131 シバテツ レイヤーを学ぶ
八雲式端末の続き。
「ヒゲモジャじゃない頃よ。
綺麗な顔のキアヌが悪魔祓いする話があるじゃない?」
九重さんが両拳を握り、両方の前腕部をくっつけて、正面に突き出す動きを取った。それを見たシバテツはちょっと斜め上前方を眺めながら話し始めた。
「『コンスタンティン』。2005年に公開されたアメリカ映画。原作は『John Constantine, Hellblazer』。『スーパーマン』を擁するDCコミックスの別レーベルであるヴァーティゴからリリースされた」
「ああっ、そういう御託はいらないっ! シバテツは話の腰折すぎー」
「いや、すみません。自分、好きな映画なんで、つ、つい……」
「まあ、わからなくもないわ。ガブリエル役のティルダ・スウィントンがとてつもなく美しいのだけど、それよりも! ルシファー役のピーター・ストーメアがねー!
枯れた感じで良いのよ。あの厭世観たっぷりの演技、たまんないわ」
「純白のスーツ、だけど靴履いてなくて素足で汚泥塗れ。これが心憎いですよね。野沢那智が声やってたっすよね」
「あーら、わかってるじゃなーい。髪の毛撫でつけながらめんどくさそうに登場するのよね。ってそういう話は後でしましょ。」
九重さんはテキーラとカシスリキュールをジンジャーエールで割ったカクテル、エル・ディアブロを一口舐める。
「『コンスタンティン』で地獄が出てくるでしょ?」
「現世のロサンジェルスとそっくりそのままな地獄だ」
「地獄の様相を呈しているけど、建物や名所なんかの位置は現実世界と同じ場所にあるのよ。現世の別レイヤーが地獄みたいなね」
アニメの『電脳コイル』とかINGRESSとかポケモンGOみたいな位置情報ゲームアプリみたいなもんだろうと、シバテツはイメージする。スマホを介して知覚できる現実世界に重なるレイヤー世界。それを見ることができる? 見えてしまう?
「あたしが見えるのはその中のほんの一層だけ。中にはいろんなことを見れちゃう人もいるわよ。こないだ来たでしょ、郁さんなんかに言わせると、世界は幾層もの階層になってるそうよ。」
シバテツに見えることについてレクチャーしているのは、ゲイバーを切り盛りする九重さん。普通の男の人の格好をしている。
「私が見えるレイヤーには、霊がいたわけ。あとオーラもわかるかな。精霊がいる階層とか、神様の階層もあるみたいだけど、私には見ることができない」
こんな調子でオーナーやママさんが店にふらりと現れて、いろいろと教えてくれた。
さっき、九重さんが言っていた郁さんて人が、興味深いことを教えてくれた。郁さんが何をやってる人なのかは教えてもらえなかった。まあとにかく郁さんは見える側の人だった。
「あんたは無謀な戦いに打って出るよ。どうにもこれは止められない。勝てる勝算があるとか、こりゃ敵わないとか、そういうことは度外視して、あんたは戦いの海へ……どぷん」
「どぷん……ですか?」
「うん、どぷんってね。もう始まってる。これはどうしようもないね」
「避けることはできないっすか」
「うん。逃げたくっても、あんたは逃げられない、いや逃げないのかな。
だってあんたの生き方に関わる問題だから」
郁さんは、チェシャ猫みたいににんまりしながらそう言った。
さてさて一介のバーテンダーは何処へ向かうのでしょうか。
シバテツは実は元特殊工作員だったみたいな無双設定は無いので、さてどうしたもんか。
『オカムロさん』を観たよ。
タイトル出るまでが無茶苦茶面白いのになあ。伊澤彩織を非常にもったいなく使います。ほんとうにもったいない。