76 依子ちゃんの水鴎流
夜 烏が鳴いた 誰かが死ぬんだぜえ♪
なんでか『子連れ狼』映画版を再確認ですよ。
2024/08/08 ちょっと微妙に調整。白いワンピースの描写も少し詳細になる予定。
黒い偉丈夫の斬撃が幾度となく依子を襲う。依子はその都度攻撃をいなし、搔い潜る。白いプリーツのワンピースがくるくると翻る。
「相変わらずの気違い剣士っぷりだ」
宵闇がうめいた。宵闇と依子は同期である。警察学校時代から剣道で幾度となく試合をしてきた仲である。宵闇は頼子に勝てたためしがなかった。後年、依子が混じり者であると知り、敵う訳がないと納得したものだった。だって、武の神様である経津主神と混じっていたのだからして。
依子は日本刀で偉丈夫の刃を捌いている。抜刀はしていない。鞘に納まったままだ。依子の扱う日本刀は胴田貫。田んぼで人体を使っての試し斬りを行ったところ、胴体を切り裂いて田んぼまで貫いた、そんな逸話から名付けられた骨太な刀である。室町時代から続く肥後刀鍛冶の打ち出した戦刀である。依子がなぜこの刀を使うのか? それは『子連れ狼』に出会ってしまったから。
北大路欣也の? いやいや、あんなコンプライアンス塗れの腐れ時代劇もどきではない。日本テレビ系列で大ヒットとなった萬屋錦之助のテレビシリーズでもない。ちなみに錦之助版は後年、大五郎役の俳優が殺人を犯して逮捕されたことで脚光を浴びた。いやな脚光である。大五郎はほんとに冥府魔道に入ってしまったわけである。ドラマ自体は普通に面白いので、ほんとに残念な出来事であった。
まあ、そんなことはどうでもよい。依子が傾倒した『子連れ狼』は、あの兵隊やくざ=勝新太郎の実兄・若山富三郎が演じた映画版『子連れ狼』全6作品だったのだ。海外ではサムライスプラッターなどと言われて、殊更ゴア描写が注目を集め、カルト映画化している。そんな血なまぐさいロードムービーの中で燦然と輝く若山富三郎の力強い殺陣が、依子のハートを鷲掴みにしてしまったのだ。
「私は富三郎になりたい」
ずんぐりむっくりの身体で宙を華麗に舞い、剣筋も鮮やか、納刀の素早さもぴか一な富三郎にやられてしまったのである。依子は玩具の刀で繰り返し、富三郎を真似ていく。
「我ら冥府魔道に生きる者なれば、常人に非ず。六道四生順逆の境は最初から覚悟の上」
セリフもばっちりである。なかでもお気に入りが真剣勝負の際に自身が扱う刀を相手に名乗るシーンだ。
「水鷗流斬馬刀・胴太貫」
そんな口真似をしながら、玩具の刀でああでもないこうでもないと試行錯誤をするうちに、依子の身体にと富三郎の動きが自然とトレースされていったのである。経津主神の混じり者であったことも幸い? したのであろう。依子は小学生高学年の頃には立派な水鴎流の使い手となっていたのであった。
遠目塚依子が黒い偉丈夫と大きく大きく間合いを取った。腰の位置へと持ってきた刀を左手で固定した。右手は柄に添えて、居合抜きの構えを取る。あとは黒い偉丈夫の攻撃に合わせて抜刀するのみ。綺麗に腰を落とし、依子が身構える。
「やっちゃえ! ヨリーっ」
如月冴が叫ぶ。
「だから、ヨリーは」
黒い偉丈夫が迫る。
「やめてっていってるでしょうがっ!」
流麗な軌跡を描き、胴田貫が鞘走る。
敵の刀を叩き伏せる豪壮たる刃を持つ胴田貫。戦に特化した重量を持ちながらも手持ちの良さを併せ持つ。わずかに切っ先に重心を置き、居抜きでの遠心力の付与すらも考慮された必殺の刀である。
依子の胴田貫が黒き偉丈夫の脇腹を切り裂く。動きの止まった偉丈夫に、依子は胴田貫を大上段に振りかぶる。偉丈夫は腕から生えた刃を交差させ、迫る刀を防がんとする。
しかし、依子の操るは胴田貫、その剛剣に偉丈夫の刃は耐え切れず砕け散る。そのまま偉丈夫は頭を割られてしまった。拳銃弾を弾き返す頑強な身体を持った偉丈夫は、経津主神の混じり者依子が操る胴田貫にあっさりと切り捨てられた。
依子は胴田貫を血振りする。その後でおそらく無意識なんだろう、ワンピースをたくし上げて胴田貫の刀身をぬぐっていく。片足だけ白い膝頭を覗かせた姿が神々しく映る。
ぱちり。
くるっと刀を回すように依子は鞘へと納めた。富三郎と同じ仕種だ。
ワンピースに目を移した依子は、白い布地を横断する紅い筋を視認した。
「またやっちゃったよ。このワンピース着てると決まって汚しちゃうのよね」
依子ちゃんは富三郎マニアでした。渋いわー。
血振りなんですけど、リアルだと切れ味抜群の日本刀は、刀身が血糊でべっちゃべっちゃってことはないそうです。でもかっこいいからいいよね。
若山富三郎の『子連れ狼』は凄いカッコいいのよ。
最初のプロットでは、ヒルヒルと遠目塚がバディ組んで、アレソレと戦うって感じだった気がする。




