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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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78 ブースターエンジンやば!

 若益エイガが右手を軽く挙げながら発言した。

「ちょっといいですかな?」


 若益は株式会社若益水産の会長であり、ボカロ事業にも多大な投資をしていた。

 彼は高齢にもかかわらずボーカロイドをこよなく愛しており、ここにいるメンバーとも旧知の仲だ。


 特に開発初期から中心となって研究を支えて来た田所マリア、加藤アリシア、杉田サラ、そして蟹江ジュンの四人についてはとても尊敬し感謝もしていた。


 蟹江は「やはり来たか」と思いながら若益を指した。

「はい、若益さんお願いします。」


「ええと、この③の『パフォーマンス特化型ブースターエンジンについて』なんだけど、これって実際どれ位のもんなんですかね。この『飛躍的な成果』っていうのが具体的にわかればいいんですが。」

 事情を知る3Dボカロ社の幹部以外の全員が興味津々といった顔つきで蟹江の方を見た。


 更に田所マリアが発言した。

「私もちょっと見てみたいわ。あそこ(研究所)が『飛躍的』なんて言葉使うって滅多な事じゃないもの。」


 蟹江はニッコリしながら提案した。

「はい。映像は用意してありますので後ほどお見せします。夏コミの打合せ終了後ってことでいいですか。」


 3Dボカロ社の社員がニヤついてるのを見ながら杉田サラが半笑いで突っ込んだ。

「ちょっと、何みんなニヤついてんのよ。気になるわ。」


 蟹江はそんな杉田を尻目に議事を進めた。

「すみません。先に夏フェスの方終わらせたいと思います。ええと、先ずは日程表をご覧ください……。」


 夏フェスについては蟹江が全体の流れをざっと説明してから意見を聞いた。

 正直、社員以外はほとんどの人が見学するだけだったので、多少の修正をするだけでこの事案については終了した。


 と言うよりは、皆早くその『飛躍的な成果』がどんなものなのか知りたくてそれ所ではなかったのであった。


 蛯名は映像を映し出す準備に取り掛かった。

 蟹江は全体に注意を促した。

「それでは最後にファランクスの映像を見ていただきたいと思います。あ、ここで見聞きしたことは絶対に他言無用でお願いします。」


 若益エイガが面倒くさそうに不平を漏らした。

「わかっとるがな。はよ見せて~な。」

 みんなが笑っている間に映像の準備が整った様だ。


 部屋の電気が消されて暗くなると映像が流れ出した。

 蛯名さんは自分用のタオルとティッシュの箱を既にスタンバイさせていた。


 皆が注目する中、いよいよスクリーンの中でファランクスのパフォーマンスが始まった。

 そして、その衝撃的な異次元の映像に皆一瞬にして引き込まれてしまった。


 何だこれは……何が起こっているんだ……。

 これは人間? いや、それとも違う……何かとんでもないもの!

 飛躍的……? そんな、そんな生易しいもんじゃないでしょ。これは……!

 おい! 蟹江さん! あんた何やらかしたってんだよ!


 皆が心の中で叫んだ。

 叫ばずにはいられなかった。

 ボカロに対する愛着が殊更ことさら強いここの人々にとって、込み上げる感情を押さえつけることは至難しなんであったからだ。


 ファランクスのパフォーマンスが終ると皆がすさまじい拍手を送った。

 一同がホーッと息を吐いていると更なる驚愕きょうがくが彼らを襲った。


 フィニッシュの状態からアテナがスッとこちらに身体を向けたかと思うと舞台前方へつかつかと歩み寄って来た。

 他の三人もアテナに続いた。そして四人が横一列になるとアテナはマイクを取った。

 先程の一段落ひとだんらくから一転、皆が固唾かたずんだ。


 アテナはボカロとは到底思えぬ慈愛に満ちた眼差しでこちらを見てから話し出した。

「ボカロ協会の皆様、いつもお世話になっております。心より感謝申し上げます。」


 次にメーティスが魅力的な低音ボイスで語りかけた。

「私たちのパフォーマンスは如何だったでしょうか。現在夏フェスに向けファランクス一同全力で練習に励んでいます。」


 続いてニーケがうるわしい笑顔で皆の心を鷲掴わしづかみにした。

「私たちは新たなる力を得て大きく成長することができました。これも皆さまのご助力あっての事と感謝しております。」


 ミネルヴァは満面の笑顔で元気よく言った。

「みんなに、より一層楽しんでもらえる様、今後も精進しょうじんしてまいります!」


 最後に全員でお辞儀をしながら語りかけた。

「皆様、今後もボカロユニット『ファランクス』をよろしくお願いいたします!」


 皆が呆気に取られているといきなり若益が大きな声で挨拶した。

「こ、こちらこそよろしくお願いします‼」


 蟹江は笑いながら伝えた。

「若益さん、これはビデオですから。」

「あ、そうか……。」


 若益の間の抜けた声に杉田は笑いながら同意した。

「私もそれ言いそうになっちゃった。」


 若益も照れ笑いしながら返した。

「はっはっは。そうでしょう! はっはっは。」


 加藤はあわてた感じで言った。

「ちょっと。それ所じゃないでしょう! 蟹江さん。何あれ? すごいじゃない! いや、凄いなんてもんじゃないのは分かってるんだけど……。」


 会議の途中から遅れて来た放送事業者協会理事の須田ユウキも驚いていた。

「本当ですよ。これはボカロ業界どころか放送業界全体がひっくり返りますよ!」


 蟹江はもう一度全体に向けて確認した。

「今のが新生ファランクスです。まあ、『飛躍的』と言うのは今見ていただいた通りです。」


 市川が興奮冷めやらぬ様子で発言した。

「いや、もうこれは……『飛躍的』と言うより……もう全然違うでしょ! あ、ごめんなさい。どうやら少し興奮し過ぎている様です。」

 皆笑いながら同意をうなずきで示した。


 市川は顔中の汗を拭きながら話しを続けた。

「で、一体そのブースターエンジンってのはどういった代物なんですか?」


 蟹江が答えようとすると鯛島が挙手した。

「はい、鯛島さんお願いします。」

 蟹江は内心「ふう、助かった」と思った。


 鯛島は3Dボカロ社本部の経理部長であり研究開発部担当でもあった。

「はい。実は正直なところ、あそこまでの変化は期待していませんでした。詳しい内容は言えない所もありますが、研究の過程上偶発的に起こった相乗作用により起き得た現象かと考えております。で、それにつきましては現在調査中です。」


 市川は質問した。

「えっと、つまり何故あれほどの変化があったのかまだ分かっていないという事ですね?」


 鯛島は返答した。

「はい、その通りです。なので事前にお話ししていた『他のボカロに会話を聞かせてはいけない』というのはそういった事情からなんです。」

「成程、他のボカロにどんな影響があるか未知数という事ですか……。偶発的となると確かに他のボカロに転用するのはまだ早いですね……。」


 市川が会長を務める(株)市川電算は現在人気ナンバーワンのボカロである市川ココナと市川カナデをプロデュースしている企業だ。

 彼の孫である市川ジロウとその妻サキエがココナとカナデのマネージャーであり、市川自身も社長職を息子に譲ってからというもの大分力を注いで来た。


 彼はファランクスの成長をねたんでいる訳ではなかった。

 むしろボカロの可能性が大いに広がった事を心から喜んでいた。

 だからこそ飛躍ひやくの理由を知りたかったのだ。


 鯛島はそんな市川の気持ちをおもんばかった。

「はい、残念ながらおっしゃる通りです。でも、③の『パフォーマンス特化型ブースターエンジンについて』の所にもある様に解析かいせき可能な所からどんどんソフト化して参りますので少々お待ち下さい。」


 市川は少し申し訳なさそうに応えた。

「はい、期待してます。すみませんね、なんかかしちゃってるみたいで。」

「いえいえ、こちらこそ解析が遅れてしまい申し訳ありません。急いで原因解明に勤めてまいりますので、またよろしくお願いします。」


 ボカロ協会の面々も大分落ち着いて来た様だ。

 ただ一人、蛯名だけがファランクスの復活した姿を何度も思い返しては涙していた。

【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。

 私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のマネージャー】

 本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル


【私のナビゲーター】

 斎藤節子 … ナビゲーター。部長

 ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。

      新米ナビゲーター(仮)

 山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手


【株式会社3Dボーカロイド】略して3Dボカロ

<研究開発部>

 蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。2児の母

 卯月カナメ … 第2研究開発部主任。

 白鳥マイ … 第3研究開発部主任。天才。息子1人

 熊谷トシロウ … 第4研究開発部主任。妻死去。息子1人娘1人。酒好き

 午藤コウジ … 第5研究開発部主任。柔道4段。妻、息子1人

 蛯名モコ … 第6研究開発部主任。ボカロ協会社内役員。

       美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子

 未木タツヤ … 第7研究開発部主任。バンドVo.、ビリヤード

 龍崎アヤネ … 第8研究開発部主任。彼氏あり

<本部>

金本センタロウ … 社長。ボカロ協会会長。空知モモエの幼馴染

 波岡ギンペイ … 営業部部長

 銅崎ササエ … 人事部部長

 鯛島テツコ … 経理部部長。研究開発部担当


【ボカロ協会】3Dボカロの金本(会長)、蟹江、蛯名も所属している。

 市川タクマ … 理事。(株)市川電算の会長。出資者

 杉田サラ … 副理事。西方せいほう大学の元教授

 若益エイガ … 初期。(株)若益水産会長。出資者

 大峰ダイタ … 西方せいほう大学理工学部の准教授

 田所マリア … グラシア大学情報通信技術の元教授。1児の母

 須田ユウキ … 放送事業者協会の理事

 加藤アリシア … 国際音楽大学声楽科の教授

 北野コウゾウ … (株)ムーンレコード情報メディア研究部所長。出資会社

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