109 師匠、宵闇刑事にウザ絡みする
も少し隠しておこうと思ったのに師匠のことをいろいろ書いてしまいました。
ほとんどそっくりそのままで違いがパッと見ただけではわからない。ほとんど同じ世界ということは、多かれ少なかれ似たようなことが起きるということだ。
もう会えないと思っていた璃瑠子や美沙子と再会したことが嬉しすぎたことで、どこかで危機を察知する感覚が鈍くなっていたのだろう。
自分は再び自分の愛する者を救えずに失ってしまった。
2度目の喪失で自分の心は凍てついた。死んだはずの璃瑠子と美沙子が生きていた、別の世界。元々自分の生きていた世界ではない。どうせ元の世界に戻ったとして、自分には何も残っていない。加えて飛ばされた先の世界でも自分の大切なものを再び失った。この世界でも生きていく意味を失った。
ならば、それならば。
璃瑠子を救えなかった悔しみを、娘の成長を見届けることのできない悔しみを、こ…この家族を亡くした者のの悔しみを、誰が分かってくれるか!
ならば、その悔しみを命を刈り取った奴らにぶつけさせてもらう。
自分は復讐にのめり込んでいった。無意識のうちに生きる意味を欲したのか、未だにわかってはいない。
その復讐も最後の最後で遂げることができなかった。
目の前にいるあいつ、いやこの世界のあいつじゃない、飛ばされた先のあいつによって防がれてしまった。自分はこの世界のあいつに近づいていく。
「なあ、よっちゃん」
聞き慣れない呼び名で呼ばれた宵闇貴彦は振り返った。そこにひょろりと立つ師匠の姿を見て大きくため息をつく。
「その呼び方ぁっ! やめろって言ったろ」
師匠は宵闇の苦言を無視して言葉を紡ぐ。
「よっちゃんも彼女の知り合いかい?」
師匠は視線を堂島華怜に一旦向けてから、よっちゃんににっこりと視線を戻す。
やっぱり、眼が笑ってない。このおっさん、苦手だわ。
「おっさんこそ、このコになんか用かよ」
「うん。その通り。用事があるよ」
「何の用事だよ」
「うーん、よっちゃんには関係ないことだよ。職質かなんかしてたの? なら構わないよね、ちょっと彼女と話したいんだけど」
「こっちが先なんだよ」
師匠は宵闇のスーツの右袖をつかんで、ぶらんぶらんと揺さぶった。
「なあ、頼むよよっちゃーん」
「だーれがよっちゃんだよ!」
二人のやり取りを面白そうに見ていた無窮丸が楽しそうに声をかける。
「よっちゃんとか貴ちゃんとかいろんなあだ名があって、貴方大変ね」
それを聞いた師匠おどけた様子で毒島伽緒子を見やる。
気が緩んでいた毒島伽緒子は吹き出してしまう。居たたまれなくなった宵闇貴彦は声を荒げた。
「他人事かよ! 助けろよ
こいつ連れてかないとサルに怒られるんだぞ」
その言葉で全員の視線が堂島華怜へ向いた。
「あ……」
堂島華怜は固まっていた。
ローリングサンダーな師匠
向こうの世界に飛ばされて生きてきて、妻とか子供とかいて、やくざに殺されて、復讐しようとして
できなくて、向こうの宵闇に捕まって、送り返されてきた。本当に自分のいた世界に戻ってきたとは思っていない。宵闇にはこいつは悪くないとわかっていながらも、復讐の邪魔した刑事という印象が強く、ついつい邪魔してしまう。
向こうの宵闇に無理矢理戻された。