112 ヒルヒル タルコフスキーに抱かれて眠る
さてさて戻ってきましたよ。
本筋ですねえ。
やはりヒルヒルとワサワサは話を進める気がないなあ。
気持ちいいくらいに脱線するねえ。
2025/02/19 クラーケンとタルコフスキー情報を追加。なんじゃそりゃ。
クラーケン ブラックスパイスドラムを原液のままちびちびと舐める。
モノトーンのタコにしか見えないクラーケンのイラストが愛らしい。
飛ぶ鳥を落とす勢いの多国籍飲料会社であるプロキシモ・スピリッツ社が2010年にリリースしたラム酒だ。なんたってここはテキーラの大御所ホセ・クエルボの販売権とオールド・ブッシュミルズ蒸留所の経営権なんかも持っちゃっているんである。
香辛料の効いた漆黒のラム酒が鼻腔をくすぐり、脳天をピリピリさせる。
和三郎は何とはなしにモニターを見つめた。
カタタン、カタタタン。
カタタン、カタタタン。
モニターには縮こまった姿勢のまま、トロッコに揺られていく坊主頭の男の姿が延々映し出されるわけであるが、ヒルヒルはもう舟をこいでいるわけである。いや、すでにその前に観た映画で、液体酸素を呑んで自殺を図った元カノもどきがごふっごふっと咳き込みながら、血糊を吐くシーンでだいぶ目つきが怪しくなっていた。『ソラリス』で一番の盛り上がるシーンだろうに!
「言い出しっぺが最初に轟沈しちゃあダメだろう」
間借りしている警察の宿舎の一室。
「寝ないで最後まで観られるか!? タルコフスキー鑑賞会!」
いよいよ明日から、青木ヶ原樹海への侵入が開始される。入っちゃいけないところへずんずん分け入っていくというシチュエーションについて話し合っていたのだけど……。
「『うちゅうを どんどん どこまでも』は良い話だよねえ。子供二人が宇宙の果てまでどんどん突き進んでいくんだけど、オチが「だからきみたちも、はいっちゃいけない、と書いてあるところへは、どんどん、はいっていったほうがいいよ」だもんなあ。立ち入り禁止のとこ入っていけという、まさに今の我々なのだからしてね」
「素晴らしいものがあればいいけどさあ。どっちかっていうと気分は『ストーカー』の方に近いんじゃない? 立ち入り禁止区域ゾーンに潜ってお宝さがししちゃう」
ヒルヒルがニコニコ話し出す。
「途中で眠くなってあんまり筋は憶えていないなあ。いわゆる「アントニオ・ダス・モルテス」現象を起こしてしまったわけですよ」
「『アントニオ・ダス・モルテス』って何? タルコフスキーが眠くなるのは知ってるけどさ」
「『アントニオ・ダス・モルテス』ってのは、あらすじだけ聞くとなんだか面白そうなアクション映画なんだよなあ。山賊退治に駆り出された伝説の殺し屋アントニオ・ダス・モルテスのお話しなんだけどね。なんだか眠くなっちゃうんだよねえ。ブラジルの新しい映画=シネマ・ヌーボの代表作なんだけどさ、ヌーヴェル・ヴァーグとかにカテゴライズされる作品と同じで、なんだか眠くなるんだよなあ。まあ、『アントニオ・ダス・モルテス』みたいにあらすじだけ聞くと派手なアクションを期待しちゃうのに、実際はそうでもなくって、かといって駄作ってわけでもないという、なんとも雲をつかむような映画を見てしまって、眠ってしまうことを、勝手に『アントニオ・ダス・モルテス』現象と呼んでいるんだけどね」
「タルコフスキーの場合は『ストーカー』が確かに当てはまりそうね」
「タルコフスキーも眠ったなあ」
タルコフスキーとは映画監督のアンドレイ・タルコフスキーのことである。
そんな話をヒルヒルとしていたら、じゃあタルコフスキー耐久レースだ! という話になって、言い出しっぺがたちまち轟沈してしまったと。
「まあ『死霊の盆踊り』とかじゃなくて良かったのかなあ、気持ちよく寝れたみたいだし」
青木ヶ原樹海は高く分厚いコンクリートの壁で覆われている。
中のモノを外に出さないため。
外のモノを中に入れないため。
それでも外へは漏れて行く。
というわけで我々公安8課は、吉田警察署の精鋭と共に富士の樹海探索へと赴くこととなった。
メンバーは田部サンとヒルヒルと、バディなので仕方がない俺、ケンゾーとリンちゃん。
遠目塚&如月の時代劇ホリックはそのままヘリで本部へお帰り頂いた。先だっての公安7課の件もあるので、再び待機していただこうと。お二人とも冥府がどうの、退屈がどうのと騒いでいたが、まあ後は佐々門さんにお願いしてしまった。
「いや、ここまで来たんだから、ちょっとヘリで足を伸ばしてさ、さわやかのげんこつハンバーグ食べようよー」
如月が無体なことを宣う。
「脚伸ばすっていっても、此処から近いのは富士鷹岡店か御殿場店だよ。山越えて行けってのかよ」
「そうだ! 我々は労働の対価に肉を要求する!」
遠目塚依子が声高に叫び、如月冴がそうだ! そうだ! とはやし立てる。佐々門さん、まったく動じず二人の耳を掴むとそのままヘリへと押し込んでいる。
大騒ぎしながら3人が帰っていった。
ほんとは一世を風靡したボーイズ演芸を枕にと考えていたんですよ。
あきれたぼういずとか横山ホットブラザーズとか玉川カルテットとかチャンバラトリオとか
かしまし娘とかちゃっきり娘とかね。
そこからNEOかしまし娘とNEOちゃっきり娘とかに派生させていけば、まあいろいろ話も広がるかなアなんて。