103 田村良夫はおっぱいで跳ぶ
はい、人員整理の回です。
2024/12/18 サブタイトルあまりにもあまりなので改題したら、それはそれであまりにもあまりだった。
ヒルヒルが野っぱらでアビアビしてる頃。
「紅い城もあちらの世界の代物であったのか」
「そうよの。お主も感じたであろう。あの禍々しい氣を」
「氣というか、そうですなあ、非常に金臭うございましたな」
「纐纈布の素となる人の生き血の匂いであろうな」
「なるほどなるほど、あの金臭い匂いは人の死の匂いでもあったのですな」
「徳の高い坊さんが唐国で見たのが最初らしいぜ。黒いヒョロヒョロ男が言ってたぜ、なんとか大師がどうのとか」
「大元はそこなのであろうな。そこからあの城が生まれたのであろうよ」
急追建てられたテントの中で、古傭兵團の鳰鳥と甚五が、佛淵兵庫と語らっていた。
「我々が弾き飛ばされたーー甚五は別だがなーー世界は、この世界よりもいろいろな境界線が緩いようじゃな。多分に神話的でもあるかの」
「八ヶ岳には魔神が居るとか、富士の裾野の奇天烈な教団とか、極めつけはあの紅い城ですかな」
佛淵兵庫がぐびりと茶を呑み込む。
「昔にそういう者らが居ったとは聞いたことがございましたがの、実際に自分が目にするとは思いもしませなんだ。まあこちらの世界もわしからしたら、奇天烈ではありますがな」
「この世界はいろいろとがんじがらめであるがの、まだまだ面白いことが山ほどあるからの」
「確かに、確かに。巨大な毛むくじゃらに命を助けられたり、凄まじく煌びやかな花火も堪能しましたしなあ。しかもあの灰色の塀の向こうから漂い来る邪気もこれまた興味をそそりますな」
「兵庫もそう思うかや。我らは直にあの中へ向かうことになろうよ」
「黐竿もうなりを上げるってもんよ」
「こりゃまた剛毅な。堪りませんな。わしはあの紅い城の中で奇妙な絡繰りと一戦交えましたがの、それはそれで面白うございましたな。あの時よりもさらに面白い戦いが待っているとのこと、これはこれは楽しみな、いやはや僥倖ですな」
古傭兵團の面々はすっかり戦う気満々である。何気に戦闘狂が集まっている様子。
そして広いテントのもう片隅では、開發恵と田部サンが向かい合っていた。
「悲しいお知らせです。わたくしこと開發恵は切迫した案件が勃発したため、やむなく本案件から離脱することとなりました」
「ふううん。別に恵ちゃんが居なくなるのはさみしくないよ。通常だったら規格外の戦力が抜けるのは非常に困るって事にになったんだろうけどさ。恵ちゃんはほんとに籤運が悪いよね。今回はお諏訪さま一行もいるし、鳰鳥姉さんもいるしね。規格外オンパレード! あ、ヒルヒルもすごい助かるよね、あのコ。
とまあ、そんなわけなんで、ニックが押し付けた面倒事の対応をした方がいいよ」
田部サンのそっけない対応を受けて、開發恵が地団太踏んだのは既定の通り。
「もう、なによその雑多な扱いはっ! とはいっても、所長のぶん投げてきた面倒事が本当に面倒事になりそうなので嫌なのよねえ」
「ほらほらあ。あんな出来損ない作るのに協力するからだよ」
「あんたのそーゆーところが嫌いなのよ。なんで知ってるかなア。これ、政府の極秘プロジェクトじゃん!」
「いや、ほら、巻き込まれるのはこっちだからさ。火の粉は払わないと。おそらくサルんとこがババを引くんじゃん。」
田部サンがいやらしく笑い。開發恵はひきつった笑顔で答えた。
「ここを立つ前に鈴鹿さんとお話しがしたいのですが」
横から背蓮張が田部サンに声をかけた。
「たぶん、外でゴミ掃除してたと思うよ」
瀬蓮は一礼すると立ち去った。入れ替わるようにハンプアトゥとチャンチャマイヨが現れた。
「さてと我々は引き上げることとするよ」
ハンプアトゥはそういうとゆらりと立っている。チャンチャマイヨが慌てた様子でぺこりとお辞儀をした。言葉が通じる相手がいたので、ほっとしたのかチャンチャマイヨの顔から、緊張の色が取れている。おまけに信仰の対象でもある蛙の神様の使いが、自分を気にかけてくれるのだから、これ以上安全なことはない。彼女はそう思ったのだろう。
「そのうち、またお会いすることもあるでしょう」
田部サンが緊張しながら話し始める。
「そうだね。おそらく近いうちにまたお会いするだろうね。特に和三郎君に」
「やはり話題の中心は和三郎君とヒルヒルなのですね」
「ふむ。あの二人はこの界隈では、あのーバズっている? 言い方はよろしいか。うん、そう、バズっているからね」
ふむふむと頷くハンプアトゥとチャンチャマイヨの輪郭がゆらゆらと揺らぎ、そのまま消えていった。はにかみ気味に笑うチャンチャマイヨが愛くるしい。
「伝説の超能力、ですね」
ヒルヒルも和三郎も傍にいないのに。毒されてきたな。田部サンは思った。
なんだか年末で多忙ですね。なかなかままならない。書きたいことはあるのですが、思うようには書けていない。
ニコラス・ケイジが連続殺人犯役を演じる「Longlegs」が、カメラワークと音響でピリピリした空気を作りまくっていやがって非常によろしいです。