46 ヒルヒルの食いしん坊万才!
キューブリック、ペキンパー、ウー。
あと中島貞夫をほんの少し。
2024/05/01「キラー・エリート」を追加。ステイサムにあらず!
2024/05/08 盛りすぎた「キラー・エリート」を少し穏やかにする。
2024/09/13 ペキンパーの偉大さを饒舌に説明!ついつい熱を帯びる。
「ふふん ふふん ふふん ふふん ふふん ふふん ふっふっふー♪」
ヒルヒルは足をプランプランさせながら、鼻歌を歌っている。
トートバックを持って和三郎が近づく。ふとバックの中を見るとマシュマロが入っていた。ガサゴソと一つ取り出し、ヒルヒルの口に放り込んだ。
「ふふん ふふん♪」
口内に甘いぷよぷよ食感がひろがる。にんまりしながらもぐもぐしている。口の中のマシュマロが無くなったので、ヒルヒルは和三郎を見上げた。和三郎も見つめ返す。
んぱっ。
口を開けて催促する。
和三郎がマシュマロを口に放る。
もぐもぐ。
「ふふん ふふん♪」
んぱ。
「ふふん ふふん♪」
もぐもぐ。
「ふふん ふふん♪」
んぱ。
「ふふん ふふん♪」
もぐもぐ。
「落ち着いたかね、アレックス君」
ヒルヒルはこくりとうなずく。
和三郎は座席の奥へと入っていき腰かけた。
「ん」
ヒルヒルが右腕を差し出す。手萎えの先端はナノカーボンベースのむにむにと蠢く金属でおおわれている。和三郎がノーマル右腕の接合部を、手萎え部分に近づける。手萎え先端のナノな金属が蠢いて、義肢接合部に合わせて変形していく。
ぷしゅん。
右腕がくっついた。ヒルヒルがうごうごと右手の指を動かして、調子を計る。
「しぇいはたんげ、なはさぜん」
「いや、無いのは逆。右腕の方だし。大河内傳次郎あんまり似てないし」
「ははっ、そうさおれは片端さ!」
『百万両の壺』の左膳だな。桜町弘子にそんな自分を卑下するんじゃありませんって怒られる奴だ。桜町弘子はいいよなあ、永遠の町娘……。そうそう、『旗本退屈男』の菊路もいいんだよなあ。大友柳太郎は少し似てたかな」
「ん」
ヒルヒルは左腕を肩の上まで上げる。和三郎はそこへノーマル左腕を持って行く。
ぱしゅん。
ヒルヒルは右手と同じように左手もうごうごさせる。
そのまま、ヒルヒルは和三郎に体を預けた。
「力の制御が出来なくて、兄を攻撃した時のことを思い出してしまいました」
「まっくろくろすけ現象の時か」
「はい。健常者だった兄を、手萎え足萎えにしてやりました」
「そこは後悔してないんだな」
「はい。家族はみんなひどい奴ばかりで、中でも兄は直接手を出してきたから。誰も助けてくれないんです。どうしようもなくなって制御ができなくなりました。兄をダメにしたら、お父さんもお母さんもお祖母ちゃんも、みんなダメになりました」
「ふーん」
和三郎はかける言葉が見つからず、うなずくだけ。
そんなに嫌ではない沈黙が続いた。
「質問。歌ってる鼻歌がこっちだったらどうしてた?」
ヒルヒルが鼻歌を歌う。
「えーとそれ聴いたことあるな……うーん、わからん」
ヒルヒルは起き上がりくるりと和三郎に向き直る。
「Es zittern die morschen Knochen。野戦病院に慰安に来た将軍が、歴戦の兵士と握手できないんですよ!」
「ああー、『見せてやるプロシア貴族の戦い方を!』」
「若い連中はガン・フーの起源を、カート・ウィマーやジョン・ウーに求めがちですけどね、私に言わせれば最初に、カッコいい銃撃戦を演出したのはサム・ペキンパーだと思うんです。そうです!ガンアクションにおける、それまで無意識下にあった外連味を引き出して、最初に映像化した先駆者なんですよ!
ペキンパー以前の銃撃シーンって、主人公が撃つ、画面切り替わって撃たれた悪役のリアクション、主人公が撃つと画面切り替わって撃たれた悪役のリアクション。この繰り返しなんですよ。キューブリックは『突撃』では長回しでもって、その単調な繰り返しを回避したわけですよ。その代わりドキュメンタリーチックな方へ振り切れてしまった。まあ、キューブリックは、雑誌カメラマンからドキュメンタリー映画を経て、劇映画デビューだから、リアルな方へ行ったのだとも考えられますけどね。『フルメタルジャケット』では撃ち手と受け手を同じ画面に配置して、時間の共有を映像で見せてくれたりしてますけど、やっぱりドキュメントよりなんですよね。物足りない。
そこにペキンパーはスローモーション撮影されたシーンを挟みこみながら、撃つ側、撃たれた側のリアクションを挿入していくという手法で、撃った! 撃たれた! という従来のリアクションでつなげたアクション描写を、より立体的かつ多面的なアクション描写へと昇華したわけですよ!
『ワイルドバンチ』のあのガンアクションは大興奮ものですよ! アーネスト・ボーグナインの不敵な笑みから始まる銃撃戦!『死ぬな! パイク!』くぅうう!『ゲッタウェイ』のマックイーンが魅せる、階段での華麗なショットガン捌き! あれは『男たちの挽歌2』でも再現してますしね。火薬の量は半端なく増えてますけどね。そんでもっての『戦争のはらわた』ですよ!『スーパーマン』のオファーを蹴って『戦争のはらわた』ですよ!」
「いや、ヒロイン死んだからってやけくそで地球逆回転させてヒロイン生き返らせる話と第二次大戦の悲惨な東部戦線の話、どっち監督する?って聞かれたら俺も『戦争のはらわた』一択だと思うけどなあ。でもさあ『キングコング』はダメで、なんで『キラーエリート』はOKなんだろう。面白いからいいんだけどさ」
「そうそう『キラーエリート』だ。ジェームズ・カーンとロバート・デュバルの一騎打ち。暗殺者集団が忍者で、格闘技でもペキンパーのスローモーションが……効果的?」
「東洋的アクションとガンアクションの素晴らしき融合、その先駆ではあったかなあ。あれ?でもそれ言ったら『ドラゴン対7人の吸血鬼』は1年早いぞ。うーん、まあいいや、あれはハマーでホラーだし。
っていうか元気になったな」
「あ……」
熱弁を奮うヒルヒルが固まった。
困ったヒルヒルは大きく口を開けた。
んぱっ。
「アレックス君は食いしん坊だなあ」
和三郎はマシュマロを三つまとめてヒルヒルの口に突っ込んだ。
「んがうんぐ」
そろそろ樹海に向けて動かないと。
冒頭は「時計じかけのオレンジ」なんですが、
ほんとはもっとドストレートなものを用意してましたよ。
NGバージョンの元ネタは「怪物團」だった。
悩んでやめました。
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「We accept her, one of us. We accept her, one of us. one of us. one of us. one of us.
Gooble-gobble, gooble-gobble.♪」
脚をプランプランさせながら、ヒルヒルが小さく歌う。
和三郎は義肢入りトートバックを抱えて、後部シートの奥の方へ入っていく。
「Gooble-gobble, gooble-gobble.♪」




