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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
92/623

92 夏フェスの準備は午前中に終わらせたい

 ニーケはゆっくりと立ち上がると申し訳なさそうにうつむいた。

「あ、すみません。大丈夫……。」

 かなり青ざめている様だ。


「ほら、ちょっとソファーに座って。」

 私はニーケをソファーに座らせると自分もその隣に腰を下ろした。

 蟹江さんと蛯名さんは心配そうにこちらを覗き込んでいた。


 ニーケはソファに座ると「ふぅ」と一息いた。

「ごめんなさい。とても多くの情報が流れ込んで来てしまって、まだ私の中で処理が追いつかない状態です。少し睡眠を取って整理させてもらってもよろしいでしょうか。」


 私たちボカロは眠らないでもいられるが、睡眠をとることにより蓄積された膨大なデータをより速く効率的に処理することができるのだ。


 私はニーケの状態を心配した。

「ええ、勿論よ。私の寝室で休めばいいわ。」


 ニーケは少し気分がすぐれない様だが私の提案を丁重に断った。

「ありがとう。でも一度自分の部屋に戻らせてもらうわ。ベッドに記憶を整理する為の装置や大容量のバッファが備え付けられているので……。」


 私はうなずいた。

「ええ、わかったわ。でも一人で大丈夫?」


 ニーケは笑顔で応えた。

「ええ、大丈夫よ。生まれたばかりの頃にもたまにあった事ですから。」


 ニーケは蟹江さんたちに挨拶した。

「蟹江さん、蛯名さん。今日はご迷惑おかけしました。3時間もあれば復旧すると思いますので。」


 蟹江さんはニーケを気遣った。

「ホント無理しないでゆっくり休んで。そんな急がなくていいから。どうせ私たちも忙しいし、話しは夏フェスが終わってからにしましょう。」


「お気遣い痛み入ります。では、お言葉に甘えさせていただきます。ごきげんよう。」

 ニーケは皆に挨拶するとスッと居間から消えてしまった。


 蟹江さんは落ち着いた声で私に提案した。

「緑と赤も夏フェスが終わるまでは何もして来ないみたいだし、あなたも練習があるでしょうから今日はこれ位にしておきましょうか。」


 私は笑顔で返事をした。

「はい、わかりました。今日はありがとうございました。」


 通信が切れて、私はソファに座り一息ついた。

「あの氷のオブジェよく見たら綺麗でヒンヤリ感があって結構いいかも、この不純物さえなければ……。」

 その不純物は「しまった!」という顔をしてオブジェの中心部にたたずんでいた。



 所変わって、ここは夏フェスが開催される国際展示場。

 この展示場はイベントホールを中心に南側に8つのホール、北側には3つのホールが並列していた。

 夏フェスはこのすべてを借り切って行う予定だ。


 各ホールは可動式の間仕切りを取り外すことで一体となる様にできていた。

 ライブ会場は三つに分かれており、1~3ホールがメイン会場、9~11ホールが第2会場、7,8ホールが第3会場だ。


 そして、イベントホールではメイン会場と同じ音と映像が流れ、親子連れや立ち見ができない人、しんどい人が椅子に座って観覧できる様になっていた。

 また、来賓の多くもこのイベントホールに席が用意されていた。


 一般の入場料は1日2000円。但し親同伴の子どもは無料。

 入場無料にすると関係ない人たちまで来てしまうので適当な所で手を打った。

 ボカロだけではなく、AIやQCに関わる海外の関係者も多数来る予定なので、あまり混雑されては困るというのも一つの理由だ。

 だいたい一日当たり一万人が入場料を支払ってくれれば会場使用料の半分位は浮く見積もりだ。


 勿論赤字覚悟、というよりはこの夏フェスはわば3Dボカロの宣伝みたいな所が多分に含まれているのだ。

 ゆえにこれは宣伝費と考えるべき出費として扱われていた。


 だが実のところ、サークル参加者やコスプレ参加者、業者の物販で使用料が入る上、国や出資者からかなりの経済的補助があり、下手すると黒字になってしまう位なのえあった。


 フィナたちがイベントを行うイベントホールではステージが大方おおかた完成し、機器の設置もおおむね片付いていた。

 作業員や運搬業者、大勢の熱気でゆらぐ広い会場の片隅で芸能事務所ツイストーラスのイベン担当者である栗原ユウヒは機器の最終確認を行っていた。


 そこに星カナデが声を掛けた。

「栗原さん、そろそろ食事に行きませんか。」

 星はファランクスのメンバーであるメーティス・パルテのマネージャーだ。


 栗原はファイルをしまいながら星に尋ねた。

「そうね、ホントお腹すいたわ。何処どこで食べる?」


 星は笑顔で応えた。

「さっき3Dボカロの卯月うづきさんと鯛島たいじまさんが見えられて一緒にどうかって言ってました。」


 栗原は一つうなずくと周りを見渡した。

「じゃあ、ご一緒させてもらいましょうか。あれ、ヒマリがいない……。」

 栗原ヒマリは栗原の妹で現在同居しており、今日は手伝いに来てくれていたのだ。


 星は言った。

「あ、ヒマリさんならあそこにいますよ。」


 栗原が星の指さす方に振り向くと、そこにはたまたま出会った友人と話し込んでいるヒマリがいた。

「ヒマリ。」

 栗原が呼ぶとヒマリが振り返った。


 栗原はヒマリに近づくと友だちに一礼してから尋ねた。

「私ら食事行くけど。あんたどうする?」


 ヒマリはにこやかに言った。

「あ、行っていいよ。私友だちと一緒に食べるから。」


 栗原は「あ、そう」と言ってうなずいた。

「オッケー。あ、もう搬入終わったから自由にしていいよ。」


 ヒマリは嬉しそうに返事をした。

「あ、そうなんだ。じゃあ今日はもう帰ろうかな。」

「うん、お疲れ様ね。ありがとう、ホント助かった。」


 ヒマリは友だちと一緒に歩いて行った。

 そこに入れ替わるように3Dボカロの卯月と鯛島が顔を見せた。


 鯛島は栗原に声を掛けた。

「こんにちは。どう、搬入は順調?」

「ええ、積み込み作業と設置は大体だいたい終わりました。」


 卯月カナメは3Dボカロの第2研究開発部で主任を務めていた。

 この第2研究開発部というのはイベントを催す等してボーカロイドを成長させる為の計画や開発に取り組んでいる部署であり、この夏フェスの発起ほっき部署でもあった。

 また、鯛島テツコは3Dボカロ本部の経理部部長で、研究開発部を担当していた。


 四人は連れだって棟内にあるレストランへと足を運んだ。

 歩きながら鯛島は栗原に尋ねた。

「小橋社長たちはもう帰られたんですか?」


 栗原は笑顔で答えた。

「1時間ほど前にみんな帰っちゃいました。」


 鯛島は少し残念そうに言った。

「ああそうなんですか。あと誰が来てたんですか?」


 栗原は思い出す様な仕草をした。

「小橋社長と副社長の黒木さん、キャスティングの小宮山さんでしょ。後は営業の佐山くんと大村さんが朝早くから来てくれてましたね。」


 鯛島は半笑いで応えた。

「ほとんど総出ね。」


 栗原も笑いながら説明した。

「まあ九人しかいないからね。だけどみんな忙しいみたいだったから搬入が終わった時点でもうこっちは大丈夫だからって帰ってもらったの。」

「あら、そうなんですか。まあ今回は急だったし仕方ないわね。」


 鯛島は周りを見渡しながら眩しそうな顔をした。

「しかし、熱気がすごい……。」


 星はその意見にうなずいた。

「ええ、午前中はまだ涼しかったんですけどね。まあ搬入車両や業者さんが行きかっててメチャクチャでしたけど。」


 卯月は静かな笑みをたたえながら二人をねぎらった。

「ホントお疲れ様です。大変だったんじゃないですか?」


 星は笑顔で返した。

「まあ、そうは言いいましても屋内ですし、一応クーラーは効いてますから。栗原さんは大変そうでしたけど。」


 卯月は栗原の方を見た。

「え、何かあったんですか?」


 栗原は苦笑いしながら説明した。

「ええ、ちょっとした手違いはあったんですが何とかなりましたので。」


 卯月はそれについて尋ねた。

「ちょっとした手違い?」


 栗原は平然とした口調で説明した。

「いえ、ほらイベントの最初にミカとルクが挨拶するじゃないですか。」

「ええ。」

「で、二人に繋がるか試してみたらしばらく反応がなくて、あれこれいじってたら今度は何か突然つながりまして。結局原因は分からず仕舞いだったんですけど……。」


 ミカとルクは3Dボカロ社が試作品として作成した最初のボーカロイドである。

 発売当時のCMやこの様なイベントの進行役補助として出演したり、初期の頃は様々な実験にも使用されていた。

 データ自体は3Dボカロ本社が所有するQCの中に取り込まれており、今回の様に出番が来た時は専用のルーターで呼び出すことになっていた。


 卯月は冷静な顔でそれを聞きながら考えていた。

「ミカとルクが……。」


 栗原は冗談めかした。

「最近出番がなかったから調子悪かったのかな?」

【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。

 私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のマネージャー】

 本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【本田家】

 本田トオル … サナとサユリの父。国際宇宙ステーションの研究者

 本田サエコ … サナとサユリの母。国際宇宙ステーションの研究者

 三好クレハ … 本田家の家政婦

 本田ススム … サナとサユリの叔父。トオルの弟

 中原トキノスケ … 母方の祖父。本田家の近所に住んでいる

 中原トワ … 母方の祖母。本田家の近所に住んでいる


【サナの友だち】

 山梨ユキナ … サナの友だち。9歳。優しい。母は料理上手。兄にサダオがいる

 栗木ミナ … サナの友だち。9歳。元気。

 桃園マナミ … サナの友だち。9歳。おしゃれ。

 柿月ヨナ … サナの友だち。9歳。物静か。兄のユタカはアテナのマネージャー


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。

      新米ナビゲーター(仮)

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ

<研究開発部>

 蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母

 卯月カナメ … 第2研究開発部主任。

 白鳥マイ … 第3研究開発部主任。天才。息子1人

 熊谷トシロウ … 第4研究開発部主任。妻死去。息子1人娘1人。酒好き

 午藤コウジ … 第5研究開発部主任。柔道4段。妻、息子1人

 蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。

       美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子

 未木タツヤ … 第7研究開発部主任。バンドVo.、ビリヤード

 龍崎アヤネ … 第8研究開発部主任。文句大好き。彼氏あり

<本部>

金本センタロウ … 社長。ボカロ協会会長。空知モモエの幼馴染

 波岡ギンペイ … 営業部部長

 銅崎ササエ … 人事部部長

 鯛島テツコ … 経理部部長。研究開発部担当


【国際宇宙ステーション】

 藤マリア … シュメール号の船長兼総司令。本田サエコの親友。

 谷ケント … シュメール号の観測班班長。


【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所

 小橋レイナ … 社長、代表取締役

 黒木ナナ … 副社長。1児の母

 須賀ユウタ … 専務。2児の父。車とバイク好き

 佐山クロウ … 営業担当。体格がいい

 大村マツリ … 営業担当。ナイスバディ。おしゃれ

 下尾ライト … 制作担当。プラモデルが好き

 竹ヒマリ … 制作担当。絵やイラストがうまい

 栗原ユウヒ … イベント担当。妹と同居。バツ1

 小宮山ネイネ … キャスティング担当。投資家

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