45 ヒルヒル ヘネンロッターの方だった件 和三郎 脇の下はちょっと嬉しかった件
ヒルヒルと和三郎です。
2024/05/01 カデちゃん&アラクネー追加
「うわーん。わ、わ、わさ、わざぶぼう~っ」
心配して抱き着いていたリンちゃんがそっと腕を離した。
ヒルヒルが大声を上げて泣きながら、和三郎に抱き着いた。ギシギシとジェラルミンな銀色の腕が、和三郎のひょろひょろの肩に食い込む。
「いたたたたた、痛いぞ、これ。ヒルヒル、痛いよおぉぉ」
「わざぶぼーぉぉ。わたし、わたし、バスケ……バスケットケース」
「うん? 籠にでも押し込められたか? ケルベルの方? ガブリエルの方?」
「げるべるぅう、うわあああああん」
「ひどい奴だな。こんな可愛いコを籠に閉じ込めるなんて……いたっ、ちょっと、力抜いて痛い、痛いよ、ヒルヒルー」
びえーんと泣くヒルヒルを抱えて、和三郎は駐車スペースに移動したハイエースの許へ。後部座席ドアは開けっ放しのままだった。
「外すときどうするんだ?」
「脇の下辺りに……すい……スイッチ」
しゃくりあげながらヒルヒルが答えた。
義足の交換の際にデリケートなとこ近くまで接近したので、もう怖いものはない。和三郎は両腕同時にヒルヒルの脇の下を親指で探った。
「うへええ」
ヒルヒルがくすぐったそうに身をすくめた。ジェラルミンな銀色の腕がギシギシと抗議するように音をたてた。緊急格闘用の義手兼アーマーなので、拳は拳骨状になっているため、自分では脇の下のスイッチに触れないのだ。平常運転のヒルヒルなら、義手を変形させてボタンを押下しただろうが、泣きじゃくっている状態のため、コントロールもうまくできなかった。
和三郎が再度脇の下を探る。
「うひゃあい」
ヒルヒルがのけ反る。
探る。
「ひょおお」
探る。
「にゃふふうう」
ばしゅん。
ちょっと楽しい。
和三郎がようやくスイッチを探し当てたので、義手が外れた。両腕が外れたので、重みのまんまぺりぺりという感じでアーマー部分が外れていく。がしゃりとアスファルトに義手兼用アーマーが転がる。和三郎は足の上に落ちないように慌てて後ろに下がった。
ヒルヒルはそのまんま後部座席にぽふんと座った。アーマーが外れたことで、自由を得た肉が歓喜に震える、揺れる。ヒルヒルはそのまま後ろに倒れかけた。ノースリーブからちょこんと見える手萎えの先端をぴこぴこ動かして、バランスを取ろうとする。和三郎はヒルヒルの背後に回り込もうとしたのだけど、どうにも間に合いそうにない。仕方がないので正面からヒルヒルを抱きとめる。ヒルヒルの胸元に汗が光っていた。汗混じりだけどいい匂いがする。
「ふいー」
ヒルヒルが変な声を上げる。和三郎は慌てて身を剥がす。
そこへスタスタと近づいてきたカデちゃんが、和三郎に向かって無造作にトートバックを差し出した。トートバックから覗いているのはヒルヒルのノーマル義肢だった。和三郎が受け取ると、カデちゃんはにんまり笑うとアラクネー達のいる方へ去っていった。
戻って来たカデちゃんにアラクネーが声をかける。
「あの蛭子の娘、危ういですね」
「うーん、まあね。たまたまだよ。最近はめっきり減っていたんだけどね。虐げられてた頃のどす黒い感情が蠢いちゃったんだよ」
「人間とは難儀なモノですね」
和三郎は義肢の入ったトートバックを手に、ヒルヒルに近づいていく。
ヒルヒルはしょぼんとシートに横向きに腰かけて、脚をプランプランさせていた。
ヒルヒルの毒吐きは次回で。