72 帰って来いよ…やっぱいい
暫く待っているとコンピューターから答えが返って来た。
≫取り急ぎ計算結果をご報告いたします。
≫通常のグレイマン及びその集団につきましては、あなたが先程提案された"家のバリア"のみで問題ありません。
私は思わず感心してしまった。
「あ、さっきの話し聞いててくれてたんだ……。」
≫"緑と赤"の方はデータ解析にまだ時間を要します。暫くお待ちください。
「ああ、やはりそうですよね……。後どれくらい時間かかるんだろう。」
≫後3時間で信頼度30%以上の結果が算出される予定です。
「ああ、情報不足だしね……。」
私はふと思った事を口にしてみた。
「私のスキル使ってみましょうか?」
≫あなたのスキルを用いれば処理を早めることは可能です。
≫しかし、未知なる敵に隙を突かれて襲撃された場合60%以上の確率で対応できないと推測されます。
≫また、データの不足は依然補いきれないものと判断します。
「成程……。一瞬の遅れが命取りって訳か。」
≫他に考えられる防御策のうち、有力なものを紹介します。
≫① あなたに山本春子(以下『目標』)のパーソナリティを同化させる。
「うん。それは却下。」
≫②『目標』自体にバリアを張り『敵』が接触できない様にする。
≫③ 家の周囲に攻撃用機器を配置。
≫④『目標』及び家の内外にトラップを仕掛ける。
≫ トラップは感知型、逃避型、攻撃型等が有効と思われる。
・感知型……敵の接近を感知する。
・逃避型……敵が『目標』に接近すると『目標』が所定の場所にワープする。
・攻撃型……触れた敵を殲滅する。
「おお、じゃあ取り敢えず全部やっとこうかな……①以外は。」
≫多くの作業を同時に行うと行動やスキルの発動に「遅延」が発生する恐れがありますのでご注意ください。
私は二人に聞いてみた。
「遅延か……。どうしましょうかね。」
蛯名さんは一つアイデアを出してくれた。
「それぞれのスキルでどれ程の遅延が想定されるのかを計算してから何を使用するのか決めた方がいいかもしれませんね。」
蟹江さんがそれについて助言した。
「多分トラップは作成しちゃえば大丈夫だと思うんだけど。」
コンピューターはそれに答えた。
≫はい、その通りです。
≫作成中のみ影響がありますが、一度に複数個作成しなければ僅かな影響で済みます。
≫但し全方位型や遠距離型のトラップは作成後も稼働時に多少の影響をもたらしますのでご注意ください。
蛯名さんは腕を組みながら質問した。
「となると、問題はバリアーってこと?」
≫はい。"緑と赤"の能力が分からない今、バリアーは2つ程度が限界でしょう。
≫また、攻撃用装備はモノによって大きく影響が異なります。
私は頷いてみせた。
「では、だいたい決まった様ですね。」
蟹江さんは私に尋ねた。
「じゃあ、任せちゃっていい?」
「はい。また明日状況を報告します。」
蟹江さんは少し心配そうな顔をして私を見つめた。
「分かりました。でも無理はしないでね。歌の練習もあるんだから。」
蛯名さんも私の心配をしてくれた。
「そうよ。あなたの本業は歌手なんですから。」
私は二人にお礼を言って通信を切った。
「さてと。あいつまだ寝てるのかな?」
私は山本の様子を見に寝室へと向かった。
「ついでにバリアーでもかましときますか、『目標』に。プフフ。氷結バリアーなんてどうかな。カチカチに凍らせてやるぞ。ウシシシ。」
「それそれそれい! 起きやがれ!」
私は思い切り寝室のドアを開け放った。
「ん?」
『目標』消失……。




