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二度、瞬く  作者: 19
6/6

ユメノナカ

この小説は第七話からBL要素の性描写が入りましたので、ガイドラインに従いまして途中からムーンライトノベルの方に再投稿しなおしています。続きが読みたいと思って下さった方はムーンライトの方へお願いします。再投稿後しばらくで、こちらの方は削除させて頂く予定です。ご了承下さい。

(ムーンライトでの小説目次です→http://novel18.syosetu.com/n8216l/)

「交通安全の御守りと――あと、おみくじ一回」

 

「千三百円になります」


 疲れを隠さぬダレた声で言い、貴崎は男が差し出した千円札二枚を受け取ってから、釣り銭と一緒に手元にある六角柱の形をした木箱を男に差し出す。

 木箱にはおみくじと楷書で書かれている。

 

 意気込んだ表情で男が木箱を二三度振ると、じゃらりという音と共に、棒を一本木箱が吐き出した。

「二十三番」

 男が口にした数字を聞くやいなや、隣で回転椅子に座り足元にストーブを配備してぬくぬくとしていた兄がくるりと背を向け、壁一面に並んだ小さな木造の引き出しを睨みつける。

 その間に長方形の交通安全守りを紙の袋に入れ、封をしたところで、ちょうど横からにゅっと兄の手が伸びてきて「二十三番 大吉」と書かれた短冊を渡された。


「ようお参り下さいました」

 軽く頭を下げながら男に手渡すと、男は大吉という文字を見つけて嬉しそうな顔で礼も言わずに去って行った。

 既に次の客が一万円札を握り締めてこちらに身を乗り出している。

「そこの千五百円の破魔矢を二本と、あと子供用の御守りってあるかしら? 孫に買ってやりたいのよ」

 

 一息つく間もあけずに参拝客は次から次へと絶え間なく押し寄せる。

 視界に映るだけでも十数人はいるであろう人々が、これがいい、いやあちらがいいだろうと社務所の軒先に並んだ小さな御守りや護符を指差し品定めしている。

 その賑わいが途切れることは、少なくともあと数時間はない。

 

 それもそのはず、今ここは年が明けた一月一日。

 小さな町の貧乏神社が年に一度限り、晴れ晴れしく賑わう正月元旦――らしい。

 

 更に詳しく言えば、どうやら今ここは元旦――の夢を見ている、幼馴染の夢の中なのだ。





 あと一週間で大晦日を迎えようという年の瀬の夜、貴崎は名前も知らない男に呆気なく殺されてしまった。

 死んだ日に幼馴染に吐いた暴言を詫びようと、幼馴染の――成宮冬馬の夢に数時間前に潜入したのはいいが、そこは何故か至極見覚えのある場所だった。

 砂利を踏みしめる無数の靴音。

 たくさんの笑い声。

 視界を横切り大蛇のようにうねる人の列には、時たま艶やかな振袖が混じり「あけましておめでとうございます」と背を折っている。

 夢の中とは思えぬほど、鮮やかで現実感に溢れている。


 懐かしい風景――成宮の夢の中――そこは貴崎の実家、貴崎神社の境内であった。




 夢の内容に理由などないのだろうが、何が楽しくてこの年の瀬にわざわざ正月の日の、それも貴崎の実家の古汚い神社なんぞを夢見るのか。

 おかげで貴崎は死んでまで、一年で一番嫌な家業の手伝いをさせられている。

 

 社務所の奥――客からは見えない棚の後ろで、涼しげな表情の父親が煙草をふかしている。

 死んで一日会わないだけだが懐かしく感じる。

 生前は大変世話になりましたと一言礼を言ってやりたいが、成宮の夢の中で言っても無意味だろう。


 元旦なのだから当然貴崎は社務所の軒先で、毎年恒例、袴姿で御守り売りの店番をさせられている。

 売っているのは御守りだけではない、破魔矢に護符、絵馬やおみくじ、小さい神社にしては品揃えが良く、父親の趣味なのか、ここ数年は干支の置物や掛け軸のようなものまで売っている。

 身体は社務所の中にあるとはいえ、上半身は冷たい外気にさらされているから頬の表面はひりひりと痛いし、手先はしびれている。

 立ちっぱなしだから足も痛い。

 その待遇の悪い貴崎のとなりで、ストーブ前の回転椅子を陣取り、短冊を引き出しからだして渡す係りを担当しているのが、こちらも毎年恒例、二日酔いで酒臭い、五つ歳の離れた兄貴だ。二十歳を一つばかり過ぎただけなのに毎年恒例で正月には酒臭いというのは、我が家はどういう教育方針なのか。

 ちょっと油断すると唯一の仕事を放ったらかしにして居眠りを始めるから迷惑極まりない。

 

「ようお参り下さいました」

 数え切れない程言った台詞をまた繰り返して、それほど広くない境内の奥に目を向ける。

 

 拝殿から列なった群衆の間、目を凝らさなければ分からないほどの隙間からじっと貴崎を見つめている褐色の瞳。

 こちらを怖いほどの無表情で眺めているのは、今この夢を見ている張本人――成宮冬馬だ。

 パーカー姿でポケットに手を突っ込み、手水舎の柱にもたれ掛かっては時折携帯をいじっている。


 何故幼馴染の夢の中で自分が家業の手伝いをしているのかも分からないし、その夢をみている本人が何故あんな場所から自分を眺めているのかも貴崎にはさっぱり分からない。

 とにかく貴崎は成宮の夢の中で袴姿で御守りを売り、成宮は遠くからその様子を隠れて見ているのだ。


 いっそのこと自分の方から成宮に話しかけてやろうかとも思うのだが、人の夢の中で身勝手な行動は慎むようにとユウコからきつく言われている。何でも夢を見ている人間にひどく負担がかかるのだとか。


「え、マジ? ほんとに貴崎君いんじゃん!」

 振り向くと、名前しか知らない隣のクラスの女子が連れ立って並んでいた。

「ね? だから言ったっしょ」

「うそぉ、貴崎君って神主さんなわけ?」

「ねえねえ。一番効く恋愛成就の御守り下さぁい」

 まただ。

 

 成宮の夢は実によく出来ている。

 人の夢とはこんなにも現実に忠実なのかと感心させられるほどだ。

 護符や御守りの一つ一つ、兄のだるそうな仕草、参拝客の振袖の華やかな柄まで現実世界そのもので、もちろん正月に実家の神社にクラスメイトやその友達が参拝に来るという、嫌な恒例行事まで手抜かりなく再現されている。

 

「五百円になります」

 突き放す様によそよそしく言いながら、適当な恋愛成就の御守りを紙の袋につめて渡す。

 こんな御守り効くはずがない。

 元来そうは思っていたのだが、今なら声を大にして、自信をもって言える。

 そもそも神様のご利益なんてものが本当にあるのなら、神主の息子である自分が殺されるような事はまず無いであろうし、死んで尚あの世の不手際で成仏できないなんて事もないだろう。神が存在するのなら、直接謝罪に来て頂きたいほどの不祥事なのだ。

 

「ねえ、写真撮ろ! 写真! 知美、貴崎君の隣に並びなよぉ」

「あ、私も――!」

 女子達がきゃきゃと騒ぎ始め、断りも無くシャッター音が響き始める。

 もう一度参道の方に目をやると、成宮は手水舎の柱から背中を離して、実に落ち着きのない様子でこちらを伺っていた。やや首を傾け、その表情は先ほどのまでの無表情とは違い、ずいぶんと苛立っているように見える。


 その後も貴崎は延々と続く参拝客に御守りを売り続け、成宮はその様子を遠くからずっと伺い、貴崎が客に長く話しかけられる度にその表情は曇り、何故か苛立った様子をみせていた。





「おみくじ一回」

 結局成宮が社務所にやって来たのは、参拝客が途切れ途切れになる日没前だった。

 一度境内から姿を消したと思ったら、近くのコンビニに寄ってきたらしくビニール袋を手にぶら下げて、のこのこと貴崎の前に現れた。

 やっとか――。

 夢の中とはいえ、大嫌いな家業の手伝いを年に二度もさせられるのはご免だ。


「お前さあ――何してたんだよ」

 貴崎が言うと、成宮は首を傾げる。

「何って……今来たところだけど?」

 嘘付け。

 二時間も人の事をストーカーよろしく睨みつけておきながら、よくもそんな嘘が言えたものだ。

「あ、コンビニ寄って来たんだ。差し入れ買って来たんだけど、今時間ある?」

 貴崎が睨みつけるのも気にせず、さも今来ましたと言わんばかりに惚けて、コンビニの袋を胸の高さに持ち上げ成宮は言った。

 

 壁の掛け時計を見ると夕方の四時二十五分。

 同時に時計を見上げた兄が、嫌そうに「五時までな」と売り手交代を引き受けて立ち上がった。


「よかった」 

 そう笑って、幼馴染は小銭を差し出した。

 寒さにしびれる手で受け取ると、百円玉が二枚転がる。

「おみくじは一回百円。そこに書いてあんだろ」

 百円玉を一枚返そうと手を伸ばすと、入れ違いに伸びてきた成宮の手がおみくじの木箱を取り去って行った。

「あ、それ二人分。貴崎も引きなよ」

 言いながら、じゃらりと大きく木箱を振る。

「いや、いいよ」

「あ。四十四番だって」

 貴崎を眺めては苛立つ表情を見せていた顔が嘘のように、成宮は楽しそうだった。


 差し伸べた手の行方が定まらず、面倒臭くなって返そうと握り締めていた百円玉をつり銭用の小銭箱へ入れ、貴崎もおみくじの木箱を振った。

 ――七番。

 番号を隣に伝えると、兄は面白そうに鼻で笑ってから四十四番と七番の紙を差し出した。

 少しムッとしながら二枚受け取り、成宮に一枚を渡す。

 成宮の四十四番は小吉。

 貴崎の七番は――紙を見なくても分かる。言わずと知れた大凶だ。

 おみくじ五十本の内、唯一の大凶。それを一番縁起が良さそうに聞こえるラッキーセブンに入れてきたところに、作り手の性格の悪さが出ている。


「いつもの所で食べる?」

「ああ」

 社務所を出てから成宮と二人して境内の奥に歩いて行った。

 乾燥した刺すような冷気が袴の裾から立ち上ってくる。

 拝殿と本殿を抜け、その奥にある貴崎の自宅を横切ると、境内の喧騒は消えて、神聖とも思えるほどに静寂を保っている鎮守の森に入る。年を終えようと新年を迎えようと、ここの木々変わらず沈黙を守り続け、何かを黙祷している。そこに踏み入るだけで、つい先ほどまでいた場所が俗世であったと気付かされる。

 本殿や拝殿よりも、ここはずっと聖域染みているのだ。その聖域を侵すかのように、枯れ草の上を歩く二人分の足音だけが響く。

 しばらく行くと、森と山の境界のような場所から人一人通るのがやっとという細い坂道が上に伸びている。その急な山道を五分ほど登ると、頂上で視界が広く開けた。

 

 ふうと一息吐き出す。

 歩みを止め、乱れた呼吸を落ち着かせて、いつもの所――いつもの場所を眺めた。

 貴崎神社の裏山に位置するこの小高い場所には、小さなやしろがある。

 小さくとも、本殿とは違った神を祭るための末社と呼ばれるれっきとした神社で、古びてはいるがちゃんとした灯篭や狛犬まで備わっている。


「久しぶりだね、ここ」

 角が取れて表情の分からない小ぶりな狛犬を撫でてから、成宮が社の向こう側まで歩いて行った。

 社の向こうにはぞっとするほどの急勾配の石階段がある。

 一段一段降りるよりも転がり落ちた方が速いだろうと思われるその階段を降ると、いつも成宮と登校時に待ち合わせている鳥居に出る。

 つまり貴崎は毎日、本殿貴崎神社に隣接する自宅から、今上がってきた山道を登り、数百段ある石階段を降って、自宅からは一山越えた真裏に位置する場所――鳥居まで出て、成宮と待ち合わせて登校しているわけである。理由は簡単、それが一番高校に近いからだ。


 階段の一番上に腰掛けて景色を眺める。

 貴崎は、ここからの景色が好きだ。

 高台だけあって、町が一望出来る。

 それだけではなく、天気が良ければずっと遠くに海が見える。

 今のような夕方には、高度の低い斜陽がきらりと反射するから分かる程度で、大きさにすると指の爪程度しか見えないが、ごちゃごちゃした町並みと空とを隔てる上澄みのようで、小さいけれども存在自体が美しいと思える。それに誰も来ないこんな寂れた場所から、あんなにも遠方の海が見えるのだから一見の価値がある。      

 あれが海では無く、東京タワーや遊園地の赤い観覧車ではいけないのだと貴崎は思う。


 ここへ来ると心が休まる。

 下界で上手く立ち回れない、ぎくしゃくした凝り固まりや汚れが浄化されていく気がする。

 はるか遠くの海の、そのまた向こうからやってくる風が全てを無にかえしてくれる気がする。


 誰も知らない自分だけの場所。

 それを唯一共有するのが幼馴染である成宮だ。

 小さい時から貴崎と成宮は数え切れないほど、よくここで遊んだ。

 同じ高校に通い始め、テスト期間中や部活が無い日に成宮が一緒に帰ろうと言い出すと、たいていコンビニに寄り、買った物をここで食べる。だからここは貴崎にとって、通学路であり、帰り道であり、唯一の癒されスポットであり、幼馴染と会話無く買い食いする場所でもあるのだ。

 

 





「はい、祐の好きなアイス」

 成宮が袋から出してよこしたのは、貴崎がいつもコンビニで買うミルクバーだった。

 大好物といえども、この正月の極寒にアイスの差し入れとは。やはりどこか考え方が日本人離れしている。


 そこでようやく思い出した。

 そうか――そうだな。

 実際今年の正月、貴崎はここで同じことを思った。

 家の手伝いで店番をしている時に成宮が差し入れを持って現れ、二人でおみくじを引いて、ここでアイスを食べた覚えがある。

 

 そうか――。

 成宮はあの時のことを忠実に思い出している。

 あの時の夢を見ている。

 ここは、今年の正月――、一年ほども前の冬の日の思い出――の中なのだ。

 漠然と、よく出来た正月の夢だとばかり関心していたが、これは実際にあった状況なのだ。

 人の夢というものが、どれくらいの再現性かは定かではないが、実際に起こった事を思い出しているのなら、こんなに鮮明なのも頷ける。

 ということは、成宮が境内で何時間も貴崎のことを隠れて見ていたというのも事実なのだろうか。そのあたりは曖昧だ。

 何しろ夢なのだから、事実がどう脚色されていてもおかしくない。


「おみくじ、どうだった?」

 難しい顔でアイスの銀紙をはがしていた貴崎の隣に成宮が腰をおろした。

「あ、ああ」

 アイスを一度口にくわえて袂を探り、大凶と書かれた紙切れを成宮に渡す。


「大、凶?」

「ああ。そうらしい」

「この御籤にあたる人は、信心薄く、故に身を滅ぼす者なり――だって」

 当たっている。

 いや当たっていた、というべきか。

 実際のところ、おみくじの予言通り、貴崎の身は昨日あっけなく滅んでしまった。


「待ち人、来ず。恋愛、成就せず。探し物、身近な場所にあるも見つからず。賭け事、惨敗もしくは――さすがに大凶だね。良い事ほとんど書いてない。この結果を重く受け止め、信仰心を忘れず慎み深く生活をおくりなさいって書いてあるよ」

 残念ながら手遅れも甚だしい。

 だいたい今年の正月に大凶を引いたことすら忘れていたのだ。 


 成宮は苦笑してから自分のおみくじをパーカーのポケットから取り出し、貴崎の分と二枚重ねて四つ折りにし、立ち上がって、階段のすぐ脇から伸びた木の枝にくくり始めた。

 それを見上げながら、貴崎はミルクバーを舐め取り不思議に思う。夢で思い出すほど、今年の元旦に記憶に残るような出来事などあっただろうか。貴崎の記憶では今までと変わらない退屈な正月だった。


 夢の中だというのに、アイスは甘くて、景色は良い。

 最後にこのアイスを口に出来たのは喜ぶべきことである。

 死んで鳥居の中に踏み込めない自分が、この景色をもう一度拝めるとは思ってもみなかったので、例え夢の中とはいえども、それは嬉しかった。

 

 オレンジ一色に染まる景色に目を細める。

 夕日に照らされた町の細々した建物がおもちゃのジオラマそのものだ。

 こんなにも天気の良い夕暮れには海が見えそうなものだが、何故かそれらしいものは見当たらない。

 夕焼けとのつなぎ目ぎりぎりまで灰色のビルやマンションやらが続いている。

 

 何だろう。

 何かが――違う。

 何か違和感を感じる。

 完全に現実世界そのものだと思われた成宮の夢の中は、こうして動きを止めて集中してみると、現実とは僅かに異なっているような気がする。

 

 景色というよりも空気、雰囲気、風。

 いつも感じる澄んだ冷たい風ではなく、少し生暖かくて柔らかな風である。

 決して不快なものではなく、人肌くらいの温もりの心地よいそよ風で、なんとなく懐かしい香りがする。

 この香りは――おそらく成宮の香りだ。

 香水のかおりでは無いし、かといって体臭でもない。

 幼い頃から幾度と無く感じてきた、脳のずっと深い部分に記憶されていた香り。

 石鹸の匂いのようでもあるが、柑橘系の爽やかさもある。

 相当近くに寄らなければ感じない服の香り、肌の香り――懐かしい、成宮冬馬の香りだ。


 この世界は息をしている。

 空気が、空間が、世界全体が呼吸をしているのだ。

 おそらく夢をみている成宮自身が寝息を立てるごとに、この空間全体がゆるりとひずみ、寝ている本人の香りがする弱い風を生じる。そのゆっくりとした一定のリズムで、貴崎の身体も周りの景色と共にふわりと緩やか浮く感覚がある。

 ここはやはり、成宮の夢の中なのだ。

 

 かすかに幼馴染の香りがする大気を肺いっぱいに吸い込んでから、貴崎はようやく決心をかためた。

 謝ろう。ちゃんと。最後くらいは。

 本来の目的はそれなのだ。

 死ぬ前、最後に会った時に、成宮に吐いた暴言を詫びなければならない。

 成宮が夢から覚めたときに覚えているかどうかなんて最早どうでもいい。貴崎自身が思い残すことなくすっきり成仏出来ればそれでいいのだ。 

  

「成宮。あ、あのさ……昨日の」


「祐。アイス、おいし?」 

 

 同時に言葉を発した隣の幼馴染の方に、意気込んで振り向く。

 顔を上げたそこで、はっとした。


 違う――。

 違うのだ。

 それも徹底的に違う。


 成宮は貴崎のことを名前で呼んだりはしない。苗字で貴崎と呼ぶ。 

 下の名前――ゆうと呼んでいた時期もあったが、それはずいぶん昔、小学生の頃だろう。


 そして何より、視線が違う。

 貴崎を見る幼馴染の目が違う。

 こちらを覗き込むように伺う、うっとりとした褐色の大きな瞳が、いつもより優しさに満ちていて、それでいて背筋がぞくりとするほどに何かを秘めている。

 うつむき加減の長い潤ったまつ毛が、男同士なのに色っぽいと感じさせる。


 目線に射抜かれて動けなくなる。

 ずっと影からこちらを狙っていた肉食獣と目が合ったかのように息が止まった。

 恐ろしい。

 恐ろしいほどに――魅力的だ。 


「おいしい? ねえ、祐」


 少し首を傾け微笑みながら成宮が聞く。

 返事も出来ない。

 何に対する恐怖心なのか、自然と上半身が成宮から離れようとする。すると成宮は少し身体をこちらに寄せる。

 今までにない距離感で相手を感じる。


「俺も、お腹空いちゃった。……食べていい?」

 幼馴染は尚もうっとりとした表情で、優しいゆっくりとした声で、上半身をかがめて貴崎の顔を覗き込む。

 食べていいかとまた聞かれて、我に返った貴崎は、いつのまにか指の根元近くまで溶け流れていたアイスに目をやった。

 

「あ、これ――」

 やるよ、と消え入る声を発し顔を上げた時、鼻先数センチの距離に成宮の顔があることに気付き、またもや動けなくなった。

 かすかに漂うほどだった幼馴染の香りを一層強く感じる。

 目の前にいるのは確かにいつもの幼馴染のはずなのに、それをそうではなくしている何かがある。貴崎の身体を硬直させ、無いはずの心音を激しく鳴らさせる何かが、目の前に、今までない近距離でこちらに迫ってきている。


「アイスじゃなくて――」

  

 こっちだよ――。

 確かにそう聞こえたと思ったのだが。

 あまりにも一瞬のことで、何がどうなったのか分からなかった。

 何しろ幼馴染が言葉を言い終える前に貴崎は両目をぎゅっと瞑った。

 成宮が更に貴崎に顔を寄せたからだ。

 数センチだった距離が消失して、触れる――と感じた途端、貴崎は怖くなった。


 そうしたら。

 やっぱりと言うか、予想通りと言うか――当然のごとく接触して――くっついてしっまった。

 さらりとしていて心地よく、硬すぎず柔らかすぎず、表面の薄皮一枚隔てて熱い血液が脈打つのを感じるほどに――それは、生命を宿した人間の、生きた唇の感触だった。





ε=(。・д・。)フー やっと更新できました~♪ 

 前の更新から、また一ヶ月以上たってしまったのですね!?

 本当に遅くなってしまって申し訳ありません。そしてまたもや長文、その上変な設定でごめんなさいm(_ _"m)ペコリ

 こんなに細々と連載している小説を忘れずにいて下さる皆様に大感謝でございます(T0T)


 私事ですが、今年の目標は『転職』!!ってことで、新しい職に就くためにも5月から学校に通っております♪ 通うといっても仕事の帰りに二時間だけ授業に出るとかで、社会人相手のパソコンスクールのような感じのところです。

 だから週に二日から三日は、帰ってくるのが夜十時とかいう生活を送っています。

 帰ってきたらもちろん息子はもう夢の中☆彡 夕飯食べさして風呂入れて寝かしつけてくれているのは旦那ですから、本当にこんな妻を許してくれている彼には頭が下がります(T.T) 

 ろくに家事や育児も出来ていないような状態ですので、少しでも転職後に主人の負担が減って、息子と遊べる時間が増やせたらいいな~なんて思っています(完全なサラリーマンの発想ですが(^^;))♪♪

 今は空いた時間に細々とやっているこのブログも、転職後にもっと自分の時間が増やして頑張りたい!! (ちなみに今日は息子が熱出して欠勤です。今スヤスヤとリビングでちいちゃいのが寝息を立てております)

 こんな時代ですから、転職なんてそう簡単にはいかないのかもしれませんが、夢は大きく♪ 貪欲に動いていきたいと思います( ̄▽ ̄)うへへへぇ~

 自分から動かなければ欲しい物は手に入らないと教えてくれたのは、このブログ活動ですし♪安定した定期更新が出来る生活を目指して頑張ります♪♪ とか言ってる間に、二人目が出来ちゃったりしてね(´‐` ○)\(○`ε´○) コラ!コラ!


【注意】この小説は第七話からBL要素の性描写が入りましたので、ガイドラインに従いまして途中からムーンライトノベルの方に再投稿しなおしています。続きが読みたいと思って下さった方はムーンライトの方へお願いします。再投稿後しばらくで、こちらの方は削除させて頂く予定です。ご了承下さい。(ムーンライトでの小説目次です→http://novel18.syosetu.com/n8216l/)

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