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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 本栖湖派出所攻防戦
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73 宵闇と無窮丸 宵闇クンと水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置

突如本栖湖に出現した纐纈城。

はたして纐纈布を身体に巻いた謎の仮面領主は現れるのか?


2025/02/03 師匠の設定追加に伴い、ちょっとだけ補填。宵闇クン踏んだり蹴ったり。

「あれはどうすんだ?」

「あれって?」

「佐藤だよ、佐藤芳雄(くそストーカー)の!」

「ふむ。あの件ね。佐藤はね残念なことに……無くならない」

「ああああっ?」

「宵闇クン、納得いかないからって、その物言いはどうかと思うよ。だから佐藤はこの世界から無くならない。何故なら限りなく近似値過ぎるから。

ほら、宵闇クンがここに配属された頃はなんでもかんでも戻していたじゃない。それで弊害出てたでしょ。送り返したはずなのに、ほとんど同じ闖入者が同時期に再出現したでしょ。近似値の世界ではこっちと同じことやってるんだから、そりゃそういうことも起こりえるよね」

上司である荒尾笊(あらおざる)が当然だという口調で説明する。

「それで戻されてきた近似値対象者にぼこぼこに殴られて、宵闇クンの鼻はひん曲がっちゃったのよね。まあ、ちょっと鼻が高くなったから良かったのか知らん」

口角をゆっくりと上げながら、無窮丸文子が聴こえるようにつぶやいた。

「くそっ! あの親父っ! やったのは俺じゃなくて、あっちの世界の俺だっての!」

宵闇貴彦は机を蹴り飛ばし、壁を殴りつけた。

「感情が歩いているとはよく言ったものだわ。宵闇クンは解りやすい。やす過ぎるのよ」

宵闇貴彦とバディを組む無窮丸文子が、アールグレイティーを美味しそうにすすり、宵闇クンを笑う。

「たくっ、迷惑な残り滓がこの世界に増えるんだぞ。さっさと始末すりゃあいいんだよ、ああいう糞蟲はさあ!」

「近似値過ぎるんだからしょうがない。この佐藤さん、も少し善人だったらねえ、ようこそわが世界へとウエルカムなのに。今回はストーカーさんなんだよ」

「このお方をこの世界から無くせないのは残念だなあとは思うわよ」

「だったら」

「転移してきた先が我らの世界と近接しすぎている。こちらで消した場合、何かしら世界に影響が出る可能性が高い。宵闇も自ら体験しているだろう? だから、佐藤芳雄は無くせない。確かに理不尽だねえ」

荒尾笊は少しやけ気味におどけてみせた。


世界は選択によって枝分かれしていくと言われている。地球人類が宇宙へ行った世界と行かなかった世界。第二次大戦が起こった世界と起きなかった世界。大雑把に言えばしたか、しなかった。ある事柄をした世界としなかった世界そこで世界は分岐する。分岐が分岐を呼び、多種多彩に世界は広がっていく。

原因は皆目解っていないのだが、多種多彩な世界を移動して、この世界に渡ってくるモノが少なからずいる、またはある。

「こちらの世界の佐藤芳雄は2か月ほど前に鬼籍に入っていた。天涯孤独で独身で犯罪歴はないし、いい人だったらしい。片や異界からご登場いただいた、我らが佐藤芳雄は天涯孤独で独身で犯罪歴がないのは同じだけど、生え抜きのストーカーだった」

「こっちの佐藤芳雄はもういないのだから、他所から来た佐藤芳雄は無くせばいいじゃないですか。近似値がどうのこうのってのも、憶測でしかないんだろ」

「宵闇クンはきちんと勉強してこなかったね。我らの世界から遠い世界の場合、無くす=お帰り頂くのは意外に簡単なんだよ。そういう装置も既にあるでしょ。例の施設に」

「奥多摩の? 水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置を利用したってやつ? あそこまで運んでいくのも一苦労なんだよな」

「なんでカミオカンデじゃなくて、そっちの小難しい名前を記憶してるのに、肝心の所を勉強してないのよ」


警報が鳴り響いた。異常なエネルギーの収束点が検知されたことを知らせるものだった。

荒尾笊が位置を確認してから警報を止めた。

「これはいいよ。管轄外だ」

「え?」

宵闇が聞き返した。

「樹海絡み。吉田警察にお任せあれだよ」


モニターに映し出された広域地図は、本栖湖の湖畔に何やら大きなエネルギー収束地点を検出していた。

「8課が出張ってるんじゃなかったかしら」

無窮丸が頸を傾げる。

「あちらはあちらでお忙しいこって……話途中だったな。世界が近いとなんでダメなんだったっけ?」

無窮丸は説明するのが嫌になって、宵闇を無視した。

公安7課のお話しでした。

幕間のつもりだったんですが興が乗ってしまいました。

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