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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 公安8課富士へ
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36 ヒルヒル ハリウッドの方の鉄男の5番目みたいなことをする

あのですね。

アラクネーがですね。脚の先端を8本揃えてカードからするすると登場する。

そういうですね。イメージがですね。頭にふいに浮かんでしまいましてね。

書かざるを、書かざるを得なかったのです。

鳥刺の若者はなんとかアラクネーの死角を突こうと、黐竿をびゅんびゅんするのだが、鉄壁ともいえるアラクネーの捌きに遭って、攻撃が通らない状態が続く。

「よく防ぐね、あの竿」

「うふふ、あの程度のものなら造作もなくってよ」

おまけにひょろりとした黒スーツが、時折撃ってくるので、そちらにも対応しなくてはいけなかった。

徐々に鳥刺の若者は押され気味になってきた。

「ちくしょうめっ 虫けらが無表情に淡々とっ!」

「蜘蛛は虫ではなくってよ」

アラクネーが8本の歩脚で距離を一気に詰める、蜘蛛版縮地だ。

「おっといけねえ。寄っちゃいけねえ」

鳥刺の若者は慌ててアラクネーと距離を取る。先ほどまで若者がいた空間をアラクネーの貫手が切り裂く。

「ふふん。貴方これを躱すのですね」

「俺は只の鳥刺と違うぜ」

「失礼、あなたの仰る鳥刺は私の言語体系に存在しませんの。それ故違いがわかりませんわ」

ばしっと黐竿を弾き返す。


「間に合った!」

そこへ大声をあげながらヒルヒルがやって来た。手にはジュラルミンのケースを抱えている。

声に反応した鳥刺の若者が黐竿を奮う。

ヒルヒルは慌ててケースを盾にする。黐竿の直撃を受けて、ヒルヒルはそのまま遠くへ弾き飛ばされた。がらがらどこんと机や椅子を蹴散らして、その体はようやく仕切り板で止まった。ごてっと音を立てて、ヒルヒルの後頭部が床にぶち当たる。

「いたーい」

ヒルヒルは起き上がりながら、ブレザーをするすると脱いでノースリーブのシャツ姿となる。義肢の着脱を容易にするため、服は全部ノースリーブだ。袖があるおしゃれな服も着たいけど、今は我慢。ヒルヒルは両腕を胸の下で交差させて腕組みの状態へ。日々成長し、その主張を確固たるものにしてきたたわわなる両房が盛り上がる。

ばしゅん。

両方の義手が外れる。その反動で胸が大きく撓んだ。ごとりと義手が床を打つ。

「それが7番かっ?」

和三郎が声をかける。ヒルヒルは足元のジュラルミンケースに右脚をかけると、ニヤリと引っ越し侍のCMみたいな不敵の笑みを湛える。

「7番はまだ内緒です! これは5番です!」

 ケースの取っ手に足を引っかけ、重そうなジュラルミンケースを蹴り上げた。ヒルヒルは義肢を外した両腕の接続部を前方へと向けた。くるくると蹴り上げられたケースの底面接続部と、両腕接続部がかちりとはまった。

「緊急戦闘用義肢起動!」

ケースに大きなL字を起点に、縦横に亀裂が入り、かしかしと変形していく。両腕は武骨な銀色の拳となり、体と両脚を覆う鎧へと変形していく。


…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

握りしめた義肢の両手の甲に三つ柏の紋が光る。がしがしと拳を打ち鳴らす。

ヒルヒルからは黐竿をぶん回す鳥刺の若者、それに対峙するアラクネーと後ろから拳銃を撃つワサワサが見える。なんだか蜘蛛っぽい色っぽい女性が増えている。

「う~んっ! 状況的によくわかんないけど、ワサワサは私が守るっ!」

アラクネーが面白そうに和三郎を横目で見つめる。

和三郎は苦笑するしかない。


「ちぃっ」

鳥刺の若者がアラクネーの攻撃を避けながら舌打ちをする。こいつはまったく不利ってもんだ。いくらおいらが鳥刺の中の鳥刺だって、限度があらあ。姉さんに言われて談合坂まで出張って来たのだ。追いかけてきたタケミナカタは見事刺したんだ。後はおまけのはずだってえのに。

「寄るな、寄るな、煩わせるんじゃねえっ!」

アラクネーの貫手、和三郎の銃撃、そして吶喊するヒルヒルと、さすがに鳥刺の若者も防ぎ切れない。

ヒルヒルの剛腕が鳥刺の若者のボディを捉える。

その刹那。

ヒルヒルは何者かの攻撃で弾き飛ばされてしまった。がらがらどこんと机や椅子を蹴散らして、

がしゃん

その体は自販機にめりこんで止まった。ごつっと音を立てて、自販機からあふれだしたドリンク缶がヒルヒルの後頭部にぶち当たる。

「なに?」


アラクネーの貫手を袖で受け止め、和三郎の銃弾を左手の掌に集める。

「あらまあ、お強そうな方が現れましたね」

「諏訪大明神に、鳥刺の次は花魁かよ。このサービスエリアどうなってんだよ?」


島田髷を結った最上位盛装・伊達傾城(だてけいせい)を着こなす遊女の姿があった。歌舞伎の揚巻や大磯の虎などがこの衣装で舞台を彩るから、なんとなくご存じの向きも多かろう。美しい容貌をさらに白く塗り、妖艶さを漂わす遊女が、アラクネーと和三郎の攻撃をたやすく受け止めたのだ。

「何やら胸騒ぎがした故、赴いてみれば。いやさ甚五や、難儀なことになってますな」

「す、すまねえ。鳰鳥(におどり)姉さん」

甚五と呼ばれた鳥刺の若者が困惑しながら答える。


「これはヤバそうだな。

和三盆、アラクネー、形勢逆転に次ぐ逆転。

車に戻るぞ!」

ケンゾーが大声を上げる。リンちゃんは自販機にめり込んだヒルヒルを助け出して、車に向かって駆け出している。ドアに手をかけたリンちゃんと担がれていたヒルヒルは、駐車場より迫る和服姿の少女たちの姿を確認した。

「えーっと、花魁がやって来たってことは、あのこっちに向かってるのって、禿?」

「るるるーっ」


だだだだだだだんっ。

容赦なく銃弾を浴びせてきた。

禿たちが手にしているのはアサルトライフルのFN FNCだった。『ヒート』でハナ刑事が使用していたものだ。

フードコートを後にして、表へ出てきた和三郎が吼えた。

「お前ら、どんだけ『ヒート』好きなんだよっ」

予期しないアラクネー登場で、戦力的に鳥刺の若者が不利になったのです。

バランスを取るためには鳰鳥と禿軍団を投入せざるを得なかったのです。

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