火花とアルビノ
ボイスドラマ用の台本です
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◯登場人物
寺本朝陽(てらもと あさひ)…高校二年生
杉上亮太(すぎうえ りょうた)…高校二年生
高岡泰葉(たかおか やすは)…高校二年生
寺本みつき(てらもと みつき)…23歳
神崎太平(かんざき たいへい)…23歳
高岡葉子(たかおか ようこ)…40歳
医者…50歳
親方…52歳
とある田舎町 山の中にある花火小屋
亮太「なぁ朝陽、いつになったら終わるんだよ」
朝陽「バカ言うな亮太。俺たちの夏は始まったばっかだぜ」
亮太「そういうこと聞いてんじゃねーよ。いつになったらその作業は終わるかって話だよ」
朝陽「打ち上げ花火の肝になる星の仕込みだぞ?終わりなんてねーよ」
亮太「はぁ…暇だと思ってわざわざ山の中までついて来たはいいけど…これなら家でテレビ見てた方がマシだったわ」
朝陽「さっきからゴチャゴチャうるさいな!そんなに暇ならお前も手伝えよ!」
亮太「嫌だよ。火薬なんて触ったら汚れるだろ」
朝陽「お前ホント何しに来たんだよ!帰りたいならさっさと帰れアンポンタン」
手持無沙汰になりそこら辺の花火をいじり始める亮太
亮太「なぁ、これお前が作ったやつだっけ?」
朝陽「あ?あぁ、そうだよ。自信作だったのに今年もまた使われなかった」
亮太「ふーん…ならさ、これ今から打ち上げようぜ」
朝陽「はぁ?こんな昼間に花火打ち上げるバカがどこにいるんだよ」
朝陽の言葉を無視して外に出ていく亮太
亮太「打ちあがってこそ花火だってお前いっつも言ってるじゃん」
朝陽「それとこれとは話が全然ちげぇだろっ!返せ!」
亮太「冗談だよ。ほらっ」
花火玉を朝陽に投げ渡す亮太
朝陽「おわっ!おま、いきなり投げんなってぇああ!」
花火玉を取り損なう朝陽 坂を転げ落ちる花火玉
朝陽「あぁ~~!俺の自信作!っと!うわぁぁ!」
勢いあまって自分も坂から落ちそうになる朝陽
亮太「なにやってんだ…っておい!腕掴むなバカ!」
二人して坂から転げ落ちる
二人「あああああ~~~!」
朝陽モノローグ 『山と川。俺たちが卒業して廃校になった学校。爺さんと婆さん。猫。それがここの全部だ…いや、あと一つ。唯一の自慢といってもいい、一年に一度行われる花火大会。最高に綺麗な花火が打ち上がる。まぁ、とは言っても、やっぱりそれくらいなもんなんだけど』
村で唯一の診療所 ボロボロの朝陽と亮太
みつき「こ~~のバカヤロウが!高校生にもなってなにしてんだ!」
朝陽「いってーな!怪我してんのこっちは!」
亮太「みつきさんごめんなさい。俺が付いていながらこんなことに…」
みつき「こっちこそごめんね亮太。どーせバカな弟が原因なんでしょ」
亮太「それはそうですけど、止められなかった自分にも責任があるんで…」
朝陽「ふざけんな!お前があんなことしなければこんなことになってねぇだろーが!」
亮太「なんのことだ朝陽。坂から転げ落ちたせいで記憶が混濁してるのか?」
朝陽「よし分かった…一発殴らせろ!」
みつき「二人ともやめなさい!」
亮太「はい!みつきさん!」
みつき「とにかく、少しは大人しくすること!朝陽、花火づくりもいいけど、ちゃんと夏休みの課題しなさいよ」
亮太「俺に任せてくださいみつきさん」
朝陽「お前はいちいちうっせんだよ!」
みつき「はぁ…あっ、そうだ朝陽。私今日は用事があって帰るの遅くなるから」
朝陽「用事?」
みつき「今日からここに越してくるご家族がいるから、その関係でね。」
亮太「移住ですか?最近流行りの」
朝陽「こんな田舎に?物好きな家族もいるもんだな」
みつき「移住というか…まぁとにかく、そういうことだから」
診療所から帰る二人
朝陽「移住だってよ~俺もどっかに移住してーなー」
亮太「それはいいな。さっさと移住してしまえ。みつきさんを残して」
朝陽「亮太はいいのかよ。こんななんも無い田舎で一生を終えていいわけ?」
亮太「なんで一生なんだよ」
朝陽「それにしても暇だ。親方も他の花火大会の手伝いで夏休み中いないしさぁ。まぁその分好き勝手に花火小屋使えるからいいんだけど」
亮太「ならずっと小屋に引きこもってればいいだろ」
朝陽「そればっかじゃつまんねーだろ」
亮太「我がままな奴だな」
川岸に一人の少女が座っている
それを見つける朝陽
朝陽「…ん?なぁ亮太、あそこ」
亮太「ん?」
朝陽「川岸にいるやつ。あんな奴いたっけ?」
亮太「さぁ。例の移住者じゃないか?」
朝陽「おーい!そこの人ー!」
朝陽の声に気付き顔を上げるが会釈をして立ち去る
亮太「急に大声出すから驚いて逃げてしまったじゃないか」
朝陽「え!?俺が悪いの!?」
亮太「今日はもう大人しく帰れ。悲しき獣よ」
朝陽「うるせぇ!」
翌朝 目覚ましの音で目覚める朝陽
朝陽「う、ん~…誰だよ夏休みに目覚ましなんかかけたやつ…」
みつき「朝陽、いつまで寝てんの」
朝陽「今日は…寝る日なの…」
みつき「寝言言ってないで起きろ。そんで準備して役場まで行ってきて」
朝陽「役場…?なんで?」
みつき「昨日話したでしょ。こっちに越してきたご家族のことで」
朝陽「なんで俺が?」
みつき「さぁ。詳しくは役場に行って太平に聞いて」
朝陽「太ちゃんに?」
みつき「まぁとにかく、さっさと準備してよー。私診療所行ってくるから」
朝陽「…なんで俺が」
役場 中には太平と一人の少女が座っている
太平「おーっす朝陽。こっちこっち」
朝陽「なに太ちゃん俺夏休みで忙しいんだけど…どなた?」
太平「みつきから聞いてない?先日こっちに越してきた高岡泰葉ちゃん」
泰葉「はじめまして」
朝陽「どうも」
亮太も合流する
亮太「太平さん。なんですか急に呼び出して。こっちも夏休みで忙しいんですが…どなた?」
泰葉「高岡泰葉です。先日こっちに越してきました」
亮太「みつきさんの言ってたご家族の方ですか。初めまして」
朝陽「…」
太平「なに見つめてんの?」
朝陽「いや…どっかで会った気が…」
亮太「昨日川岸にいた人じゃないか?」
朝陽「あー!昨日の人か!」
亮太「昨日はコイツが怖がらせてしまい申し訳ありませんでした」
朝陽「おい!」
太平「なに?すでに面識あったの?」
朝陽「いや、特に」
太平「ならお前たちもご挨拶しなさい」
亮太「杉上亮太です」
朝陽「寺本朝陽っす」
泰葉「よろしくお願いします」
太平「朝陽は昨日会ったみつきの弟な。みんな同い年」
泰葉「そうなんですね」
朝陽「で、俺達はなんで呼ばれたの?」
太平「お前らどうせ夏休み暇だろ?ここに泰葉ちゃんと近い年のヤツお前らしかいないし、色々と案内してもらおうと思って」
朝陽「なんで暇なことが確定してんの?」
太平「暇じゃないの?」
亮太「昨日こいつ暇だって言ってました」
朝陽「こいつも言ってましたー!」
太平「ならいいじゃんハイ決定~」
申し訳なさそうな泰葉
泰葉「迷惑かけて…すみません…」
亮太「…謝れ朝陽」
朝陽「なんで俺!?」
太平「朝陽、お前に女の子のエスコートはまだ難しいか…」
朝陽「やってやらぁ!」
太平「それじゃ、あとよろしくね」
朝陽「行くぞ二人とも!」
ずんずん歩き出す朝陽
泰葉「あっ、はい」
亮太「単純な奴め…」
後を追う二人 見送る太平
太平「頼んだぞ、二人とも」
田舎道をあてもなく歩く三人
朝陽「それで~どっか行きたいとこある~」
泰葉「昨日初めて来たばかりなので、分からないです」
朝陽「え~、そんなこと言われてもなぁ…案内できる場所なんてなんも無いぞ…とにかくさ、テキトーになんか言ってくれたらそこ案内するから」
泰葉「テキトーって…」
亮太「おい、お前いくら何でも酷すぎるぞ。デリカシーという部品が」
遮るように言い放つ泰葉
泰葉「度胸試し」
朝陽「…は?」
口調が少し変わる泰葉
泰葉「あるでしょ。田舎なんだから。なにかしらの度胸試しが。アンタたちが子供のころ怖がってビービー泣いたようなところや、それが今でもトラウマで近づくのも嫌になるような場所に連れてって」
朝陽「この女…なんか急に偉そうになってないか」
亮太「お前のデリカシーの無さに絶望して少しおかしくなってるんだろう」
泰葉「で、無いの?無いなら別にいいけど、そうなると他に見るものも無さそうだもんねここ」
朝陽「はぁ!?田舎なめんなよ!?そこまで言うならついてこい!後悔しても遅いからな!」
ずんずんと歩き出す朝陽
亮太「見事な捨て台詞だ…」
川への飛び込みスポット
流れは穏やかだが高さがある
朝陽「まぁ、俺にとっちゃこんな飛び込み度胸試しでもなんでもないけど、都会育ちの貧弱な奴には厳しいかと思って連れてきてやったぜ」
亮太「着替えも持ってない高岡さんを連れてきてなに得意げになってんだ?ごめん高岡さん。もっと早めに止めればよかった。もう廃校になった学校や、潰れると言われて50年生き残ってる駄菓子屋があるんだ。そっちを案内するよ。バスで一時間も行けばもう少し賑わってるところも…」
泰葉「ここから飛べばいいんだよね…!」
止める間もなく飛び込む泰葉
二人「…はぁ~~~!!??」
遠くで聞こえる着水の音
朝陽「おい!何やってんだ!」
亮太「大丈夫ですか!?」
川から顔を出す泰葉
泰葉「ハァ、ハァ…思ったより深いね!」
亮太「良かった…とりあえず無事みたいだ」
泰葉「ねぇ!あんたたちは来ないの!?」
呆然とする二人
朝陽「…ははっ。なめんなよコラァ!!」
飛び込む朝陽
亮太「まったく…」
飛び込む亮太 三人とも着水 どこか面白くなっている
少し間があり川岸に上がる三人
朝陽「なんだよお前!無茶苦茶だな!」
泰葉「あははっ、いいじゃん楽しくて」
亮太「楽しいのはいいけど、着替えも無いのにどうするんだ」
泰葉「こんなにいい天気なんだから、ほっといてたら乾くでしょ。それよりさ、せっかく濡れたんだからもう少し遊ぼうよ!」
朝陽「おっ、いいな!それならいい場所がある!」
泰葉「行こ行こ!」
亮太「…はぁ」
朝陽モノローグ『それから、俺たちは子供の頃に戻ったように遊んだ。くだらない事で笑いあって、今日初めて会ったとは思えないくらいだった』
帰り道
朝陽「てかさ、なんでお前最初はあんな大人しかったの?」
泰葉「初めて会う人たちには気を使って接するものなの。それに、大人しくしてた方が色々と都合がいいから。でも二人にまでそうするのはメンドくさくなって」
朝陽「なんて奴だ」
亮太「それにしても、高岡さんがあそこまでアクティブなのには驚いた」
朝陽「確かに、外で遊ぶの知らないお嬢様かと思った。肌もすげー白いし」
泰葉「…別に、外で遊ぶのが嫌いなわけじゃないんだけどね。今まであんまり機会が無かったから」
朝陽「ふーん。まぁいいや、今まで機会が無かったんなら、今日から沢山遊べばいいだろ。つーか、ここじゃそれくらいしかやることないしな」
泰葉「そうだね…それじゃ、明日からもよろしくね。二人とも」
朝陽「おう」
泰葉「それと、私のことは泰葉でいいよ」
朝陽「なら俺は朝陽でいいぜ」
亮太「俺も亮太でいいよ」
泰葉「ありがと。朝陽、亮太。それじゃ、私こっちだから、また明日ね」
二人と別れる泰葉
朝陽「おもしれー奴だな」
亮太「そうだな。しかし朝陽、そこまで案内できる場所が多くない事実は変わらんぞ」
朝陽「それなんだよな~。まぁ、明日になったら考えればいいだろ」
家に帰る朝陽
朝陽「ただいま~」
みつき「おかえり…って、あんたなんで濡れてんの?」
朝陽「川で遊んできた。てか、泰葉、あいつおもしれーわ。大人しそうに見えて急に川に飛び込んだりしてさ」
みつき「川に飛び込んだ!?泰葉ちゃんが!?」
朝陽「うん。度胸あるよあいつ。そのあともバカみたいに遊んで…」
みつき「泰葉ちゃん大丈夫だった!?」
朝陽「大丈夫だったって…別になんともないよ。なに急に焦ってんの」
みつき「何にもないなら…別にいいんだけど…」
朝陽「なんだよ…なんかヤバいの?」
みつき「大丈夫。なんでもない。楽しかったなら、なんでもないの」
朝陽「なんだよハッキリしねぇなぁ…まぁいいや。とりあえず風呂入るわ」
みつき「うん」
朝陽モノローグ 『次の日から俺たちは、この狭い田舎を隅々まで歩いた。もう廃校になった学校や、化け物みたいな婆さんがずっとやってる駄菓子屋。俺と亮太でさえ行ったことない場所まで行って、あっという間に一週間が過ぎていった』
花火小屋に来た三人
朝陽「じゃじゃーん。ここが噂の花火小屋だ!」
亮太「自分で言うのか?」
泰葉「へー、すごい。花火小屋なんて初めて来た。ここで全部作ってるの?」
朝陽「そうそう。一年に一回花火大会があってさ、すげーのそれが。俺も中学ん時から親方に弟子入りして作ってんだよね」
泰葉「すごいね朝陽」
亮太「まぁ、こいつが作った花火は未だ打ち上げられたことないけどな」
泰葉「そうなの?」
朝陽「親方がなかなかオッケー出してくれないんだよ。今年こそはって思ったんだけどな~」
泰葉「今年の花火大会は終わってるんだっけ?」
朝陽「泰葉がくる一週間前にな」
泰葉「へー。見てみたかったな」
亮太「来年まで持ち越しだな。泰葉はずっとここにいるんか?」
泰葉「うーん。どうだろうね。少なくとも夏休み中はこっちにいるよ」
朝陽「まぁどっちにしたって、来年は絶対見に行こうぜ。きっと来年こそは俺の作った花火だって打ちあがるはずだ…!」
亮太「それに関しては期待しないでおこう」
朝陽「おい!」
楽しそうに笑う泰葉 しかし急にせき込み始めその場にうずくまってしまう
朝陽「おい!?どうしたんだよ!?大丈夫か!?」
亮太「すごい苦しそうだ…とにかく、診療所まで連れて行こう!」
泰葉を担いで診療所まで連れていく二人 その間も苦しそうな泰葉
診療所
朝陽「姉ちゃん!」
みつき「どうしたの朝陽。血相変えて…泰葉ちゃん!?」
朝陽「さっきまでなんとも無かったのに、急にせき込んでそっからずっと苦しそうなんだ…」
みつき「とにかく、早くベッドまで運んで」
朝陽「う、うん」
電話をかけるみつき
みつき「もしもし、診療所の寺本です。泰葉ちゃんの容体が急変して今診療所に来てます。はい、よろしくお願いします」
朝陽「姉ちゃん…」
みつき「今お医者さんに診てもらうから、あんたたちは待合室に行ってて」
待合室
朝陽「…泰葉、大丈夫かな」
亮太「今は任せるしかないだろ」
朝陽「今まで元気だったのに、なんで急に…」
亮太「…分かんないよ」
泰葉の母親が入ってくる
朝陽「あっ…」
葉子「あなたたち…朝陽くんと亮太くん?」
亮太「はい」
葉子「泰葉の母の葉子です。泰葉は今…」
亮太「今診てもらってて」
診療室から出てくる医者とみつき
みつき「葉子さん」
葉子「泰葉は、大丈夫でしょうか」
医者「発作が出たようですが、今は落ち着いて寝ています。少し安静にする必要がありますし、今夜は診療所に泊まるようにしましょう」
葉子「そうですか…ありがとうございます」
みつき「二人とも、残ってもらってありがとね。もう帰って大丈夫だから」
朝陽「大丈夫って…なにが大丈夫なんだよ。泰葉、どっか悪いのか?」
葉子と目配せをするみつき
葉子「朝陽くん、亮太くん、いつも泰葉と遊んでくれてありがとね。…あの子は、昔から体が弱くてね、小さい頃から入院を繰り返していたの。こっちにきてからは、幾分か体調も良かったんだけどね」
亮太「そんなの一言も…」
葉子「あの子がね…泰葉が、なるべく秘密にしててくれって。今まで病気が原因で普通の子みたいに遊ぶことも出来なかったから、新しい場所でくらい、病気のことなんか忘れて思いっきり遊びたいんだって言って…そのせいで二人には心配かけてしまって、ごめんなさいね」
朝陽「なんだよそれ、なんでそんな大事なこと…!」
診療所を出ていく朝陽
亮太「おい朝陽!…失礼します」
朝陽を追いかける亮太
道を歩く二人
亮太「朝陽、なにふてくされてんだよ」
朝陽「別にふてくされてねぇし」
亮太「子供かお前は…誰にだって事情はあるだろ。泰葉だって俺たちに心配かけたくないから黙ってたわけだし」
朝陽「そんなの分かってるよ!でも、なんか悔しいんだよ。そんな事情あったんなら、相談してくれてもいいだろ。それに、みんなして俺たちに隠すようにしてさ、それが無性に気にくわねぇ!」
亮太「それは」
太平「おー、二人とも、泰葉ちゃんは大丈夫だったか?」
亮太「今診療所で休んでます」
朝陽「…大丈夫だったかじゃねーだろ!!太ちゃんも泰葉の病気のこと知ってて俺たちに隠してたんだな!?」
太平「落ち着けよ朝陽。別に悪気があって言ってなかったわけじゃない。それが泰葉ちゃんの希望だったんだよ」
朝陽「それはもう聞いた」
亮太「…泰葉の事情も分かりますけど、そんな事情がある中で俺たちに泰葉を任せるのは、少し無責任なんじゃないですか」
太平「俺達だって最初は迷ったさ。お母さんとも話をして、それでも泰葉ちゃんの意思を尊重しようってことになったんだ。お医者さんにも駐在してもらえるように手配したりしてな。お前たちに話さなかったことが不満なのも分かる。それについては謝る。ただ、お前らにこの話をしたところでこれ以上何か出来たか?お前たちが泰葉ちゃんと遊んでくれて、泰葉ちゃんが楽しそうにしてくれてるだけでも、お前たちには感謝してるんだよ」
朝陽「……」
太平「とにかく、今日はお疲れ様。俺は診療所に顔出すから、お前たちも帰って休め。それじゃ」
診療所に向かう太平
夜 診療所のベッド 窓を開けて外を眺めている泰葉
朝陽「(小声で)泰葉」
泰葉「朝陽!?亮太も!?」
朝陽「大声出すなって」
亮太「大丈夫か?」
泰葉「…二人とも、心配かけちゃってごめんね」
朝陽「ホントだよ」
困ったように笑う泰葉
亮太「お母さんから聞いたよ。泰葉の身体の事」
泰葉「…物心ついた時から、病院にいる時間の方が長かったの。学校に行けても少ししたらまた入院。激しい運動はダメだって、体育はいっつも見学で、部活も運動部には入れなくてね。でもこんな性格だから、小さいころは無茶も多くて、その度に色んな人に迷惑かけちゃって…もう嫌だったんだ。私がやりたいコト我慢するより、人から迷惑そうな視線を向けられることが」
朝陽「じゃあ、なんで俺達には隠すようなことしたんだよ」
泰葉「最後くらいいいかなって」
亮太「最後って?」
泰葉「来月手術なの。お医者さんは大丈夫だって言ってくれてるけど、どうなるかなんて分からないじゃん?だからお母さんにお願いして、自然がいっぱいで、一度も行ったことないような場所に連れてきてもらったんだ。そうすれば、少しくらい我がまま言っても大丈夫かと思って。今まで出来なかったことだって思いっきり出来るんじゃないかって。私の予感は見事的中したよ。二人に出会えて本当に良かった。ありがとね」
亮太「……」
朝陽「勝手なことばっか言ってんじゃねぇ。お前、分かってんのかよ。もしかしたら死んでたかもしれねーんだぞ!それでもやりたいことやれたから良いって言うのか?俺達の気持ちなんにも知らないで、自分勝手なことばっか言ってんじゃねぇよ!」
泰葉「…朝陽」
立ち去る朝陽
泰葉「朝陽!」
亮太「泰葉。俺は別に、お前が自分勝手だなんて思ってないんだ。きっと朝陽だってそうだよ。自分の人生くらい自分の好きなように生きたいなんて当たり前のことだからさ。でも、さっきアイツが言ってたことも、やっぱり本音なんだと思う。折り合いつかなくてイラついてるだけなんだよ。アイツ子供だから」
泰葉「……」
みつきが部屋に入ってくる
みつき「うちのバカがごめんね泰葉ちゃん」
亮太「みつきさん!?気づいてたんですか…」
みつき「あれだけ大声出されれば嫌でもね。こんな夜遅くに忍び込んでまったく…亮太ももう帰りなさい」
亮太「はい。じゃあな、泰葉」
帰っていく亮太
泰葉「ひどい事しちゃいました」
みつき「…あいつね、来年泰葉ちゃんに花火大会見てもらうこと、凄い楽しみにしてたの。親方に毎日のように電話して、来年こそは俺の作った花火使ってください!って。亮太も、ああ見えてめんどくさがりだから、こんなに毎日遊んでるなんて実は珍しいんだよ?出会って少ししか経ってないのに、二人とも泰葉ちゃんのこと大好きになったみたいね」
泰葉「…私だって、もっと二人と遊びたい…思いっきり遊びたいよ…」
みつき「きっと、大丈夫。元気になってまたいっぱい遊んであげてよ」
後日 花火小屋で一人作業する朝陽
亮太「…あれから三日。お前一回も泰葉に会ってないんだって?まだ怒ってんのかよ」
朝陽「別に…そんなんじゃねぇよ」
亮太「来週にはあっちの病院に戻るらしいぞ」
朝陽「知ってる。姉ちゃんから聞いた」
亮太「ならお前いつまでも意地張ってないでさ」
朝陽「だぁ!うっせぇな!いいからお前も手伝えよ!」
亮太「…手伝うって、何を?」
夜 診療所
翌日元居た病院に帰る泰葉が挨拶に来ている
泰葉「短い間でしたけど、お世話になりました。」
葉子「色々と無理言ってすみませんでした。寺本さん、先生、ありがとうございました」
みつき「いえいえとんでもない」
医者「最初の頃より随分顔色が良くなっています。また遊びに来てくださいね」
泰葉「はい」
診療所に太平が入ってくる
みつき「太平?どうしたの」
太平「泰葉ちゃん、ちょっとこっち来て。あとみつき、診療所の電気全部消して」
みつき「電気?なんで急に…」
太平「いいからいいから。先生、ちょっとのあいだ構いませんか?」
医者「大丈夫ですよ」
泰葉「どうしたんですか?」
太平「まぁまぁ」
泰葉たちが診療所から出る
太平「もしもし。じゃあお願いします」
みつき「なに、どこに電話したの?」
太平「いいから見てなって」
廃校になった学校の方角から音が聞こえる
夜空に大きな花火が上がる
泰葉「…これって」
太平「実はさ、一昨日朝陽と亮太が来て…」
以下回想
太平「どうしたの二人とも」
朝陽「太ちゃん、一生のお願いだ。花火上げるの手伝ってくれ」
太平「花火?なに言ってんだ。自分のが使ってもらえないからって、勝手に上げるのはまずいだろ」
朝陽「そうじゃなくて! …どうしても、今じゃなきゃダメなんだ…」
太平「…泰葉ちゃんか」
朝陽「無茶言ってんのは分かってる。でも、あいつが行っちまう前にどうしても見せてやりたい」
亮太「素直に謝ればいいのに…でも、同意見です。俺たちに出来ることはなんでもやります。協力してください。お願いします」
回想終わり
太平「てなわけで、そこから消防に許可貰って協力してもらって…なんとか間に合った」
泰葉「……」
みつき「あの二人…ちょっと待って、今朝陽たちだけで打ち上げてんじゃないよね!?」
太平「そこはご心配なく。強力な助っ人が駆けつけてくれたから」
打ち上げ場所
朝陽「親方ぁ!見た!?俺の花火見事に打ちあがったなぁ!もっとガンガン行こうぜ!」
親方「調子に乗るなバカヤロウ!!たった三十発しかねぇんだぞ!演出を考えて打ち上げてんだよこっちはよぉ!亮太ァ!ボサッとしてねぇで次の準備しろぉ!」
亮太「なんで俺まで…こんなの素人が居ていい場所じゃないだろ…」
親方「返事をしろ返事をォ!死ぬぞォ!」
亮太「ハァイ!!!」
朝陽「…見えてるか、泰葉!」
葉子「本当に、いいお友達が出来たんだね」
泰葉「…うん。たった二週間しか経ってないのにね」
太平「あいつらも嬉しかったんだよ。そんな二人からのプレゼントだってさ。やり方がなんとも不器用だけどな」
みつき「綺麗だね」
泰葉「…綺麗。本当に、綺麗…」
花火の方角に走り出す泰葉
みつき「泰葉ちゃん!?」
朝陽「よっしゃ~!全弾成功!不発無し!どう親方!これもう来年からイケんじゃね!?」
親方「…色が良くねぇ。それに見せ方もワンパターンで面白みもねぇ。俺が打ち上げ演出したからギリギリ見れたようなもんだ。人様に見せれるレベルじゃあねぇなぁ~」
朝陽「…この頑固!」
親方「あぁあん!?誰のおかげでお前コラァ!」
亮太「おい朝陽!」
泰葉に気付く二人
泰葉「はぁ、はぁ、はぁ……朝陽!亮太! ありがとぉ!!」
顔を見合わせ笑う二人
朝陽「いいか泰葉!本番の花火大会はこんなもんじゃねぇ!もっとスゲェからな!だから絶対!元気になれ!」
亮太「またいつでも遊びに来いよ!待ってるからな!」
泰葉「…うん!」
朝陽モノローグ 『山と川。俺たちが卒業して廃校になった学校。爺さんと婆さん。猫。それがここの全部だ。いや、あと一つ。唯一の自慢といってもいい、一年に一度行われる花火大会。最高に綺麗な花火が打ち上がる。まぁ、それだけあれば十分だ』
おわり