17.孤高の天才
ついに。黙りっきりだったコトノギが動きます。
技術者コトノギは「うん」と唸ると、トマトの傷んだツルを巧みな手裁きで、ほどき始めました。
ほどけたツルは硬く茶色でした。コトノギはそれを何年もかけて歯で噛み砕くことで切り出しました。
硬いツルは様々なものに形を変えます。
ノコギリになってツルを切るのを便利にし、バケツになってツルを運ぶのを楽にしました。
ツルはツルのために形を変える。そうしてコトノギは材料を集めていきました。
そしてついにその材料で家が建ちます。トマトを祭る場所も、このツルによって素敵な祭壇になりました。
ゾンビさんたちは喜んでコトノギに感謝をしたようです。でもコトノギは、まだまだ足りないと工作を続けました。
工作はやがて限度を通り越しました。
宙に浮く円盤、言葉を真似する人形、燃え続ける火。
そんなものがコトノギの工房には溢れかえっております。
彼が作る品々はゼンマイ仕掛けを越えに越え、AI領域に到達しています。むしろ魔法と呼ぶのかもしれません。
特に「燃え続ける」「宙に浮く」なんて非原理的な現象は、人間卒業資格を持つ創造神にも理解しがたい……。
そんな珍しい品はゾンビさんたちにも興味を注ぎました。工房には毎日何人かのゾンビさんたちが見に来ます。
コトノギは発明品を発表するなどはしないで、黙々と作業に向き合うだけ。物見客を追い返すのは一匹の犬です。
"あら。あれは!"
忘れていた。私が作ったゾンビ犬でした。
見かけないから記憶の彼方に消えていた。こんなところで番犬になったのですね。
「カエレ! グミンドモ!」
ゾンビ犬は、はっきりとした滑舌で告げてゾンビさんたちを散らしました。……私は一瞬にしておののきました。
ゾンビ犬が言葉を話すのは私の力だったのか。
それともコトノギによる技術だったのか。もはや知る術はありません。