99 取手頼子と鈴鹿連とクマ公楽団
クマのヌイグルミ楽団。はりきってどうぞ!
2024/11/20 背蓮陳の所属先を変更。いやあ大元は一緒なんだけど……。
ずんた ずんた ずんたった ずんた。
なんだかどこかで聴いたような聴いたことがいないような、懐かしい感じの行進曲が流れてくる。先頭を行くのはチーキーベアの音楽隊だ。その後ろに付き従い、リズムに合わせてのしのっしと歩いているのが、2メートル越えのテディベア。その左肩に取手の頼子ちゃんを乗せ、右肩には鈴鹿の連ちゃんを乗せていた。
「このコ、突然目玉が光って、首がぐるぐる廻るなんてことないよね?」
「なーに? このコはミヤタケイコ製じゃないから大丈夫」
「えー、だんだんだだんってリズム取ってるからてっきり、グランギニョール?とか思っちゃって」
「『ライチ光クラブ』でも『父とピストル』でもないから大丈夫」
と頼子ちゃんが答えたからか、チーキーベア楽団はブルーノ・ニコライの『サティリコン』を演奏し始めた。
ずっちゃちゃ ずっちゃちゃ ずっちゃずちゃちゃ。
チーキーベアの一行は扉の前にたどり着いた。木製のがっしりした大きな扉である。
「この扉は僕がここへ来るとき通った扉だね」
「そそ。連ちゃん、クマの怪我直すのにリペアキットが必要って言ってたでしょ」
連がうなずく。
「だから連ちゃんのおうちにいって必要なものを持って来ようと思います」
「戻って大丈夫なのかな?」
「まあ、少しだけだから大丈夫でしょ」
ヌイグルミ惑星で暮らすテディベア達は惑星で生まれたクマのほか、いろんな世界で廃棄されたり、持ち主に飽きられたりしたコ達も次元の狭間を通ってやって来ていた。別の世界からやって来たコ達は、中綿がへたれて身体が歪んでいたり、縫い目がほつれて中綿がはみ出している者や、腕や脚がなかったり、ガラス玉の綺麗な眼なのに取れかけているコなどがたくさんいたのだ。
連は具合の悪いコ達を直してあげたいと思っていたが、自分の商売道具はマンション兼作業場に置いたまんまだった。なにせテディベアのオーダーメードを依頼してきた依頼主に、完成したクマちゃんを渡しに行ったらそのままヌイグルミ惑星に招聘されてしまったのだから。
「この扉は我らの地球に繋がっています。私もここからこの世界に連れてきてもらったんだ」
御仏アブダクションならぬクマクマ大行進によって、頼子ちゃんはヌイグルミ惑星に招かれた。ごごんと低い音を立てて扉が開いていく。
「それじゃあ行ってみよう」
「うん」
「連ちゃん、強く強く念じるんだ」
「やだなあ、家は実験室じゃないよ」
「チェっ、ネタバレしてたかあ」
「ほら。弟が弟だから、ね」
「まあ、でも、連ちゃんのお家を強く想像してね」
二人とクマ御一行は扉の中へと消えていった。
連の住居は昭和40年代に建てられたマンションだった。ブロック状に拵えられた住居ユニットが積み木のように組まれた5階建てのマンションである。黒川紀章の中銀カプセルタワービルとまでは行かないけど、なかなか近未来感のある造りではあった。一階にはパーツを追加すれば軌陸車に早変わりの巨大なトラック・ウニモグが停まっている。
ヌイグルミ惑星に招かれて、かれこれ一週間くらい経つだろうか。自らの意思で行動する、クマのヌイグルミ達の姿は感動的だった。その感動に慣れてきたころに、ヌイグルミ達の怪我に気が付いた。だけど、直したいのに直す術がない。数日やきもきしていたのだが、思い切って頼子ちゃんに伝えたところ、
「じゃ取りに帰ろう」
とあっさり返事をいただいた。
へー、そんな簡単に世界を行き来できるんだあ。
そう思いながら気が付けば、現実世界。あ、わたしにとってね。
「あれれ、ちょっと誤差が出ちゃったね」
家のちょっと離れたところ。大きな幹線道路を挟んで家の反対側に出てきちゃった。
ずんた ずんた ずんたった ずんた。
なんだかどこかで聴いたような聴いたことがいないような、懐かしい感じの行進曲で歩道橋を楽団とともに進んでいく。
その歩道橋の真ん中でこちらを伺う黒い燕尾服の男が立っていた。
「待っていた甲斐がありました」
うやうやしく燕尾服の男が声を上げる。
「え? 待ち伏せ」
頼子ちゃんがつぶやく。
「左様でございます。申し遅れました。
私、財団法人赤目より参りました。背蓮陳と申します。以降お見知りおきを」
コシミハル サティリコン
https://www.youtube.com/watch?v=XGFUOwdQL3k
元ネタはフェリーニの「サティリコン」らしい。1984年リリースの曲をカバー
しているらしいのだけど、どの映画の為の曲だったのか、ちょっと調べたけどわかんなかったよ。