93 イベント班食事をする
四人はレストランに到着し、何とか腰を落ち着けた。
栗原は椅子にドカッと座ると喘ぐ様に溜息を吐いた。
「ふう、やっと落ち着いた。生中でも飲みたい気分、仕事じゃなきゃね。」
鯛島も同意した。
「ホント。気分は生中! あ、ノンアルがありますよ。」
四人は楽しく食事をし終えると明日の予定を確認し合った。
鯛島は栗原に身体を向けた。
「栗原さんも何か忙しそうね。手伝えることがあったら言って。」
栗原はにこやかに返事をした。
「ありがとうございます。まあ、明日は元旦那も手伝いに来ますんで。」
みんな「ええ?」という顔をして笑った。
鯛島も笑いながら尋ねた。
「へえ、元旦那さんまで招集するんですか。すごい!」
栗原は笑いながら返事をした。
「インテリア設置関係やってるんで、普段から色々やってもらってるのよ。」
鯛島はなるべく無礼のない様に尋ねた。
「こんな事言ったらあれだけど今も仲いいんですか?」
栗原は笑顔で答えた。
「ええ、まあ結婚生活ってのに二人とも合わなかっただけで……今は友だちみたいなもんです。」
星は大人の会話を興味津々で聞いていた。
栗原はメモ帳を見ながら明日の予定を伝えた。
「私明日は予定通りファランクスとフィナとの最終確認をして、午後から司会の方やカメラマンとの打合せ、後は設置物の安全確認ですかね。まあ、最後のは彼に任せるとして……。他になんかなかったかしら……。」
鯛島はメモ帳とにらめっこしている栗原を見ながら呟いた。
「大変だけどもうちょっとね。」
栗原は食後のコーヒーを一口飲んだ。
「はい、お陰様で殆ど順調です。」
星は先程あった事を確認した。
「そう言えばスピーカーの調整ってうまくいったんですかね。」
栗原はその問いに返答した。
「ああ、それなら何かうまく行ったって。さっきも音出してたけどちゃんと聞こえてましたよ。……あ、そうだ。」
三人は栗原の方を向いた。
栗原は前から疑問に思っていた事を尋ねた。
「思ったんですけど、資料に一日一万人を見込むみたいな事書いてあったじゃないですか。」
それには卯月が答えた。
「はい。まあそれ位来てくれればいいかなって感じですが。去年は一日開催で八千人弱でしたから。」
栗原は3Dボカロの二人に確認した。
「もし、もっと沢山来ちゃっても大丈夫ですか? ……て言うのは、結構周りの状況見てると予想以上に沢山来るんじゃないかなって思うんですよね。」
鯛島は目をパチクリさせて栗原に質問した。
「ああ、確かに。まあ多少多い分にはいいけど……どれくらい来そうなの?」
栗原は自分の予想を言ってみた。
「去年の場合は触れ込みが関係者中心だったし事前情報も殆ど発表されてなかったと思うんです。しかも、ボーカロイドだって今ほど知名度はありませんでしたから……。」
卯月はそれを肯定した。
「ええ、確かにその通りですね。」
栗原は話を続けた。
「下手すると予想の2倍から3倍の人数は来るんじゃないかと思うんです。」
鯛島は少し困惑気味な表情で栗原を見た。
「え? そんなに……。パンフ足りるのかしら……。」
卯月は少し考えながら答えた。
「確か、一万五千枚しか刷ってませんね。増刷しましょうか……。」
「いけそうですか?」
「はい、桜色の厚手の用紙に黒いインクで印刷しただけなので、まあ最悪用紙の色違いでなら間に合わせられると思います。」
鯛島は少しホッとした。
「当日までにあと一万五千……いや、三万位刷っときましょうか。」
栗原は半笑いで謝っておいた。
「これでもし人数が少なかったらごめんなさい。」
「大丈夫大丈夫、私も言われて気が付いた。確かに去年と同じふうに考えてたらいけなかったかもしれない。」
このパンフレットは折込や込み入った細工も無い1枚ものであるが、今回はそれが幸いした様だ。
星も去年の事を思い出した。
「私が去年来た時もみんな白熱していて『来年は大勢連れて来る!』とか言ってた人もいましたし……あ!」
何かに気付いたらしい星に鯛島が尋ねた。
「ん、どうしたの?」
星は「もしや」と思った事を口に出した。
「そう言えば去年、夏コミと開催日がかぶってました。私の友達もそれでこっち来られませんでしたから。」
夏コミとは夏に行われるコミックマーケットの事である。
コミックと言っても市販のものではなく主に同人誌の即売会であるが。
夏コミの参加者は年々増加傾向にあり、初期は一日開催で千人に満たなかったが、昨今では四日の開催で延べ七十五万人を超える大規模なイベントと大きく様変わりしていた。
栗原も少し思い当たる節がある様だ。
「成程。まあ、ユーザーがどれ程かぶってんのかは分からないけど、そっちから流れて来る可能性もあるってことか……。」
卯月は三人に対策を伺った。
「取り敢えず当日までに三万増刷して四万五千枚、それで足りなそうだったら即増刷しようと思いますが……。」
鯛島は卯月にお願いした。
「ええ。じゃあ卯月さんにそれ、お任せしちゃってもいいかしら。」
「はい勿論です。うちの研究開発部で何とかします。」
星はスマホを見ながら更にある事に気付いた。
「ああ。しかも四大夏フェスさえもかぶってません。」
栗原は思い出した様に告げた。
「そう言えば先々週だったかな。すぐそこのマリンスタジアムで何かやってたわ。物凄い人でめっちゃ盛り上がってましたけど……。」
星は栗原に笑顔を向けた。
「はい、それです。他の大きな夏フェスも既に終了していますので、もしかしたら流れてくるかもしれませんね。」
卯月は困り顔で正直なところを述べた。
「そんなに一杯来られても……。宣伝打たなきゃよかったですかね。」
鯛島は笑いながらそれを否定した。
「そりゃダメよ。今度一般用ソフト売り出すんだから。他にも色々宣伝しなくちゃいけないし。ま、敢えて言うならイベントホールがちょっと心配かな。6千人収容で間に合うか。」
栗原は更に一つ提案した。
「警備員も増やしておいた方がいいのかしらね。」
鯛島は成程と頷いた。
「そうね。ちょっと掛け合ってみるわ。まあ、明後日だから何人くらい都合がつくか分からないけど……。」
星は昨年の夏フェスを思い起こしていた。
「まあ、去年の客層見てると大丈夫な気もしますけどね。変な人は見かけなかったし。」
栗原は何か気付いた様に呟いた。
「ファランクスのビラも500じゃ足りないかな……。DVDの即売会もちょっと考えておかなきゃ。」
課題がいろいろと見えてきたが、いよいよ明後日から夏フェスが開催される。
フィナとファランクスが出演するイベントは第二日目の全ライブ終了後、15時10分からだ。
【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。
私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のマネージャー】
本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【本田家】
本田トオル … サナとサユリの父。国際宇宙ステーションの研究者
本田サエコ … サナとサユリの母。国際宇宙ステーションの研究者
三好クレハ … 本田家の家政婦
本田ススム … サナとサユリの叔父。トオルの弟
中原トキノスケ … 母方の祖父。本田家の近所に住んでいる
中原トワ … 母方の祖母。本田家の近所に住んでいる
【サナの友だち】
山梨ユキナ … サナの友だち。9歳。優しい。母は料理上手。兄にサダオがいる
栗木ミナ … サナの友だち。9歳。元気。
桃園マナミ … サナの友だち。9歳。おしゃれ。
柿月ヨナ … サナの友だち。9歳。物静か。兄のユタカはアテナのマネージャー
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。
新米ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ
<研究開発部>
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母
卯月カナメ … 第2研究開発部主任。
白鳥マイ … 第3研究開発部主任。天才。息子1人
熊谷トシロウ … 第4研究開発部主任。妻死去。息子1人娘1人。酒好き
午藤コウジ … 第5研究開発部主任。柔道4段。妻、息子1人
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。
美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子
未木タツヤ … 第7研究開発部主任。バンドVo.、ビリヤード
龍崎アヤネ … 第8研究開発部主任。文句大好き。彼氏あり
<本部>
金本センタロウ … 社長。ボカロ協会会長。空知モモエの幼馴染
波岡ギンペイ … 営業部部長
銅崎ササエ … 人事部部長
鯛島テツコ … 経理部部長。研究開発部担当
【国際宇宙ステーション】
藤マリア … シュメール号の船長兼総司令。本田サエコの親友。
谷ケント … シュメール号の観測班班長。
【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所
小橋レイナ … 社長、代表取締役
黒木ナナ … 副社長。1児の母
須賀ユウタ … 専務。2児の父。車とバイク好き
佐山クロウ … 営業担当。体格がいい
大村マツリ … 営業担当。ナイスバディ。おしゃれ
下尾ライト … 制作担当。プラモデルが好き
竹ヒマリ … 制作担当。絵やイラストがうまい
栗原ユウヒ … イベント担当。妹と同居。バツ1
小宮山ネイネ … キャスティング担当。投資家




