118 ヒルヒルと和三郎の覆面にまつわるよもやま話
ほらほら覆面歌手からの連想で『好き! すき!! 魔女先生』まで導きだせばよいかと思ったのに、それ以上のことをやりだしてますよ。ヒルヒルとワサワサがタッグを組むとあらぬ方向へ飛んでいくなあ。
2025/03/25 その他後半いろいろ補足。ピエロ魔女っ子、ミンキーモモ以降セーラームーン登場までの端境期とか、戦う魔法少女についても言及しようと思ったが、これ再現がなくなるなあと止めた次第。
白糸台がしゅんと落ち込んでいた。
とりあえず彼は放っておこう。
「仮面じゃなくって覆面歌手の話だったんじゃない?」
「そうです。そうです。昨今話題の覆面アーティストではなく、覆面歌手です」
えーと確か一番最初の覆面歌手が金色仮面で、これがビクターレコード所属の築地容子が正体。高島忠夫をフィーチャーした『パパはマンボがお好き』のレーベル表記が「金色仮面・高島忠夫」という、字面の破壊力が凄まじいね。この覆面歌手が話題になって、大ヒットしたもんだから、コロムビアレコードも、これに倣ってミス・コロムビアをデビューさせた。正体は松原操。旦那さんの霧島昇と歌った『一杯のコーヒーから』とかは聴いたことある人はいるんじゃない? いないか。なんたって1930年代昭和5年頃のお話しなんで、もはや誰も知らんよねえ。
「なんでそんなことを知りたくなったかというと、覆面歌手のゴールデン・ヴェールのビジュアルなんですよ」
そういうとヒルヒルが携帯の画面に保存していた写真を見せ始めた。
紺色のドレスに身を包み、黄金の女王様が付けてる仮面を掛けた謎の女性の写真。「命こがして」のタイトルが確認できる。これはレコードのドーナツ盤ってやつだ。
「それとこれ」
続けて見せてくれた画像がダイアモンド・シンガーのジャケ写。蝶々をモチーフにした仮面の女性だ。「裏窓のブルース」ってどんな唄なんだろう?
「ポリドールの覆面歌手、ゴールデン・ヴェールが『シュシュシュシューベルト』の波多マユミ、ダイアモンド・シンガーが『東京ドドンパ娘』の渡辺マリなんです。この人はコロムビアレコード。それが昭和42年に共にデビューしている。話題造りみたいなもんだからこれで終わりなんですけど、なんかに似てません?」
「うーんと石ノ森章太郎?」
「ですです! 『好き! すき!! 魔女先生』のアンドロ仮面!」
「そうねえ。紺色ベースのスーツに金色の仮面ってのは確かにアンドロ仮面的ではあるけどねえ。あれさあ、結構造形は凝ったものになってるのよ、これが。非常に石ノ森的ではあるんだけどね。原作の『千の目先生』からは想像もつかない変貌ぶりだよね」
『好き! すき!! 魔女先生』のアンドロ仮面が昭和46年なので、まあなんとなくビジュアルに影響ってのはあったかもしれない。その関連性はかなり脆弱ではあるけど、アニメや実写もので仮面舞踏会的な容姿ってのはなんだか踏襲されているような気がする。
「女の子向けアニメは『魔法使いサリー』に始まる、東映魔女っ子シリーズはあるんだけど、実写となるとあんまりない。というか、断続的でシリーズ化には至ってなかったというべきかな」
「『好き! すき!! 魔女先生』も『ジャッカー電撃隊』の早期打ち切りで、ぽっかり空いた番組枠を埋めるため急追作られたものですもんね。戦隊ものの後に女の子向け作品持ってきても、継続してみるかと言ったら見ないと思います。視聴者の訴求対象じゃないもの」
「確かに。だから大きく路線変更して、アンドロ仮面を登用せざるを得なかったんだろうなあ」
当時は男の子向けはあっても、女の子向けっていうくくりは無かったんじゃないかなあとも思う。だって魔法少女的な実写ものの最初は昭和42年の『コメットさん』で、どちらかというとファミリー向けだものね。そうやって考えていくと、昭和49年『がんばれロボコン』、昭和51年『5年3組魔法組』なんかはやっぱりファミリー向けだし。東映不思議コメディーシリーズの先鞭と言われている昭和53年の『透明ドリちゃん』あたりが、女の子向けと言えなくもないのかなあ。
しかし石ノ森章太郎と東映のプロデューサーだった平山亨が絡んだ時の、異質感ってのは何なんだろう?
明らかに他の作品とは違う雰囲気を持っているもんなあ。
明確に女の子向けっていうくくり、そういう意識が芽生えたのって、1980年代後半に入ってからだと思うな。リメイクの『ひみつのアッコちゃん』のコンパクトがバカ売れしたんで、女の子向け玩具でも商売になるっていうのが判明したから。次のリメイク『魔法使いサリー』で確実なものとなり、『美少女戦士セーラームーン』で確固たるものになる。伴って戦う魔法少女的な展開が始まるわけだけど、早くにそれを打ち出したのは斉藤由貴主演の『スケバン刑事』ではなく、実は東映不思議コメディの『美少女仮面ポワトリン』だったりするんだよなあ。
「おおーポワトリンも覆面歌手系列ですね!」
知らぬうちに声に出していたらしい。ヒルヒルがふんすと叫ぶ。
「そういえばそうだな。アニメだと総監督がおおすみ正秋、前半の監督が出崎統、後半が富野由悠季、キャラデザインが杉野昭夫という超豪華なアニメ『ラ・セーヌの星』も忘れないでね」
「エトワールっ!」
などとアンドロ仮面から発想されるあれこれを考えていたら、さて樹海への侵攻が開始となった。
分厚い金属製の扉がごうんごうんと開き始めた。
これ突き詰めていくと東映特撮作品の黎明期を支えたスピード狂な大プロデューサー平山(やって候=八手三郎)亨の功罪みたいなお話しになるんだろうけど、きっと今は誰もピンと来ないよねえ。
とはいっても平山プロデューサーが晩年、石ノ森章太郎原作作品を細々と続けてくれたからこそ、『仮面ライダークウガ』誕生へとつながっていくと思うのだよね。