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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 青木ヶ原樹海 暗黒舞踏変
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113 ヒルヒルの金も要らなきゃ女も要らぬー(やった!)

メインに戻るとほんとに話が進まねえな、おい。

ケンゾーと和三郎は広場で佇んでいた。集合時間まで少し時間がある。先についてしまった二人がぼんやりと喋りだした。なぜか誰もいない前方にお辞儀をしてから……。

「最近思うのだけどね」

「何を?」

「好きな物ならずっと食べていられるなって」

「そうか、同じものずっと食べ続けるのはしんどくないかい? 例えば何だったらずっと食べられるの?」

「そうだなあ、僕は鍋が好きだなあ。鍋だったらいつでも食べられるなあ」

和三郎がにんまりと笑った。

「ケンゾーは鍋を食べるの?」

「ああ」

「僕は歯が弱いから駄目だけど、鍋と言っても鉄鍋とか、土鍋とかいろいろ種類があるけど、ケンゾーはどの鍋を食べるの?」

ケンゾーも何か通じ合うものがあったのか、なんでか口角を上げる。

「鍋を食う訳じゃないよ、鍋の実を食べるんだよ」

そこまで話した後で、顔を見合わせて笑い出した。

「うーん、僕が喜味こいし役は無理があるなあ。どっちかというと僕がいとし師匠役でしょ?」

「うん、確かに。いつもとやり取りが逆な気がした」

ケンゾーと和三郎は、レジェンド漫才コンビ夢路いとし・喜味こいしの「ジンギスカン」の触りを再現していた。

「かしわの話がよくわからなかったね」

「確かにかしわ肉=鶏肉というのは地域で呼称が変わるネタだろうな。今だとヤマモリのかしわ飯の素くらいでしか見ないもんなあ。正確にはかしわ肉ってのは日本在来種のことらしいよ」

「へー。じゃ鶏肉ってのは?」

「メリケン経由で入ってきたブロイラーのことなんだってさ」

「ほー」

雲雀が飛んでいる。


「『変身物語』」

ケンゾーが突然本のタイトルを呟いた。

「え?」

「『変身物語』」

「あ、うん」

「プーブリウス・オウィディウス・ナーソーが著した『変身物語』にも取り上げられているんだけどね」

「って、これまた召喚び出すモンスターの名前を思い出せないパターンか? 」

「機織り勝負……」

「アラクネーだよっ! 勝負に負けたうえ、アテネーに殴られてショックで自殺しちゃったんだよっ! もういい加減憶えてあげなさいよ。姉さん、そのうち怒り出すぞ」

「うん……それな」


「アラクネー カムヒヤ!」

ケンゾーが谷山さんカードをかざして名前を呼んだ。

パリンと割れた円錐の先端から、8本の歩脚の先端を覗かせて、するするとアラクネーが姿を現した。

「アラクネー発進します。危険ですから白線の外側までお下がりください」


「姉さんはさあ、召喚ばれてないときは何してるの? U-NEXT観てるでしょ」

半分呆れた顔で和三郎が突っこみを入れる。

「いえいえ、わたしの中で最近バズっているのは、ボーイズスタイルか知らん」

「あきれたぼういずを始祖とする?」

「そう。玉川カルテットみたいな浪曲ショウも好きよ」

召喚びだしたくせにケンゾーは話題についていけずきょとんとして、和三郎を見つめる。

「うーんと、えーと、なんて言ったらよいのかなあ。クレイジーキャッツとかドリフターズなんかのコミックバンドとかもそうなんだけどね、音楽演奏して歌って笑いも取るという、まあ賑やかで贅沢な演芸かなあ」

それでもケンゾーはきょとんとしている。ネグレクトの母親に放置された過去を持つケンゾーはこういう話は疎かったりする。するとどこからともなく歌声が聞こえてきた

「さああさー

出ました私らトリオ~♪」

ヒルヒルである。アラクネーがヒルヒルの歌声に合わせる。

「歌って」

「笑って」

「「ほがらかあにぃ~

トリオっ!

トリオっ!

ジョウサンズー♪」」

なんなんだろうか、このヒルヒルって娘は、人気浪曲師の日吉川秋水の従妹、日吉川秋水嬢を中心に結成されたトリオ浪曲漫談のジョウサンズの出囃子をなぜに知っているのか? どうせサブスクガーとかユーチューブガーというに決まっているんだが。ちょっと前までは正月のテレビの演芸番組と言えば、「いつもより多く廻しております」で有名な海老一染之助・染太郎か、玉川カルテット、かしまし娘、横山ホットブラザースといった浪曲ショウとかボーイズスタイル芸人の露出が大きかった。しかし、現在は地上波でコミックバンドやボーイズスタイルの演芸などが披露されることはほとんどなくなった。若い娘ヒルヒル辺りは知らなくて当然なのに……。

「「天気が良ければ晴だろう

天気が悪けりゃ雨だろう

雨が降ろうと

風が吹こうと

東京ボーイズ

ほーがーらーかーにー♪」」

アラクネー&ヒルヒルは東京ボーイズの出囃子歌ってるよ。

これから敵の陣地に踏み込もうというのに、なんだろうか、この能天気な雰囲気は。

和三郎は頭を抱えるのだった。


ボーイズスタイル演芸の触りだけ。

この辺を掘り下げていくと日本の流行歌の源泉に、浪曲が存在したことがわかって来てですね、

浪曲漫談的なものと三波春夫の浪曲起源の「大利根慕情」の途中で入るセリフ

「止めてくださるな、妙心殿。落ちぶれ果てても平手は

武士じゃ男の散り際は、知って居り申す、

行かねばならぬそこをどいて下され、

行かねばならぬのだ。」

とかに繋がっていき、アイドルの楽曲にも受け継がれていくわけで、

興味深いですよな。

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