11 和三郎 祓の神を宮崎県から呼ぶ
さあ、ほんとにネタがつきたぞ。
「次はっ どうする?」
「座標固定するので、待ってください!」
「座標ぉ?」
ヒルヒルは弓を射る体制を整える。脚の位置を目視しながら一番ちょうどよい位置へ、脚をずりずりと動かしていく。
「アンカー起動します」
ヒルヒルの声に呼応して、両足の脹脛と下腿部に切れ目が走った。先端にスパイクの着いたアンカーが顔を覗かせる。途中まで開いたところでスパイクが床面に向くように、くるりとアンカーが回転する。
そこからは圧縮空気を利用しているのか、ものすごい勢いでアンカーがコンクリートの床に打ち下ろされた。鈍い振動を発しながらスパイクが床にめり込んでいく。
「座標固定完了。
更新準備……
ああっ
角隠し忘れた!
和三郎さんっ」
「なんだっ?」
「祓詞をお願いします!」
「はらえ…こと…ば?」
いや、そんなの知らな……くないな。
それ、俺、知ってる。
なぜ?
すっくと立ちあがった俺は、淀みなく祓詞を唱いだした。
えーなに? これ?
そんな隠しコマンドあり?
「掛けまくも畏き
伊邪那岐大神、
筑紫の日向の橘の
小戸の阿波岐原に、
御禊祓へ給ひし時に
生り坐せる
祓戸の大神等、
諸の禍事・罪・穢
有らむをば、
祓へ給ひ
清め給へと白す事を
聞食せと、
恐み恐み白す」
日本を創ったイザナギの神様が死の穢れを落としたのが、
筑紫の日向の橘の
小戸の阿波岐原
という場所。その時、祓いの神様が大量に生まれたという。
以降、神様に何かお願いするときは、祓の神様をお呼びして、
現世で人の身に引っ付いた、穢れやらなにやら悪いものを祓っていただく。
すると数舜の間、人間でも生身のまま、神様と同じ地平に立つことができて、
願いを届けることが可能となる。
神様と通信可能状態を作った。
ヒルヒルが破魔矢を構えた。
ヒルヒルの願いが受信されたのか三つ柏の紋が異様に輝きだした。
「ワサワサも祈って!」
「ワサワサってなんだよ。
いや、祈るけどさ」
「祓へ給ひ清め給へ
祓へ給ひ清め給へ
祓へ給ひ清め給へ
祓へ給ひ清め給へ」
「破っ!」
裂帛の気合と共に破魔矢が射られた。
ごおおおっと風が鳴く。
ああ
発射プロセスはなんだかカッコいいなあ。