52 ケンゾー 信玄餅を語る
さあ、釈迦堂を出発しましょうかね。
「釈迦堂遺跡群のどこかに新たなン・カイでも広がってるんですかね」
「だろうね。テケリリとは違った種類のスライムが、怪しげな蛙の神様の像を、いっぱい崇拝してるんだろうね」
「うへえ」
しかし、ラブクラフトな世界線のお方々は、富士山近辺にお住いのようで。そうすると鳰鳥姉さんというより、鳥刺のあんちゃんの方が因縁深そうだよなあ。蛭子命に連なるヒルヒルと、なぜか俺が今回の樹海の騒動のカギになっているようだけど。さっぱり分からんなあ。とヒルヒルを見るとシャカリキレッドを汁も残さず完食したようで、今度は信玄餅ソフトをぺろぺろしてらっしゃる。
危機かーん、危機感持てよ。
「おきゅうととイゴネリの話を前にした」
ケンゾーが信玄餅ソフトを食べながらぼそり。
新潟でイゴネリと呼ばれ、福岡でおきゅうとと呼ばれる海藻を練った食べ物。実はモノは一緒だった。なんでそうなったのかわからないという話だったか。
「信玄餅にもそっくりさんがいるんだよ」
「それ知ってるよ。あやめもちだよね」
「うん、それもそうなんだけどね。今もう手に入んないでしょ? あやめもち。お店閉店しちゃったじゃない」
「そうだっけ?」
「新潟県新発田市の和菓子屋『中村屋』が、あやめ城との別称を持つ新発田城をモチーフに創ったとか。きな粉にくるまれた求肥の中にクルミが入っている信玄餅ライクなお菓子だよ。その辺はちょっとゆべしっぽいよね。第21回菓子博覧会で内閣総理大臣賞を受賞してるんだよ。中村屋は江戸時代に創業したと言われている老舗だったんだけど、後継者もいなくて、店主が高齢だったのと、設備の老朽化を理由に閉店しちゃった。たしか2019年1月6日」
ケンゾー、お菓子の事になると変に饒舌になるよなあ。
新発田城って確か自衛隊の駐屯地になっていて、明治建造の木造兵舎『白壁兵舎』が残ってる。そこを使って『八甲田山』のロケ撮影が行われているね。高倉健が新発田に来ていたって言うんで大騒ぎになったとか、ならなかったとか。新発田というと1968年公開の『連合艦隊司令長官 山本五十六』で、長岡の河川という体で、三船敏郎扮する山本五十六が渡し舟の上で逆立ちするというシーンがある。綺麗な桜並木が壮観なのだが、ロケ地が新発田を流れる加治川で撮影が行われた。ちなみにふなぐちいちばんしぼりで有名な菊水酒造の工場が建っていたりする。
「福岡にもあるんだよ。如水庵の筑紫もち。基本は信玄餅と一緒だけど、炊いても硬くなりにくいヒヨク米から作ってるからか、お餅の方は信玄餅よりも柔らかいみたいだね」
みんなはラーメンを食べ終わったので、移動することになった。今来た道を戻る感じだな。ぞろぞろとハイエースへと向かっていく。なんだろう? ずっと醤油ラーメンの匂いがする。くんか、くんかしていたら原因がわかった。俺の左肩の上から漂って来てる。
「シュタ公……」
「いあぁ?」
いやいや、子首傾げて可愛い子ぶってもダメだ。さっきどんぶりに手を突っ込んで、麺を鷲掴みにしてちゅるちゅるやってたからな。ワイシャツのえりにシミができてるよ。スーツも濡れてるってことは……。
「おまっ、浸かったな」
和三郎は肩に右手を持って行き、シュタ公をむんずと掴んだ。途端にだらだらとスープが滴った。
「いあっ! いあっ!」
シュタ公は上機嫌で声を上げる。
「あとで風呂で盛大に洗うからな」
「いあっ!」
シュタ公は満面の笑みを浮かべて両手を上げる。
後は道さえ間違えなきゃ、夜には樹海付近に到着するだろう。
「それで信玄餅についてなんだが……」
ケンゾーが止まらなくなっているね。
「リンちゃーん」
和三郎はリンちゃんに救助要請を出したが、とうのリンちゃんは信玄餅ソフトに夢中でこっちには全く気付いていないのだった。
ようやく信玄餅亜種について語ることができたなあ。
まだまだあるよ信玄餅亜種は。そのうち語る機会もあろう。
ガン・フーに関してはなぜか、キューブリックの『突撃』あたりからおさらい。あの長回しは凄い。当時は銃弾発射、リアクションが一つのシークエンスとして考えられていて、弾丸発射→やられる敵がワンフレームで納められていることが多い。マカロニウェスタンとかもそうで、『フルメタルジャケット』でもキューブリックの演出は基本これだった。いろいろ工夫はしてるけどね。




