17 ケンゾー コーラクエンに啼く
ケンゾーとリンちゃんその2
2024/05/22 勘解由小路檸檬のダイアローグ調整
「此処のビルはエレベーターがないのだ」
ケンゾーとリンはトコトコと階段を降りていく。
リンは何か楽しいらしく、一段階段を降りるごとに
「るっ」「るっ」とリズムを取っている。
「あとは勘解由小路くんに、野郎どもの身柄とカードとカードリーダー渡しておしまい。そうしたら、和三盆に会いに行こう」
「るっるるーっ」
リンが嬉しそうにブンブン腕を振り回した。
「リンは和三盆のことお気に入りだからなあ」
和三盆こと和三郎は、リンに気に入られていた。
霊感とか第6感などと言われるものを持っている人間には、リンがなんとなく不自然な存在だとわかってしまう。モンスターであると、心の中で警鐘が鳴り響くらしい。途端に挙動が不審になる。わかっちゃいることなんだけど、やっぱりリンの心は傷ついてしまう。人類は楽ちんな生活を手に入れて、安全に暮らせるようになった。だからといって野生の勘というか生存本能に根差した部分はまだまだきちんと機能する人間がいるらしい。
和三郎は違った。
和三郎はリンが人間じゃないとなんとなくわかっている時点で、ビビったり手にべっちょり冷汗かいてるのを胡麻化すような態度を取らなかった。リンがゴブリンであると知った後も、普通に接している。それがリンにはとてもうれしいことだった。
加えてあんパンを半分分けてくれたのもかなり好きだった。
ホイップクリーム入りなのも点数が高かった。
リンは楽しそうに雑居ビルから路地へと飛び出した。
その瞬間、リンの頭があらぬ方向を向いて急激に傾いた。何かの衝撃波を受けて、強烈になぎ倒された。リンはアスファルトをすごい勢いでゴロゴロと転がり、電信柱に激突して止まった。
「対応早っ!」
ケンゾーがビルの入り口から、リンを襲った攻撃の方向を確認する。
歪な翼を大きく広げた明らかに人間でないモノが立っている。
ケンゾーに気づいたソイツはくわっと大きく口を開いだ。
衝撃波が走る。
がりがりりい。
覗き込んでいたケンゾーを狙った攻撃が、雑居ビルのコンクリートの壁を抉った。
「コッキーポップな飛び道具で個人勝負」
電信柱に激突したリンが無事か確認する……のだが、罅の入った電信柱がそこに在るだけで、すでにリンの姿はなかった。ケンゾーがふふんと鼻で笑った。
リンは反撃の機会を狙っている。
やられたらやり返す!以下省略。
その時、ケンゾーを細かい振動が襲った。ポケットからケータイを取り出し、発信元を確認する。
【勘解由小路檸檬】
カードを受け取りに来る相手だった。
そうだそうだレモンちゃんだった。長いうえに難しい漢字ばっかり。若干キラキラもしてる。
「あたしぃ、小学校高学年までー、自分の名前漢字で書けなかったんすよー」
名前の話になると必ず頬を膨らませてぷりぷり愚痴っていたなあ。
少しだけ現実逃避したケンゾーは、電話口に出る。
『もしもしぃ、ケンゾさん、ケンゾさん。
カデです。赤鯥上海公司の近くに居るっス。今どちらですかぁ?』
「お疲れー、レモンちゃん。まだビルに居るよ。野郎どもは5階に山積みにして置いた。
カードとカードリーダーは僕が持っている。
そして残念なお知らせです」
『いやだなあ、カデって呼んでくださいよ。レモンちゃんはちょっと…。
えっ? 残念なお知らせって何すかぁ? ひょっとしてこの前みたいにカードリーダー全損すか?』
「あの時は自暴自棄でカード使って爆死した明洞衆が悪いでしょ。うーんとね、今は建物に近づかない方がいいよ」
『へ?』
「亜種遣いの待ち伏せに遭ってる。
リンが吹き飛ばされた」
『えー、それ最悪っスー』
「そうだねー。亜種遣い、コーラクエンで僕と握手、みたいにはいかないからなあ」
『嫌だなぁ、中華チェーン店で握手してどうすんすかっ』
「じゃあ、亜種遣いゲットだぜ! とはいかないからねえ…これでどうだ」
『……それなら…まあ、なんとなく言わんとすることは判るっス』
「変なとこでジェネレーションギャップだねえ
このあと、カデちゃんも参戦予定。