85 如月冴の退屈の虫
如月冴抜刀というか変化ですね。
2024/09/04 旗本退屈男→右太衛門に修正
びょおおおおおおおおお。
風切り音が左右の耳朶を震わせる。
心地いい風圧が顔をなでる。
如月冴はにたりとした笑いを張り付けながら落下していく。
ああ、このままではロールもどきの手前に降りてしまうな。
如月冴は何もない空間をぽんと蹴った。蹴った分だけ前へと前進した。
うむうむ。良い感じ。良い感じ。そのままそのまま……。
「タッチダウン!」
如月冴はクロスした両腕をロールもどきの頭部へと突き刺した。剣へと変形していた両腕はずぶりと根元まで突き刺さった。
「ふんす」
如月冴はクロスさせた両手を正位置に戻すべく、ぐっと開いた。そのままロールもどきの頭が左右に切り裂かれていく。
すぱん。
舌をべろんと垂らして、だらんと弛緩したロールもどきがどうっと倒れ伏す。
そのロールもどきの上で、器用にバランスを取りながら如月冴が肩を震わしながら笑う。
ロールもどきが倒れ切った瞬間、如月冴はぴょんと軽く飛び上がる。そのまま、伸身の前転をしながらタケミナカタの前に見事に着地する。
両腕の剣を元に戻して、両手を払いながら如月冴が、タケミナカタに歩み寄っていく。タケミナカタは信じられないものを見たという、驚愕の表情を浮かべて固まっていた。
「おま、おま、お前はタケ……」
如月が人差し指を口に当てて、内緒にしてねのポーズ。
タケミナカタは押し黙ってしまった。そんなタケミナカタを見て、大国主も出早雄も口をつぐんだ。
「ん-? なんだなんだ、神様たちー。元気が足りないぞー」
如月冴はそんな神様の反応を見て面白がる。
「冴ちゃんだーっ」
勘解由小路檸檬が両手を振って大喜びする。
「おおーっ、檸檬殿ではないか。なーに、ちょっと退屈の虫が騒いじゃってさー」
如月冴が同じように手を振りながらカデちゃんに駆け寄る。
「まあ、佐々門姉さんに連れられてきたんだけどね」
そう言ってロールもどきの方を向く。
「さっき、ヒルヒルが殲滅したんだけどねえ」
「またぞろ湧いてきたと……あれ? ヒルヒ……あ、そうか。ヒルヒルは城の方ね」
「うん。あの紅い城に引き込まれちゃったよ」
如月冴はニヤリと笑う。
「退屈じゃ退屈じゃと、退屈まぎれに罷り越せばこの始末。のぞみとあらば諸刃流正眼崩し剣の舞を舞うてしんぜようか!!」
如月冴はかんらかんらと高笑いする。
ここに鈴鹿和三郎と淡島ハルコがいないのが悔やまれる。周囲のみんなはポカーンとしている。それを見たカデちゃんが、くっくっくっと笑いをこらえる。事情を知っていそうだと思ったタケミナカタ達はカデちゃんをじっと見る。そんな視線に気づいたカデちゃんがにっこり笑う。
「そうか、みんな知らないもんね。冴ちゃんは右太衛門マニアだからねえ」
公安8課の別働部隊的存在の遠目塚依子と如月冴は、時代劇の変態だったのだ。
ということで遠目塚依子は富三郎マニアで、如月冴は右太衛門マニアでした。
この二人がいると、ホラー映画や時代劇の話が多くなる気がします。
その内、錦之助マニアや千恵蔵マニアも現れるかも知れませぬな。