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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
八雲式端末 其の弐
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132 シバテツと卍解ならぬカンカイ

八雲式端末編。一旦ここで区切るはずが伸びてしまった。


2025/06/11 どえりゃあ→なまら

シバテツは昼過ぎにむくりと起き出した。

二日酔いで頭がぐあんぐあんしている。熱いシャワーを浴びて、頭をしゃっきりとさせる。歯磨きをすると吐き気がして咳き込んでしまう。コップにアルカセルツァーをポトン。シュワシュワと炭酸の泡が沸いてくる。これ初めて外国映画で目にしたときには、あの炭酸飲料はなんだろう、飲んでみたいなあなんて思ったもんである。シュワシュワを一気に飲み干した。

美味しいものではなかった。

洗面所の鏡に向かって、ニッコリ笑顔。

「It's showtime!」

と言ってもサメとは戦わないし、ダンスもしないんだけどね。


シバテツはママチャリにまたがり買い出しへと出かける。

このママチャリで普通に歩道を走っていたら、親子連れに露骨に避けられたことがある。別にガン飛ばしていたわけでもないんだよ。普通に自転車漕いでいただけなんだ。


解せぬ。


マイタケにしめじにブラウンマッシュルームにエリンギという大量のキノコ達。チタン製の中華鍋に全部細かく刻んでぶち込んで炒める。

チタン製の中華鍋と言えば、常連だったラーメン屋を思い出す。結構爺さんな店主が中華鍋で華麗にチャーハンを作ってくれる。ご飯を炒める際の鍋肌におたまが当たるカカカッカカッ、カカカッカカッという音が、また食欲をそそってくる。ただね、やっぱり高齢なんだよな、お爺ちゃん店主はさ。通い始めた頃はScherzando(たわむれるように、軽快に)だったのが、段々とテンポダウンしていった。老いと体力低下は悲しい哉! その後、店主は体調を崩して、すぐに入院、お店は休業。1か月くらい。

再開したとのうわさを聞いて、勇んで中華食堂へ向かったっけ。

「お兄さんは、大盛チャーハンね!」

店主がいつもの大声で応答してくれる。

今日はラーメン食べようか迷っていたんだけど。

いや、まあ結局はいつもの大盛チャーハン頼むんだ、結果的にはね。

でもさ、たまにラーメンが食べたくなってても、店主はお構いなし。シバテツが店に入るとすぐに中華鍋に油しいて溶き卵炒め始めちゃうんで、そのまま何も言えず。

毎回大盛チャーハンを頼んでしまうのだった。


テンポダウンしていた鍋の音はいつものテンポに戻っていた。

戻っていたんだが、なーんだか音の響きが違うんである。ガツッガツッという鉄の音では無い。少し軽い感じの音に変わっていた。

よっぽどシバテツが怪訝な顔をしていたのだろう。

チャーハンを出すタイミングで店主が中華鍋をくるくるっと回してシバテツに笑いかけた。

「これチタン。もう鉄のお鍋は重くて振れないよー」

そんなわけで、今、シバテツも店主に倣ってチタンの鍋を振っている。

味の素。ローレルやらカルダモンやらターメリックやらクミンやらの香辛料を加える。トマト缶にカレー粉に合いびき肉。トマト缶と赤ワインを入れてくつくつと煮る。良い感じで水分が飛んだところでカレー粉を入れて塩で味を調える。

タッパーに収納して粗熱を取ったら冷蔵庫へ。店の看板メニューのドライカレーの出来上がりである。ミックスナッツやチータラなどの乾き物を補充する。


「大東食品のカンカイ?」

「うん、カンカイ。どっちかっていうとコマイの方がわかるかな。氷の下の魚と書いて氷下魚(コマイ)

オーナーが北海道出身なので、以前氷下魚の干物を置いていたことがあった。タラ科の魚なので水分多めであり、いたみやすく日持ちはしない。そんな氷下魚をカラッカラになるまで何度も干したもの。

人、それをカンカイと呼ぶ、らしい。

こいつは非常に旨い。干すことで旨味が醸成されている。酒の肴としてとても素晴らしい(エクセレント!)。いうことなしなのだが、これが本当にとっても、えらく、なまら固いのが玉に瑕。皮は硬いし食べないので剥かなくちゃいけないのに硬すぎて剥けない。骨も取らなくちゃいかんのだけど、硬すぎて癒着して取り出すことができない。そのままでは嚙み切れないほどとにかく硬い。どうやって食べるんじゃ! と不安に思っていたところ

「このままじゃ食べられないんだよ。食べるにはこれが必要なのさ」

そう言ってオーナーが取り出したのは木槌であった。

客が忘れていったそこそこ厚いジャンプSQを取り出して、その上に氷下魚を乗っける。シバテツを一瞬見たオーナーがニヤリと笑う。尻尾を抑えて氷下魚の身の部分を木槌でガンガンと叩き始めた。木槌のリズムでカウンターがビヨンビヨンと波打つ。

「こうやって硬い氷下魚の肉の繊維を柔らかくしてやるのさ」

オーナーがガシガシガンガンと叩き続けること数分。さっきまでカチカチだった氷下魚が、なんだか身がほぐれて良い感じになっていた。オーナーはぱりぱりと皮を剥ぎだす。硬い時はまったくお手上げだったのに、容易に皮が剥けていく。氷下魚を持ち換えてお腹側から左右に割いて、骨を露出させていく。そのままきれいな形で、オーナーは骨を取り出していく。次に身を割いていく。


旨い。


旨いのだが木槌のガンガンで脆弱なカウンターが壊れそうということで、取り扱いは却下となった。

中華鍋と氷下魚の事を書いていたら思いのほか長くなってしまった。

一応次で八雲式端末は一区切りつくはず。

新発田哲也の修羅の道の始まり始まりー!

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