08 サユリに聞いてみた
「イベントの参加については姉のサユリに頼んだ方がよさそうだな。」
と、そんなことを思っていた矢先、スクリーンセイバーが切り替えられ姉のサユリの姿が映し出された。
「あれ? フィナ。いるの?」
何やら向こう側から私は見えていない様だった。
私がモニターの前に移動すると姿が映し出されたらしい。
「あ、いたいた。」
どうやらモニター付近にある枠線から外れると、向こう側から私の姿は認識されないみたいだ。
「こんにちは。」
「ねぇ、今回のイベント、出るの?」
「私は出たいかなと……。」
「やっぱりあの子、既読スルーしてたか。」
うん、してたしてた。両者苦笑い。
サユリは意味深な顔をして呟いた。
「X、Y、Zクラスか……。」
「何か問題でも?」
サユリは私の顔をまじまじと見た。
「う~ん。あんたが何処まで理解できるのかわからないけど……。」
「言って味噌。」
あ、また調整初期のAIらしからぬ発言をしてしまった……。
「味噌って……おやじ言葉まで使うんだ……。」
サユリは怪しそうに私を見つめる。
「やっぱり……。」
何が「やっぱり」なのでしょう……と聞きたかったがやめといた。
サユリはまるで観察でもしているかの様に無表情でこちらを見ている。
「あなたの歌やダンスもそうだけど、会話……。」
「はい……。」
何? 何でしょう……!? ゴクリ。
「完全にZクラスのものではないよね。」
「そ、そうなんだ……。」
私は引きつった笑顔でそう答えるしかなかった。
「先輩のボカロは既にPクラスだけど、やっと違和感なく日常会話ができるレベルだし。」
「へ、へえ~~。」
「歌とダンスに至っては基本動作とか調整用のソフトめちゃくちゃダウンロードしまくって、えらい時間かけて調整して、やっと1曲だけ見られる程度になったってのに。」
まぁ、そりゃあ疑いたくもなりますよねぇ。ははは……。
「今、表に出てる……プロとして活躍してるボカロでも、あれだけ人を引き付けられるパフォーマンスはできないかもしれない。てか、何か違う!」
「はぁ……。」
褒めてくれてんのかな? にしては顔が怖いな……。
サユリは黙ってこちらをじーっと眺めている。
私は居たたまれなかったのもあるが、先程小耳に挟んだ瞬間、私の中で巨大化したあの言葉について質問した。
「プロ、プロのボカロなんているんですか?」
姉は少し表情を和らげて答えてくれた。
「うん、まだ数は少ないけどいるよ。モノ珍しさもあってかバラエティ番組にも引っ張りだこみたい。ネットTVでは司会やってる子もいるし。」
「ほうほう! プロのクラスはどれ位なのかな?」
「知ってる範囲だと上は最高でGクラスかな。ココナとかカナデとか。」
「てことは、AからFはまだいないってことかな。」
「うん。……いや。」
「え、いるの?」
「まあ、いるっちゃいるんだけどね。公式がサンプルとして出してるミカとルクはAクラス。」
「あぁ、なるほど。ん?」どっかで聞いたことのある名前……。
「始めてこのソフトのCMでミカを見たときは本物の人間にしか見えなかった。」
そりゃ制作会社ならチートし放題だもんね。うんうん、そりゃあね。
「他にも公式でクラスBとCのボカロサンプルが二体ずついたと思う。」
お~い、大丈夫か~。
それって兄妹と初期型の男女ではありませんように!
「で、だ。」
サユリの顔が急に私に近づいて来た。
「何となくわかったと思うけど、あんたは……異常!」
「ひぃぃぃぃ!」
私は彼女の勢いに後ずさった。
「あんたは姿こそまだCGってわかるレベルだけど……。」
私は分からんかったよ、そうと聞くまでは。
「歌、会話、それとダンス。どれを取ってもミカと同レベル。いや、それ以上かも。」
まぁ、前世でねぇ……。記憶がねぇ……。言ってもややこいしなぁ。自分でもようわかっとらんし……。
「私が思うには……。」
あ、遂に身バレの瞬間ですか?
サユリは核心を突いた名探偵の如く断言した。
「これは奇跡よ! とんでもない偶然が偶然を呼んでしまった!」
あぁ、そっちね。
ちょっと焦ったわ。