09 ボカロの就職
「いずれにせよ、これはとんでもない事だわ。」
「とんでもないって何が?」
「いい? レベルの高いボカロはとんでもない額で市場に出回っているの。」
「まさか……人身売買!?」こわ!
「いえいえ。所有者の変更は認められていない、と言うよりできない様になってるのよ。」
「と、言いますと?」
「このソフトはそんじょそこらのソフトとは違って、購入する時に身分証明を提示して所有者を確定するの。」
「ほへぇ~。」
それじゃあ気軽に買えないじゃん。
「Nクラス以上ならそれ一体で会社が運営できる程。まぁ、Nだとちょっときついかもだけど。本来はそうゆうソフトなのよ。」
「あぁ、そうゆうソフトなんだ。私……。」
因みにお値段の方は……と聞こうと思ったら、サユリが先に話し出した。
「例えば売れそうなボカロを巡って芸能事務所が争奪戦を繰り広げたり。」
「げ、芸能事務所! 争奪戦!」夢にまで見た光景が広がる。
「ただ、悪い奴もいるから気を付けないといけない。」
「所有者って私の場合……。」
「あぁ、私とサナが共同所有者って事になってる。」
「なるほど。」
サナだけだったら不安だったけど、まぁ一安心。
「そうだ!」
思い出したようにサユリが両掌を合わせた。
「イベント。出るんだったら気を付けて。」
私は頷いた。
「つまり、悪い奴の目に留まらない様にってことですね。」
「そう。まあ、今回のイベントの種目はドレミファソラシドをそのまま歌うだけだから大丈夫だと思うけど。」
「え、それだけ?」
何だよそりゃあ。がっかりにも程があるよ。
不満気な私を見てサユリは苦笑いした。
「そりゃ、XYZクラスじゃそんなもんでしょうよ。」