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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
八雲式端末/チーキーズ/師匠と私
104/144

100 背蓮の血は白い

張ではなく陳ですね。

はりきってどうぞ!


2024/11/22 後半加筆。

2024/11-25 さらに後半追加。最近『田園に死す』のラストだけ確認してしまって……。


いやあ『全領域異常解決室』と微妙に被ってて、同じ時期にヒルコで神様ネタって……。そうか役小角なのかあ。

「セバスチン? ちん? ちーん? チン? 大抵執事の名前はセバスチャンじゃない? え? なんで、ちん? チャンじゃなくて、なんでなんでちん?」

頼子ちゃんが声を裏返しながら“ちん”を連呼する。連はなぜだかいたたまれなくなり、頬を赤らめた。

おっきいクマが頼子ちゃんと連ちゃんをゆっくりと肩から降ろした。同時に楽団クマがささっとおっきいクマの後ろへ下がる。

「ああ、水門ニック研究所所有の張シリーズのことですな。あれはまあ実験機的な側面が強いシリーズですね。研究所という場所に置いておくにはふさわしい。うむうむ、汎用性に富んだシリーズですな。言ってしまえば器用貧乏ですかね。私こと陳シリーズは何でも屋タイプとは異なります。まあ専門職、エキスパートですな。特に隠密……」


ごんっ。


おっきいクマが拳を振り下ろした。大きな拳が背蓮陳の頭部をぐちゃりと潰した音だった。

耐震構造に対応している歩道橋がたゆんたゆんと揺れる。

滔々と自慢を始めた背蓮陳であったが、そのエキスパートな姿を披露する間も与えられず、おっきいクマに潰されてしまった。頭部からじくじくとミルクのような豆乳のような白い液体が溢れ出る。ぴくぴくと手足は痙攣している。おっきいクマは手に着いた白い液体を、ぴっぴっと振り払う。

「わーお、揺れるね、これ」

頼子ちゃんが欄干に捕まりながらにんまりする。連ちゃんも吊られてひきつった笑みを浮かべる。ああ、この“ちん”の人、人間じゃないんだ。これはまるで……。

「アンディ」

「アッシュ」

連ちゃんは最新作を思い浮かべ、頼子ちゃんは第1作目を思い浮かべたようだ。


「とりあえず連ちゃん家に行こうか」

「うん」

クマ公楽団の面々は、陳の頭からあふれ出る豆乳をぴょんぴょんと飛び越えて、先頭に躍り出る。後を追う頼子ちゃんと連ちゃんとおっきいクマ。


ずんた ずんた ずんたった ずんた。


なんだかどこかで聴いたような聴いたことがいないような、懐かしい感じの行進曲を楽団が奏でだす。そのまま歩道橋を降りていく。明かりは灯っているのに、仄暗い入口から楽団はマンションへ入っていく。急な階段を3階分上って、みんなは連ちゃんの家の玄関ドアに辿り着いた。

部屋の中に入った連ちゃんは、自分の家の匂いを嗅いで少しほっとする。

キッチンを抜けて作業台が設えてあるリビングへ入っていく。また携帯が振動する。こちらの世界へ戻ってきた途端、ブルブルが止まらない。取引先だったり、友人からの連絡だった。あ、(大姉ちゃん)からも来てる。はてさて何を持っていこうか?

連ちゃんはうーんと唸りながら、ふとカーテンの隙間に視線がいった。そこから見えていたのは一つの眼であった。誰かがカーテンの隙間から覗いている。

「みんなアルジェントの『サスペリア』の、カーテン越しの視線がすごいって言うけど、実はボー・ヴィーデルベリの『刑事マルティン・ベック』の方が先なんだよって、三郎ちゃんが言ってたなあ」

カーテン越しに覗いていたのは、背蓮陳。外では数十人の気配がマンションを包囲している。財団法人赤目所属の陳シリーズご一行であった。


のんびりした連ちゃんの反応に、頼子ちゃんの表情がシリアスに変わる。

「予定変更。チーキーズはお部屋をトレース開始! おっきいは陳を警戒して!」

頼子ちゃんが叫ぶ。おっきいクマは守るように連ちゃんの前へ回り込んだ。おっきいクマがカーテンを開ける。5人ほどの陳シリーズがドアにへばりつき、両掌でバンバンとガラス戸を叩き始めた。同時に玄関の金属製の扉からも、ばんばんと激しい音がする。隠密がどうのと宣ってたクセに隠れる気は毛頭ないようだ。

「連ちゃん、トレース完了次第、戻るからね!」

「う、うん。戻るってどこへ?」

「夢と希望でいっぱいのヌイグルミ惑星さっ!」

頼子ちゃんがニカッと笑った。

それが合図だったかのように、チーキーベア楽団がいっせいに楽器を吹き鳴らす。

「『デイジー・ベル』!」

世界初のコンピューターによる音楽生成ソフトMUSIC-Nで生み出されたのが、ハリー・ダグレの作詞作曲した『デイジー・ベル』だった。

「赤い目玉のコンピュータが歌ってた曲だー。あの目玉が欲しくって、いろいろお店で探したけど、見つけられなくって悲しかったなあ」

連ちゃんが現在の状況を踏まえない思い出を語りだした。

「そうそう、HALちゃんが最初に覚えた歌だよー」

頼子ちゃんもノリノリで返事をする。デイジー、デイジー♪が反復して室内に音が満たされていく。

すると窓ガラスを叩いていた音が消えて静寂が訪れた。

「転送成功!」

頼子ちゃんが歓声を上げると、チーキーズもぴょんぴょん飛び跳ねて、喜びを体現する。

「え?」

連ちゃんは戸惑う。上を見上げるとそこに天井は無かった。抜けるような青空が広がっている。

「部屋ごと?」

「そそ。部屋ごと持ってきたよ」

頼子ちゃんが答えると同時に、リビングを囲んでいた四方の壁がばたんと外向きに倒れる。もはや懐かしいヌイグルミ惑星の建物群が目に入った。

「こういうの映画で見たことある。なんだったっけ?」

連ちゃんがクスリと笑う。

「東京都新宿区ヌイグルミ惑星……田園に死す?」

和三郎の影響でいらんことばかりぼやぼやと記憶している連ちゃんなのでした。

へえ、あいつらはアンドロイドだったんですね。僕は知らなかったなあ。

水門ニック研究所は頼子ちゃんと因縁浅からぬ仲ですからな。おそらく是政が多額の寄付をしてるはず。


刑事マルティン・ベック予告編

https://www.youtube.com/watch?v=l9bVdNJCN5U


サスペリア予告編

https://www.youtube.com/watch?v=E3Runc5SI5o


デイジー・ベル

https://youtu.be/0gDf7misJvk

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