110 師匠、今度は堂島華怜に絡む
樹海に潜るのを差し置いて、師匠と毒島伽緒子の話が展開されておりますなあ。
2025/02/05 師匠の言動から推移して、後半の展開を少し変更。
2025/02/10 そういえば堂島華怜の別名が魅了の魔女だったのを思い出したので、その辺のことを加筆修正。忘れるなよ。
「あ、あ……あのう」
宵闇貴彦、無窮丸文子、毒島伽緒子、それと師匠に見つめられて、堂島華怜は固まった。それぞれ、種類は違えど修羅場をくぐってきた者たちの視線である。普通に話題が振られたから、その対象者を目視したに過ぎないのだが、いやいや。素人には少々荷が勝ちすぎる視線である。異世界ファンタジーで言うところの「威嚇」とか「遠吠え」とかそんな感じのスキルで、堂島華怜はまさに当てられちゃって硬直しちゃったプレイヤー状態であった。
そんな中でもなんとか我を取り戻した堂島華怜の胆力は称賛に値する。
「ライブがうるさいって苦情が来たんですか? それならば場所変えますし」
いつもは交番の警察官がめんどくさそうにやってきて、苦情が来たから直ちにやめるようにと告げて、めんどくさそうにこちらが戻ってこないよう確認するまで、じっと待っているのが常だった。だから、私服の警官と思しき人が声をかけてきたのは、いつもは起こらないことだし、びっくりもした。
「あの、あの、いつもと違って質問したいということだったのですけど、ですけど、わた、わたし、何かしたんですか? 無許可でライブやってたくらいしか、ちょっと、ちょっと悪いことは見当たらなくって……」
堂島華怜は一気にここまで言い切った。
ふーむ、なんとはなしだがこの娘は違う気がする。魅了の魔女と言われて噂になった彼女だ。SNSでなにかと話題に取り上げられるようになった堂島華怜だが、最初は否定的だし、攻撃している連中が多かったのだが、ある時期を境に彼女を否定していた急先鋒のインフルエンサーが手のひらを反して、彼女を絶賛するようになった。直接堂島華怜に取材と称して会いに行き、糾弾しに行ったのだ。しかし、翌日から熱狂的な堂島華怜信者に変貌した。直接会った途端の出来事だった。そんなことが何度か続き、チャームの魔法でも使ってんじゃないかと噂になったわけである。物好きな加茂さんが、堂島華怜本人ではなく、チャームの魔法に興味を持った。彼女を調べたいので連れてこいとの依頼で、自分は動いている。
堂島華怜が本物かどうか。結論が出るにはまだ少しピースが足りないようだ。
師匠はふと堂島華怜が手にしていた名刺を見つける。
「ちょっと拝見」
師匠は宵闇貴彦が渡したと思われる名刺を確認した。あからさまにまずいよこれはという顔をしながら、宵闇貴彦を一瞥する。再び名刺に目を移して嘆息する。
「あーあ、足立警察署って……」
宵闇の顔が引きつっていく。横で無窮丸文子が顔をしかめる。
「嘘はダメだよー、よっちゃん」
「嘘はついていないぞ」
「いや、よっちゃんは公安じゃん、足立区関係ないよね」
公安と聞いてただでさえびくびくしていた堂島華怜の動きが、さらに怪しいものになる。
「わたし、わたし、何もしてないです! してないですよねっ!」
堂島華怜が半分裏返った声で、なぜか確認してくる。
「そうだよ、そうだろう、そうなんだろうとも。よっちゃん達は何もしてないこのコに、なに聞こうとしてたわけ? ほらあ。こんなに怖がってるじゃん」
師匠は嬉しそうに笑って、宵闇を見つめ返す。
「職務上言えない。だけど、こっちにはちゃんと正当な理由があるんだよ」
「正当な理由。このコに? このコを保護するの?」
「おっさん、邪魔しないでくれよ」
「邪魔はしていないよ。自分たちもこのコに用事があるからさ。よっちゃん達は他にもいっぱい案件抱えているんだろうからさ。こっちは後回しにして、先に他の闖入者探しに行って欲しいんだよ」
「途中から割り込んできたのはそっちだろ」
宵闇はぎりぎりと奥歯を噛み締めながら言葉を吐き出す。出会い頭に馬乗りにされてタコ殴りにあったせいか、宵闇はこの親父に妙な苦手意識持ってしまった。自身でもその自覚はある。
「全部話しちゃっていいんじゃない?」
師匠の背後から近づいてきた毒島伽緒子が、背伸びをして師匠の左耳に囁きかけた。師匠は思案気に小さく頷くと堂島華怜に視線を戻した。
「えーと、この宵闇クン達はさっきも言ったように公安だよ。しかも公安7課。堂島さんも聞いたことがあるでしょ。異世界からなにがしかの理由でこちらの世界にやってきた闖入者のこと」
「おいおいっ」
「ちょっと待ちなさいよ」
宵闇貴彦と無窮丸文子が抗議の声を上げる。
「その闖入者を保護したり、送り返したりするのが公安7課のしご……」
そこまで言いかけて師匠は黙り込みしばし考え始めた。
ああ、そういうことか。
しばしの間が空いた。右手で頭を掻きながら師匠は宵闇と無窮丸を見て、さらに毒島伽緒子を見やった。小さく細かく頷いた。ようやく師匠が口を開いた
「うーん、まあ、今はいいか……。
よっちゃん、散々ごねたんだけどさ、こっちは今日はいいや。また今度にする」
「はあああっ? おっさん、散々邪魔しておいてなんだ、その言い種は!」
「ごめんよ、よっちゃんに、えーと……ふみちゃんだ」
そう言うと師匠は毒島伽緒子を呼び寄せて、そのまま歩き去っていった。
何がどのように絡まっていくのか、朧に考えながら書いております。
そのうちもやもやしたものがすっきりするように願ってやみません。
つうか、相変わらずストック無しですよー。
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