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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 公安8課富士へ
43/135

42 ヒルヒル ベリアル兄さんになる

ヒルヒル話。和三郎はいいや。男のうじうじはもうちょっと後でやってやるから。先にヒルヒルをヒロインにしないといかんのだよ。


2024/06/17 ヒルヒルが兄を損壊する場面加筆修正。メンタル削がれる。

ワサワサは楽しそうに電話に出てる。

ケンゾーはリンと一緒。カデちゃんは田部サンと一緒。

ちょっと一人ぼっちになった。

ふと見やるとタケミナカタと目が合った。

ずんずんと近づいてくる。

「ハルコ殿は蛭子の末だとのことだが」

「はい、そう聞いてます。神様との混じり者だって。だから手萎え足萎えだって。蛭子命って最初からそうだったんですか?」

「うーん、生まれるところを見たわけではないからな、ほんとのところはわからんよ。生まれてすぐに流したとしか教えてもらってなかったしな。聞いた話では手足はなかったと……そのう、苦労したのか?」

「どうなんでしょう? 手足がないのは生まれた時からだったんで、自分にとっては当たり前の日常でした。苦労なのかなあ? 手萎え足萎えの先っちょは触れたものを自在に操れたので、周りのいろんなものを手みたいに使ったり、脚みたいに使ったりしてました。ああ、でもコントロール? 健常者だと力加減とでも言うのかな、それはほんとに慣れるまで大変でした」


慣れるまで? 慣れる? 

義肢のコントロールは一人でコツコツやることだから、別に苦労はなかったし、つらいと思わなかった。

慣れない? 慣れないのは人の視線。憐憫でもなく拒絶の気持ちが籠った視線。嫌なモノなのに見てみたい、怖いもの見たさ、興味本位の視線。

慣れない、よなあ。

急にいろいろぐるぐるぐるぐるとヒルヒルの中から悪い感情が這い出してきた。


私には2つ上の兄がいた。うちの両親も自分の家が蛭子の家系だなんて知らなかった。ごくごく普通の一般家庭と言われているものだと思っていた。手萎え足萎えが生まれた衝撃は大きかったらしい。両親は自分たちの動揺をどうしていいかわからずにいたのだから、兄が私の姿を見て、どう思ったかまでは考えが回らなかったんだろうなあ。

兄は私を排除しようとした。親は畏れていたのだと思う。でも兄には親の愛情を独占していると映ったんだろうな。親の愛情を横取りした相手が、可愛い女の子なら良かったのだろうね。諦めもついただろう。だけど、人間としても出来損ないにしかみえない、手萎え足萎えが両親を独占する。独占したというよりも、両親は祟られたらどうしようという気持ちが強かったようだ。よくわからん生き物な妹が親を独占する。幼い兄には耐えられなかったのかも知れない。黒いしこりがぐずぐずと兄の中で膨れ上がっていったんだろうな。今ならなんとなく想像はつく。


まだうまく身体を操れなくて車椅子に乗っていた時のこと。車椅子だけど足萎えの先端が触れているから自在に操ることはできたんだけど。


兄とその友達が私を無理やり車椅子から持ち上げて放りだした。じゃりじゃりと顔が砂利混じりの路面に擦れて擦り傷ができる。今度は無理矢理持ち上げられて籠に入れられた。ラタン編みのバスケットケースだった。そのケースに兄たちは私を無理やり押し込んでふたを閉めた。

少しだけ持ち上げることができた隙間から顔を覗かせる。

「お前は今日からベリアルだ」

「化け物にはお似合いの名前だ」

兄とその友達は非情だった。


いつも顔に緊張が走ってる。

笑ってるのに笑っていないお父さん、お母さん。


「ほんとは家の子じゃないんだろう。

私が来た時くらい隠しておきなさいよ」

あれはお祖母ちゃん?


「伝染るんでしょ」

近所の妙子おばちゃん。


「こっちを見たわよ、呪われちゃう!」

クラスメイトの見たくないのに見ようとする好奇の視線。


嫌な視線。歪なものを見る視線。嫌悪感の滲んだ視線。悪意に満ちた様々な視線。

晒されてきた自分の中に生まれた真っ黒いもの。ずくずくと溜まっていた何かが頭をもたげた気がする。手萎え足萎えの先端に接していた籐籠の繊維が解けて再構築されていく。ラタン編みの籠が手足へ編み上がり変貌していく。

気が付くと歪にも細長い脚と歪にも細長い腕が生えていた。

その姿に兄と友達は慄いている。

兄たちを見下ろす。

私は両腕を伸ばした。絡み合った3ミリの太さのラタンが無数に兄たちに迫る。そのまま半ズボンから伸びた脚の脹脛と腿にぷすぷすと穴を開けて潜り込んでいく。


「ぎゃああああああ」


遠くで兄たちの悲鳴が聞こえる。両腕から伸びたラタンは兄たちの身体を出たり入ったりしながら、きしきしとみりみりと肉と骨を編み込んでいく。編み込んで編み込んで………。


「俺は溺れる夢だが、君は籐籠の悪夢を見るのかい?」

タケミナカタがヒルヒルの5番装着のままでジュラルミンな銀色の武骨な腕にそっと手を添えた。


「あ……」


びくんと震えて心の内に潜り込んでいたヒルヒルが浮上してくる。


「あ……あれ…?」


ぽふっとヒルヒルは腰に抱き着いてくる感触を感じた。

「るるるい」

リンちゃんが涙目で見上げてくる。

タケミナカタを見て、リンちゃんを見て、またタケミナカタを見る。

「ごめんなさい。なんだかわたし……」


「ヒルヒル、どうしたんだ、体の真ん中がまっくろくろすけだったぞ」

和三郎が心配そうに声をかける。実際、ヒルヒルは周りの光を吸い込んで、その体の中心が真っ黒になっていたのだ。


「うわーん。わ、わ、わさ、わざぶぼう~っ」

ヒルヒルが大声で泣きだした。


兄と友達は死んではいませんが、ひどいことになってます。再起不能です。

ため込むタイプヒルヒル。怒らせてはいけないのです。

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