73 知らないと言う罪と知り過ぎる罠
こいつはどえらい事ですよ!
「うおーい! どこ行ったーーーっ!?」
私は布団の中や押入れの中を探しまくった。
「小さいから見つけにくい! これだから2.5頭身は……。」
ゴミ箱に! ……もいねえか……。そうだ!
「『目標』の居場所を知りたい!」
モニターに文字が走る。
≪目的遂行『自動リンク』。『解析』、『解読』より新スキル『検索』を生成及び発動。≫
すると簡易モニターに我が家の図面らしきものが映し出された。
「この赤い点滅が『目標』の居場所か……。ええと……。ん? ここは……。」
寝室だよね。でも何処にもいないんだが……。
「もっと詳しくお願いします!」
すると図面が立体図面となり、『目標』の位置が判明した。
「ここか~!」
私はダッシュで玄関から外に出るとスキルを使って宙に浮いた。
最近私は屋根を試しに増築していた。
屋根と言っても「どんな感じなんだろ」と軽い気持ちで付けただけなので、とても簡素な代物であった。
赤い緩やかな斜面が只々(ただただ)広がっているだけの。
『目標』は寝室の上に当たる場所にポツンと座っていた。
「あんな所に……。敵の罠か……?」
私は警戒しながら『目標』に近づいた。
『目標』は図々しくも私に声を掛けて来た。
「やあ、フィナさん!」
私は更に警戒を強めながら言った。
「山本一人? 他にはいない?」
「え、何言ってんですか? 私はここで休んでるだけですよ。」
どうやら私は大きなミスを犯した様だ。
私に「目標」を守る気はあっても……。
「山本! あなた、狙われてる自覚ないでしょ! この……。」
山本は右手で屋根を軽くトントンと叩くと事も無げに言った。
「まあまあ、座って座って。ほら、見てくださいよ。」
山本は指を上空へ向けた。
「え?」
まさか敵ではないだろうな……。
私が夜空を見上げると、そこには降り注がんばかりの煌びやかな星々が輝いていた。
「ほらね、綺麗でしょ。」
山本の言う通りだった。
私は余りにも美しい夜空に暫し見惚れてしまった。
たまにシュッと走る流れ星は余りにも鮮やかであり、私の心を惹きつけた。
ハッと我に返って辺りを見渡すと、山本が屋根に掛けてある梯子の方に向かってトコトコ歩いていた。
私が「戻るの?」と聞くと山本はチラッとこちらを振り向いた。
「私はもう見飽きたから部屋に戻りますわ。」
「見飽きたんかーい!」
そう言うと山本は梯子を降りて行った。
私は夜空を眺めながら、ふと山本の過去に思いを巡らせた。
考えてみればあいつってずっと一人だったんだよね。多分。
寂しいとか孤独とか、感じないのかな……。
ま、いいか。山本だし……。
そもそも気付いてないんだろうな、孤独とかってもんに。
知らない方がいい事もあるさ。
私が居間に戻ると山本はソファーに寝転がってケツをポリポリ掻いていた。
そしてテーブルの上には私が取っておいたプリンアラモードの残骸が寂しそうに佇んでいた。
私は山本をキンキンの氷結バリアーで守護することを即決した。




