79 和三郎とヒルヒルの『アンダーワールド』漫談
はてさて纐纈城に取り込まれたヒルヒルと和三郎とシュタ公や如何に⁉
2024/08/08 ちょっと前後入れ替えて、加筆。テムズムカデをリュウジンオオムカデに変更。でかいしカッコいいからな!
「喋れなくなる薬を食べ物に混入されて、その後太らせてから、布を染める染料として血液を吸い取られてしまうのだったかな」
「なに? それは」
「宇治拾遺物語の『慈覚大師、纐纈城に入り行く事』で、記述されてる纐纈城で行っている事だよ」
「えーっ! 太るのは嫌っ!」
「そっちかあ。俺は血吸われるのやだなあ。血を吸うのは薔薇とカメラだけにしていただきたいね」
「血を吸うと言えば吸血鬼! ワサワサは『アンダーワールド』って観てる?」
「猫又ヨオスケの漫画は読んだよ。古賀新一が少し入った、少女漫画風塗り絵テイストなレトロな画風がいいよねえ」
「いや、マンガじゃなくって」
「『トレインスポッティング』で流れてた『Born Slippy(Nuxx)』! アンダーワールド知ってるってヒルヒルはほんとは何歳なんだろうか」
「大便器に顔ツッコむ話じゃなくって、テクノのアンダーワールドでもなくって」
「ほかに『アンダーワールド』っていうと……! クライヴ・バーカーが脚本担当してたやつだ。よくわかんない話だよね。なんでみんな地下に潜伏してんだか。『ヘルレイザー』を経て、夜の種族の物語『ミディアン』に発展していくんだよねえ。クライヴ・バーカー脚本&監督で、物語の中心人物シリアルキキラーなお医者さん:フィリップ・デッカーをデヴィッド・クローネンバーグが演じてる。それだけでもめっけもんだよね。たしかクローネンバーグは『ジェイソンX』にも出演してたなあ。
デッカーの被ってたマスクが凝ったデザインでさあ、デッカーだけで映画作れるよなあ。『ミディアン』って贅沢な映画だよな。さらに主役でもあるナイトブリード達のデザインが堪らなく魅力的なんだよねって……その微妙な顔は、俺はまたまた違う『アンダーワールド』の話をしていたのだね」
和三郎の確認にヒルヒルが大きく頷いた。
「うーん……するってえとケイト・ベッキンセイルが主人公で、テカテカパッツンなボンデージベースの衣装が無茶キマッてるやつ?」
「それそれ。吸血鬼族と狼男一族が戦争してる話です」
「バンパイアとライカンの合いの子をめぐる戦いだっけ?」
「まあそんな話ですよ。1作目はガンアクションとかも多彩でカッコいいんですが、2作目が始祖的なオッサンが蝙蝠男的姿で暴れまわったりしてて、なんだかなあなんですよねえ。本編の内容じゃなくって、私が言いたいのはバンパイアとライカンの武装の違いです」
「携行武器の違い?」
「そうそうそれ。理に適ってるなあと思って。
バンパイアの扱う拳銃がピストル口径ばっかりなんですよ。自動小銃もMP5K。ライカンの弱点が銀なので、攻撃した際に銀製の弾丸がライカンの身体の中に留まるように貫通力が低い武器を使っているんですよ。逆にライカン側はバンパイアの再生能力に対抗するため、威力のデカいG36とかショットガンを多用してるんです」
「ふーん。そこまで考えて武装させてたんだ」
「そうそう。すげえ考えてるうって思ったんですよね」
「でもさあ、破砕性弾薬使ったら武器の威力は関係ないんじゃないかなあ」
「もう、それを言っちゃあだめですよう」
和三郎とヒルヒルは石造りの牢屋が並ぶ、おそらく仕置き部屋みたいなところで、梁から吊り下げられた状態だった。二人とも纐纈布で簀巻き状態。まったく身動きが取れない。シュタ公は大きなまんま、やはり纐纈布でぐるぐる巻きで床の上に放置されていた。
「シュタ公は小さくならないの?」
「……」
和三郎の問いかけに、シュタ公は答えなかった。
シュタ公は拗ねていた。
纐纈城に吸い込まれる際に
「材料ならシュタ公を使え」
という和三郎の叫びが胸を締め付けていたのだ。
シュタはいらない子なのか?
和三郎が要ると言ってくれれば、巨大カマドウマだろうが、巨大大具足虫だろうが、巨大リュウジンオオムカデだろうが、巨大コックローチ……は嫌だけど、戦うつもりだというのに。むくりと起き上がって座り直したシュタ公は足で何かをしていた。
「いらない」と言われて流した涙で絵を描いていたのだ。
「いあああ……」
「お前は雪舟かよっ! 悪かったよ、咄嗟のことでつい心にもないことを言ってしまった。シュタ公ごめんよ。機嫌直してくれよ。
つうか、頼むから今にも動き出しそうな迫真に迫ったカマドウマ描くなっての!」
和三郎はカマドウマがとても怖かったのだ。
つうことで『アンダーワールド』漫談。もっといっぱい同名の作品はあるんですが、さすがにB級映画までは把握してなかったわさ。
全く関係なく『V.I.P. 修羅の獣たち』を鑑賞。前半北朝鮮で政府高官のボンボンでシリアルキラーなキム・グァンイルが、いたいけな少女を縊り殺すシーンがあるのです。ピアノ線みたいなほっそい糸でぎりぎりと縊るのですが、このシーンなぜかぼかしが入る。なんでだろうと調べたら、韓国では18禁映画だったものを、日本公開は15禁に変更したため、首に食い込む糸でおそらく切断される首の皮膚とかそういうのをぼかしちゃったみたい。いやあこのグァンイルが糞野郎過ぎるんですが、北朝鮮と韓国とCIAの利権争いの駒なため、殺すこともできず放置状態で、本編中も好き放題殺りまくるのですよ。カタルシスに繋がらないもどかしさが韓国ノワールものの醍醐味と再認識した次第。『泣く男』でもいい味出してるチャン・ドンゴンがとてもよろしいです。