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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 公安8課富士へ
28/164

27 シュタ公 威嚇する

新章突入。舞台は富士山近辺なので、宮下文書とか、国枝史郎とか、漠然とそんな話でしょう。

2024/04/03

中島敦&白糸台、謎の二人の会話を追加。


2024/04/09

すっかり忘れていた水門ニック研究所の開發恵ちゃんを追加

5メートルは越えている分厚いコンクリート壁、その上には有刺鉄線が巻かれている。何十メートル間隔かは忘れてしまったが、等距離で監視塔が立っている。どこで事件が発生しても迅速に対応できるようになっている。半径1.2キロメートルごとに配置されて配達に特化したなんでも酒やカクヤスシステムだな、などとぼんやり考える。出前で化け物運ばれても困るけどな。


青木ヶ原樹海は富士吉田警察署の管轄だ。多分、管轄区域で発生した事件を担当する警官よりも、樹海に割かれている人員の方が多いはずだ。樹海で何かがあったときに、まず最初に対応するのが富士吉田となる。

昼間からずっと嫌な予感がしていたので、富士吉田警察の樹海監視を担当する白糸台は、第15監視塔に顔を出した。


監視塔の破格のルクスを誇示するライトが森を照らし出している。くそみたいに眩しい照明で森を照らしているのだが、森は光を吞み込んでしまうのか、数メートル先はやはり闇の中だ。

「『闇の中へ』だっけ? 『奥へ』だっけ?」

白糸台は隣で日誌を打ち込んでいる中島敦に尋ねた。

「えーと、『奥へ』が正解。でも、トーマスさんは『ファイアフォックス・ダウン』だけじゃん、面白いのさ。イーストウッドが監督やってたね」

本の虫の中島敦が答えた。虎になっちまう探偵と同じ名前だ。いや、違う、虎になったのは李徴だった。敦は書いた人だよな。

「思考を読む戦闘機。ロシア語しか認めん! 日本には頼もしい『戦闘妖精・雪風』が居るじゃないか」

「サイバーパンクの世界じゃ、日本は敵なしだな」

「ああまったくだ」


白糸台はふと遠くにかすかに見える第14監視塔を見やった。

監視塔の大きな窓ガラスに赤い光が一瞬走り、内側から炎があがったのか、ぼふっと天井が膜れ上がった。

遅れてくぐもった爆発音、続けて低い振動が第15監視塔を揺るがした。

「え?」

中島敦の動きは止まり、白糸台は第14監視塔が炎上するのをじっと見続けていた。

囂々と燃える第14監視塔の中にすらっと佇む影が見えた。影は第15監視塔をきりりと見つめている。

「こりゃ、かなり大ピンチなんじゃね?」



シュコっというエンタープライズ号船内のドア開閉音みたいな音と共にモバイルメッセンジャーにメッセージが届いた。

うず高く積まれた書類、そのた雑多なもろもろの中で、蠢く白衣がスマホを手に取った。興味なさそうに画面を見つめたが、みるみる表情がギラギラしたものに変わった。

「来たっ これっ!!」

ドアを勢いよく開けると大声を上げる。

「セバスっ! 瀬蓮張(セバスチャン)!」

「お呼びですか、開發様」

「うんっ、うんっ! 呼んだっ すっげー呼んだのよーっ」

「いかがいたしましたか?」

「樹海だよーっ! 樹海に行くよっ。準備お願いね」

水門ニックが設立した水門ニック研究所で開發恵が雄たけびを上げたのは、樹海の監視塔が破壊されたのと同じ時刻だったという。


薄暗がりでぴすぴすと荒い鼻息が聞こえてくる。

8課の和三郎のデスクから、カチカチとマウスを操る音が響いていた。

「いあっ いあっ」

シュタ公がマウスを操り、なにやら検索をしている。


モニターに地図が映し出された。画面中央に建物も道もほとんど記されていない真緑が広がっていた。

画面左上に住所が見える。

「〒401-0300 山梨県南都留郡富士河口湖町鳴沢」

そこはあの

青木ヶ原樹海であった。


「いあああああああっ」

やり遂げたシュタ公は雄叫びを上げてから、デスクに突っ伏して眠っていた和三郎をたしたしと叩いた。


「ん-…どうした? シュタ公」

「いあっ」

シュタ公が画面を指差す。

「んーと、青木ヶ原樹海だな、これは。8課で扱うアレやソレがたくさん居るところだ。俺でも知ってるぞ、そんくらい」

「いあっ いあっ」

シュタ公がキラキラのガラス玉で和三郎を見つめている。

和三郎もぼんやりと見つめ返す。


怪物(くま)と闘う者は、その過程で自らが怪物(くま)と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵(ぬいぐるみ)を覗くならば、深淵(ぬいぐるみ)もまた等しくおまえを見返すのだ」


シュタ公を始めてみた時に同じことやったな。

「ウチのぬいぐるみ様は、なんでこの森(青木ヶ原樹海)に惹かれたのかね」

「いあっ いあっ」

シュタ公はジェスチャーで伝えようとしている。しかし、和三郎にはアリクイやレッサーパンダの威嚇のポーズにしか見えない。

「うーん、わからん」


ごうごうと音を立てて第14と第15監視塔が燃えている。中島敦と白糸台は謎の襲撃者が監視塔を破壊する寸前、防御壁の外へと飛び出した。そのまま落下したら大怪我コースだが、運よく下をターレットが通りかかったからだった。ターレットが焼却場へごみを運んでいたのだが、そのごみの中へとすぽっと落下したのである。

「中島よ、あれは何だったんだ?」

「白糸台よ、俺にも分からん」

一瞬で2つの監視塔が破壊された。監視塔破壊後、犯人は姿をくらました。

「中島よ、少なくともいつも壁にやって来るアレソレではなかったな」

「そうだな、白糸台。どうにもあれはレベルが違った」



「姉さん、2つだけで良かったのかい。その気になりゃあ、おいら全部平らげる事もできたんだよ」

「二つで十分。ここの結界はね、とうの昔に綻んでいたのさ。その綻びを一押しすればね。

後はね……」

何やら物騒な物言いをしている二つの影は、樹海の中から打ち壊されて炎を上げる監視塔を眺めていた。てらてらと赤い炎に照らされた男女の顔は、気味の悪い笑顔が張り付いていた。


「いああっ!」

シュタ公が大きく振りかぶり、手ぶりで何かを伝えようとするのだけど。

「すまん、さっぱりわからん」

和三郎の返答に、シュタ公はしょんぼりするのだった。


どうやらこの世界線の青木ヶ原樹海は我々の知っている、自殺の名所、スーイサイドフォレストとは趣が異なるようです。



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