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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 本栖湖派出所攻防戦
82/164

80 和三郎 焼きそば食う老人になる

さてはさては紅の城・纐纈城の出現に大揺れの本栖湖!

呑み込まれた3人はどうする?


2024/08/15 興が乗ったので戸川純について少し追記。椎名林檎と何が違うかみたいな部分。

2025/08/21 さらに確信が持てたので、戸川純のお話を追加。やっぱり凄いなこの人は。

「ギリギリ ギリギリ 廻る歯車

バチバチ バチバチ 飛び散る火花

ビュンビュン ビュンビュン 跳ねるスプリムグ~♪」


布に巻かれた状態なので、少しくぐもった音色で歌姫・戸川純の声が仕置き部屋に響いている。

ジェットスーツに内蔵されたメモリから音楽が流れている。

「なんだその7号機。しかし、AC/DCでゲルニカってどういうセンスなんだよ」

「戸川純はコンプリートっす。ゲルニカの頃って21歳ですよ、たまらんですよ」

「太田螢一が作詞で、上野耕路が作曲という無敵の昭和レトロサウンドだねえ。『輪転機』もたまらんね」

「グルグルグルグルグル

グルグルグルグル フル回転♪」

「それな。戸川純は関係ないけど、太田螢一の『人外大魔境』もすんばらしい。巻上公一の朗々とした歌唱で『めざすは 人外大魔境~っ』と歌われたら納得するしかない。アルバムのコンセプトの基本は小栗虫太郎なんだけど、メインテーマは押川春浪の『海底軍艦』も混じってるよね。

戸川純がコーラスで参加した『ハルメンズ』。リリース当時はほんとに全然売れなかったけど、やっぱり佐伯健三の歌詞はすごいんだよね。純ちゃんがソロでデビューしたおかげで『昆虫群』とか『レーダーマン』が日の目を見たわけだけどさ。最近は泉水敏郎の歌詞もいいよなあと思っているのさ」

「いろいろ蘊蓄語っちゃって、もうもう。泉水さんは『図形の恋』とかヤバいっす。あと『キネマの夜』と『暗いところへ』はミクちゃんも歌ってるんですよー。もうもう、ロマンチックですよー」

「椎名林檎が出てきたときに、やたらと比較に持ち出されたのが戸川純だったんだけど。同じ女性がテーマでも感覚や感情といった生っぽいものを詩に落とし込んで描こうとする戸川純と、プロデュースの一環として戦略的に詩を作る椎名林檎じゃあ、全くの別物で、比較にもならんのよ」

「ザック・スナイダーとジェームズ・ガンの『スーパーマン』比較するみたいに不毛だと」

「うんうん。背景となる時代や風潮も違うしなあ。ゲルニカ的なクラシカルな日本の風景ってのは多分に右っぽかったり、または共産主義的なものを取り入れてたりと、思想的なものを理解して再構成している。受け手にもそれが面白いと、冗談として笑う寛容さというか鈍さというかそれはあったと思う。椎名林檎の時代では、右っぽいものとかファッション的な上澄みを掬い取ったもので、カッコいいと言われてもてはやされた。でもそれ以上でもそれ以下でもないと思う。さっきも言ったように自分プロデュースの為の足掛かりとして、右っぽいとか国粋的なものを用いたというか。だって、戸川純の時代は教授が「いけないルージュマジック」のセルフパロディで「いけないエンペラーマジック」をインディーズでリリースしちゃう時代だぜ。インターネットが普及してたかしてなかったかってのも重要かもしれないな。知ろうと思ったら自力で資料を漁らなきゃいけない時代だったしね」

「だから感情で動いた戸川純は一過性で時代の徒花的な面が強い、感情で動いているようでいて実は理屈で動いていた椎名林檎は一定の人気を保ちつつ息が長い。初期の椎名林檎が意図的だったか無意識的だったかはわからんけどね。

ふとしたことで復権してくるのが戸川純なんだけどね」

「『好き好き大好き』の直情的な歌詞は大好き!」

「これぞ戸川純なだなと思ったのは、『レインボー戦隊ロビン』のエンディング曲『ロビンの宇宙旅行』のカバーかな。歌詞は戸川純が書き下ろしてるんだけど、その凄まじいエネルギーたるや」

大きな梁に吊るされた8課の二人が戸川純談議に花を咲かせている。少し機嫌の直ったシュタ公は、今度はハリガネムシの釘抜き状の頭部を精細に描き始めていた。


その外。和三郎達2人と1匹を取り込んで以降、纐纈城は沈黙したまま。

吉田警察は突如、本栖湖に出現したこの真っ赤な城をどうすべきか、非常に頭を悩ませていた。もうだって、吉田警察署は樹海の警備だけでいっぱいいっぱいなのだからして。

そんな吉田警察署本栖湖派出所の屋上から、纐纈城を見つめるジャージのお姉さんがいた。鳰鳥姉さんである。

「あの城。元居た世界と同じ匂いがするよ」

「姉さんがいた世界ねえ。こっちで言う時代劇みたいな世界でしたっけ」

甚五が鳥黐竿をびしゅっと鳴らしながら返事をした。

「うん。人とあやかしの境界は此処よりももっとあやふやな世界さね」

「姉さんの世界のでっかいお城が突然こっちにやって来たってわけですかい」

「現れてからこっち、度津の倅を呑み込んでからはうんともすんとも言って来ない。何が目的なのか、得体が知れないねえ」

鳰鳥は今度は樹海の方を振り向いた。

「どうやら古のものは次の算段が決まったようだね。強ち奴さん達根っこの部分でつながってるのかもね」


「巨大怪獣大決戦絵巻は終わってしまったようだ、残念」

佐々門の声がヘッドフォンから聞こえて来て、如月冴と遠目塚依子は顔を上げた。ヘリコプターは回転翼をぶん回すエンジンの音で、まともに会話ができないので、搭乗時はレシーバーでやりとりをする。

「早いけど狭いよー、姉さん」

如月が文句を言う。

「さえー、あんな城あったっけ?」

「いやあ、あんなまっかっかな城見たことないよ。姉さん、あれ何?」

「私も知らない。樹海だけでも大変なのに、あんな城が現れて吉田警察大パニックだねえ」

佐々門達が乗るヘリが派出所へと近づいていく。

「あ、さえー、私、お城の相手するね」

遠目塚依子はそう言うと、ヘッドフォン外して、ヘリのドアを開けてそのまま空中へと躍り出た。タイミングを同じくして、纐纈城から件の纐纈布がヘリに襲い掛かった。依子の胴田貫が纐纈布を弾き返して、そのままもつれるように依子は城へ落下していく。

如月冴は頼子に向かってひらひらと手を振りながら、ヘリの扉をぱたんと締めた。

「そんじゃ私は樹海の……ヒョロヒョロ? それの相手する?」

なぜか疑問形で佐々門に声をかける。

「ああ。怪我しない程度に頑張ってな」

如月冴は大きく大きく頷いた。

えーと異世界交流の設定が自分でも揺らいでいるなあ、ぶれてるなあとは思いますが

一応このままでいきましょうかね。その時その時によって異世界からの使者の出現方法は異なるってことでしょうか。自分でもちゃんと決めてねえなあ。


ということで戸川純まで来てしまったなあ。椎名林檎登場時、いろいろ比較に持ち出されていたのを思い出したり。基本スタンスが違うんでひとくくりにしてはいけなかったんだよねえ。と今は思う。

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