう答えた。

「すみません。野暮な質問でしたね。わかりました。私もその時計が治せるように、全力で応援します。」

 そういうと、店主は机の上に置いてあるパソコンでアメリカの時計修理屋の住所を調べ上げ、俺にその店の住所を教えてくれた。

 俺はすぐに伝えられた住所を調べた。

 おそらく、その時計屋にいくには、飛行機でニューヨークまで飛び、車で5時間ほどかけて、移動しなければいけない。

 かなりお金はかかるが、手持ちと今まで貯金してきたお金も合わせると、修理代も込みで事足りるだろう。

 時計修理への道のりが出来上がると、俺は有給を使って、アメリカへ飛び立つ計画を考え始めた。










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