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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
74/624

74 これは経費で落ちますか?

 8月15日月曜日午後3時。

 フィナが所属することになった芸能事務所ツイストーラスでは会議が行われていた。


 この会議には前回参加できなかったキャスティング担当の小宮山こみやまネイネを含む九人全員が顔をそろえていた。


 小橋社長は皆に言った。

「みんな、忙しいのにごめん。ちょっと話しがあるんだけど。」


 皆が小橋社長に注目した。

「昨日言ってたフィナ・エスカなんだけど、うちとの契約が成立しましたのでお伝えしときます。」

 皆から「お~!」という拍手が起こった。


 小橋社長は続けた。

「ただ、今はファランクス中心で動いてくれればいいから。」


 司会の黒木は皆に伝えた。

「一応、フィナ・エスカに関しては2点だけ。一つ目は当日配布するビラの裏側にファランクスのCD、DVDの予約用QRコードが印刷されていますが、そこにフィナ・エスカの分も付け足します。これは既に下尾さんに言って直してもらってあります。」

 制作担当の下尾ライトは手を挙げてうなずいた。


 黒木は話を続けた。

「もう1つはイベントの演出関係なので栗原さんに全部任せてあります。」

 イベント担当の栗原ユウヒも手を挙げて軽く会釈えしゃくした。


 小橋社長は全体を見まわして社員たちの様子を窺っていた。

「はい、そうね。フィナについてはそんな感じで。」


 黒木は会議を先に進めた。

「それでは資料の3ページを見てください。」


 そこには夏フェスまでのスケジュール表が記されていた。

 黒木は皆に告げた。

「ザっと目を通していただいて、もし訂正等があったらお願いします。」


 全員がしばらく表をながめていたところ、営業担当の佐山クロウが挙手きょしゅした。

「すみません。ちょっといいですか。」

「どうぞ。」

「午前中に主催者の人と打合せしたんですが、夏フェスの経費はすべて3Dボカロ社さんが出してくれる事が決定しましたのでお伝えしときます。」


 すると何人かが笑顔で手を叩いた。ちなみに営業部は経理も担当していた。

 小橋社長は胸をろしていた。

「よかったよかった。決まったってことね。」


 佐山は平然としながら言った。

「はい。それで、見積書を作成しなくちゃならないので、まだ申告してないものがあれば明日の午前中までにお願いしたいんですが……。」


 下尾が全体に尋ねた。

「あ、じゃあ確認しますけど、CDとDVD関連、それとポスターとビラの数、ここに書いてある通りでいいですか。ちょっと少ないですかね……。」


 黒木はそれに答えた。

「まだファランクスが受け入れられるかどうかは未知数なので、これ位でいいんじゃないでしょうか。」


 営業担当の大村マツリがポツリとつぶやいた。

「いや、絶対売れるでしょう。あれで売れないわけがない。」


 黒木は「まあね。」という様な笑顔を返した。

 制作担当の竹ヒマリもそれに同意した。

「ホントにそれ!」


 下尾は周りを見渡してから数について再度確認した。

「まあ、販売はライブ終了から閉会までの約30分間なので、あまり作っても意味がありませんから。もし他に意見がなければ、一応この数で作らせてもらいます。」


 佐山は下尾の方を向きながら笑顔で言った。

「まあ数の確認は必要なんですが、DVDとかはうちの会社の経費になるんでそっちの方は急がなくても大丈夫ですよ。」


 下尾はニヤケながら軽く二度頷いた。

「あ、そうか。そうだよね。あ、一応ファランクスのレコーディング、昨日終わりましたんで。報告まで。」


 小橋社長がお礼を言った。

「みんな土日も出てもらっちゃってごめん。ちゃんと代休とってよ。」


 制作担当の竹ヒマリが下尾に聞いた。

「すみません下尾さん。映像の方も一通り終わってるんですけど、ちょっとアレンジしたいので明日朝一でもいいですか?」


 下尾は事情を知っているらしくそれを許可した。

「ああ、明日の昼まででいいですよ。今日中に表面おもてめんとジャケットの印刷は終わりますから。」


 次にキャスティング担当の小宮山が挙手した。

「ええと、作業員の手配とアルバイトの方はここに書いてある内容でいいですか?」


 小橋社長が目を丸くして言った。

「そう言えば搬入作業の業者よく手配できたわね。それと車両の手配に、ドライバーも……。」


 小宮山は控えめに微笑んだ。

「前にお願いしたことのある会社だったので……。たまたまキャンセルが出たこともありまして……。」


 みんな小宮山をたたえた。

 専務の須賀ユウタは笑顔で言った。

「小宮山さんってますね! いざとなったら私が車出さなきゃならんと思ってたんですが。」


 小宮山は照れながら言った。

「いえ、ホントたまたまですから……。」


 黒木は下尾に質問した。

「あ、そうだ。下尾さん。アルバイトの四人は?」


 下尾はそれに答えた。

「ああ、大丈夫ですよ。この前の四人、また来てくれるそうです。えっと、明後日からかな。」

 制作の仕事は内密に進めることが多いので、下尾は手伝いが必要な時はいつも知り合いの学生に来てもらっていた。


 黒木は下尾に確認した。

「一応確認しますが、この前言った通り秘密厳守でお願いします。ファランクスの映像を見ることになるので……。」


 下尾はにこやかに返事をした。

「はい。それも言ってあります。大丈夫です。あ、バイト代はこの前と同じでいいんでしたよね。」


 その後、搬入作業や当日の流れ、CDやDVDの即売、接客。主催者や司会者との打合せ等おおまかなところを確認して会議は終了した。


 大村マツリも会議室を後にして営業部に戻ろうとしていたが、竹ヒマリと栗原ユウヒに呼び止められた。

「ねえ大村さん。ちょっとアドバイスしてもらってもいいですか?」


 大村は目を大きくして尋ねた。

「ん、何をですか?」


 三人は連れだって制作部の部屋に向かった。

 栗原は歩きながら大村に尋ねた。

「いえ、実はね。ほらファランクスがあんな状態になっちゃったでしょう?」

「ああ、はい。」

「で、ダンス見てて思ったんだけど。衣装がね……。」


 大村は勘付いた。

「ああ、服ね。確かに……私も感じた。服のしなりとか揺れ方とか結構気になった!」


 栗原はそれについて大村に説明した。

「でね。以前から竹さんに協力してもらって『着衣動作処理プログラム』っていうのを作ってたんだけど、今回3Dボカロさんのお知恵を拝借はいしゃくしてアレンジしてみたってわけ。」


 大村は眼を輝かせた。

「おお、それは是非見てみたいわ!」


 栗原もニコッとしながら大村にアドバイスを求めた。

「大村さんファッションとか詳しいから、ちょっと見てもらいたいのよ。」


 竹はお願いする様な目付きをした。

「私もイラストで服とか描くんですけどリアルだと今一いまいちよく分からなくて……。」


 大村は笑顔で了承した。

「何か面白くなって来た。前から制作の方にも興味あったのよね、私。」


 そして三人はその晩、寝ることも忘れて開発に熱中するのであった。

【人物紹介】※参考なので読まなくてもいいです。

 私(フィナ・エスカ)… 異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた


【私のマネージャー】

 本田サユリ … 私のマネージャー。大学生。サナの姉。しっかり者

 本田サナ … 私のマネージャー。9歳。サユリの妹。歌が大好き


【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット

 アテナ・グラウクス … マネージャーは柿月ユタカ(ヨナの兄)

 メーティス・パルテ … マネージャーは星カナデ

 ニーケ・ヴィクトリア … マネージャーは春日クルミ

 ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … マネージャーは大地ミノル


【株式会社ツイストーラス】フィナとファランクスが所属する芸能事務所

 小橋レイナ … 社長、代表取締役

 黒木ナナ … 副社長。1児の母

 須賀ユウタ … 専務。2児の父。車とバイク好き

 佐山クロウ … 営業担当。体格がいい

 大村マツリ … 営業担当。ナイスバディ。おしゃれ

 下尾ライト … 制作担当。プラモデルが好き

 竹ヒマリ … 制作担当。絵やイラストがうまい

 栗原ユウヒ … イベント担当。妹と同居。バツ1

 小宮山ネイネ … キャスティング担当。投資家

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