34 和三郎とロバとで二浪
ニールと鳥刺登場で何かが起きるか?
マイケル・マンは映画監督。リアル志向のアクション映画を多く輩出している監督さんだ。なかでもTV映画『メイド・イン・L.A.』をベースに、発展させた『ヒート』が有名だ。『ヒート』はアル・パチーノとロバート・デ・ニーロの2大大物俳優共演でも話題となった。アル・パチーノは家庭にいろいろ問題を抱えているが腕の立つヴィンセント・ハナ刑事を演じ、ロバート・デ・ニーロはクレバーな強盗団のリーダー、ニール・マッコーリーを演じている。中でもマイケル・マンの意向でリハーサル無しぶっつけ本番で撮影された、刑事と強盗が直接顔を合わせる10分ほどのシーンは、何気ない会話と仕草の応酬なのに、異様な緊張感を孕む名シーンとして語り継がれている。日本語吹き替え版はアル・パチーノを青野武と菅生隆之が、デ・ニーロを津嘉山正種が演じていた。
でだ。EXPASA談合坂 (下り)のフードコートに現れた謎の男は、容姿が『ヒート』出演時のロバート・デ・ニーロをそのまま再現した姿だった。加えて日本語で話し出した。その声が津嘉山正種そのものだったのだ。だから、和三郎とヒルヒルは大声を上げたのである。男の正体よりもそっちを優先してしまった。悲しい性ゆえに。
「……で、どこから来たって?」
「諏訪神社の方から?」
ニール(仮称)がなぜか疑問系で答える。
「いやだよ、おいおいおい。水道局の方から来ましたって言ってバカ高い浄水器売りつける詐欺まがいの商売があったけどさ。神社の方から来ましたって…。これ、新手の詐欺じゃないの?」
和三郎が段々いつもの調子を取り戻してきた。ニール(仮称)はデ・ニーロがよくやる手ぶりをつけて頭を振る仕草で抗議する。
「詐欺ではない。ほんとに諏訪神社から来た。いつもはもっと大きい社に居るんだが、このサービスエリアの裏手に小さな社があるんだ、そこを経由してここまで来たわけさ。君たちに用があるんだ」
「ワサワサ、神道系の世界線の人だよ」
同じ匂いを感じたのかヒルヒルが和三郎に指摘する。
「しかもごっつい強い」
ニール(仮称)はヒルヒルの言葉にまんざらでもないと少しだけどや顔だ。
「諏訪神社ってことは、建御名方神っすか?」
カデちゃんがニール(仮称)に尋ねる。
「日本書紀ではそう呼ばれてるね。くだけた感じだとお諏訪さまとか諏訪明神とかね」
そういうとニール(仮称)、もといタケミナカタは手の甲に諏訪神社の神紋である諏訪梶の葉を浮き上がらせた。
「その神様が、なんでニール・マッコーリーで津嘉山正種なんだよ」
「マイケル・マン作品が好きでね。『TOKYO VICE』もチェックしてるよ。特に好きなのが『ヒート』でね。続編も制作されるらしいから、どうせならニールで顕現してみたってところさ。ほらこのタクティカルベストも銃撃戦の時に着けていたやつだよ」
「有料チャンネル加入して、世界100着限定ベスト買って、お布施でそんなうらやましいことしてるのか、神様はっ!」
「Nで始まるのとUで始まるのとDではじまるのも加入してるよ」
「くーっ、『忍びの家』『ベイビーわるきゅーれ』『黄龍の村』『ゴーストハンターズ』『ダイ・ハード』見放題じゃねえか! 映像環境自慢に来たわけじゃないんだろ。ほんとは何しに来たんだよ」
「そうだ見放題だ。例の監視塔が破壊された件で来たんだろ? それ絡みで頼みたいことがあって、ここまで来たんだよ」
「なんか知ってるのか」
和三郎が真顔になる。
「あそこは封印されて久しいからね、内部の細かい動きまでは私にもなかなか察知できなくてね。富士の樹海近辺はとにかく、いろいろきな臭いことになっているよ。内側も外側も」
「まあ、古のもののスライムが出てくるんじゃないかと予測はしてるんだけど、実際どうなんだ?」
意を決してタケミナカタが話し始めた。
「古のものであろうと考えているが、あの溶岩の下に埋められてしまっ……」
びゅびゅん。
風切り音が鳴り、タケミナカタの額に黐竿の先端がとすっと刺しこまれた。途端にタケミナカタの身体が謎の書類にまとわりつかれ、アーチボルド・"ハリー"・タトルよろしく消えてしまった。
およそ5メートルほど後方からの、突然の攻撃だった。
「うんふふふ。俺が構えると黐竿も槍になる」
林の中をすたすた歩いていた、アロハで半ズボンな鳥刺の若者の仕業だった。
少しは物語動いたでしょうかね。
アロハの鳥刺のセリフや文言は国枝史郎『信州纐纈城』を参考にしてます。




