116 田部サンは回想する。第二回青木ヶ原樹海平定戦の巻
ああ、そうそう、なんか公安8課の面々が赴く前に、以前この樹海で何があったか書きたくなったんだ。そんで自衛隊のことも書いておこうと思って書き始めたら、俺はそんなに詳しくないことに気づかされた。だもんで、虫食いにしておいたよ。
2025/03/19 少し田部サンと鳰鳥のやり取りを追加。「自分には才能がない」と2年で芸能活動を引退した上原美佐。いや、あんたに才能が無かったら、もっと引退しなくちゃいけない人がいっぱいいただろうに。
淡島ハルコが中学生でまだハンズフリーパーソナルモビリティのお世話になっていた頃、鈴鹿和三郎が公安8課に配置換えされるより前のこと。
田部サンは青木ヶ原樹海の巨大門扉をくぐり、同じ公安8課から派遣された、新垣、堀北、戸田と共に大きな広場に立っていた。巨大な門扉をくぐると目の前が開ける。真正面にはもう一つ大きな門扉が設置されている。そこから先は未知の世界・樹海が広がっている。その広場には自衛隊の89式装甲戦闘車が3台ほど待機していた。
「由比のやつ張り切ってるな」
堀北が笑いながら、田部サンに話しかけた。田部サンは頷きながら装甲車の方を見やった。
第一回平定戦で一緒になった自衛隊の特殊部隊……だと思うんだが、
「由比」
としか名乗らなかった細マッチョの姿が確認できた。向こうも田部サンたちに気づいたのか、視線で挨拶をする。田部サンは軽くうなづいてみせた。
※※※
見えたと思ったときにはそいつは炸裂していた。六角形の半透明の柱状のものが次々と我々めがけて滑空してきた。
「うわ、こりゃヤバい奴だ」
横にいた自衛隊員がつぶやく。
先行していた89式装甲戦闘車が閃光に包まれた。激しい衝撃と共に爆風が一拍遅れて田部サンを襲う。田部サンはそのまま吹き飛ばされてしまった。一番前の装甲車についていった戸田は、おそらく駄目だろう。2番目の装甲車も閃光に包まれ、新垣と堀北は巻き込まれてしまった。
「あああ、みんな」
新垣も堀北も、そして戸田も、はかない炭素、酸素、水素の原子になってしまった。三人の存在、きびきびした動作、ふざけっぷりなどは、もはやただの思い出だけになってしまった。
※※※
気が付くと襟首を誰かに捕まれて引きずられていた。
「お前は何者だ?」
若い女の声が上から聞こえてきた。どうやら自分を引きずっている張本人らしい。
「いや、何者と言われても……」
自分ではそう返したつもりなのだが、どうにもうまく口が動いていなかったのか、あうあう言っているだけだったようだ。
「急に目の前に現れてからにっ! 肝が冷えたわい」
何もない空間から血だらけの田部サンが現れたので、鳰鳥は驚いてしまったのだった。
「あれは、そうだな。伝説の超能力じゃな」
「いや、俺は田村良夫じゃないから……」
そう言ったつもりであうあう言いながら、田部サンは気を失った。
※※※
目の前で焚火から上がるゆるるらとした炎をじっと見つめていた。手にしたマグカップのコーヒーはもうぬるくなってきていた。そのコーヒーをちびちびとなめるように飲んでいる。
「おお此処に居ったか」
声を掛けられて田部サンはそちらを振り向き、少し見上げた。自分を運んでくれた女性だ。人一人引きずっていたのだから、もっと屈強な女性を想像していたのだが、まったく自分の想像と違う華奢な女性がすっくと立っていて、少し驚いた。
「何を呆けておる。まあ命が助かって良かったのう」
この女性を見ていて何かしらの違和感を感じていたのだが、今その正体がわかった。話し言葉が古臭いとかもそうなのだが、それ以上に服装が珍妙だったのだ。
「ああ、雪姫?」
「おお、わかったか。ヤン小紅と迷ったんだが、雪姫で行くことにした」
この女性、黒澤明の『隠し砦の三悪人』で上原美佐が演じた雪姫の衣装を着ていたのである。自衛隊員のオリーブドラブな制服の中で、ひときわ目立っていた。ちなみにヤン小紅は岡本喜八の『独立愚連隊』に登場する馬賊の娘で、同じく上原美佐が演じていた。
「名乗ってなかったな、似鳥じゃ。雇われの兵隊じゃよ」
「田部です。警察から出向できてます」
鳰鳥と田部サンの出会いはこのようなことであった。
そのうち間を埋めるか、別の機会に詳細を語ることにしたい。
「赤羽骨子のボディガード」を見て、ラウールのスンバらしい演技に笑った。加えて山本千尋と土屋太鳳をすっごくもったいない使い方でがっかりした。いったい俺はいつの時代のアクション映画を見ているんだろうと思ったわけで。アクション映画でもないよな、予算が少ないVシネマみたいだった。
「MAD CATS」で下がったテンションを上げ直した。男は役立たずばっかりの化け猫大戦争のお話しなんだけど、カッコいいレイアウトとキレキレのアクションがあれば、画面は保たれるのだなあと思った。