62 自分磨きタイム
午後、私はレッスン室でダンスの練習をしていた。
しかしどうしてもファランクスや他のボカロの冴えきったパフォーマンスと比べてしまう。
まあ、目標は高い方が良いとは言うが……。
取り敢えず『振付測定器』のコメント通りやってみますか……。
先ずは音楽なしでアドバイス通りの振付けを何度か練習してみた。
「うむ。ちょっと難しいな。ちゃんとできてんのか見てみよう。」
私は各所に設置してあるカメラの映像を見ながら自分の動きをチェックした。
カメラの設置場所は私がステージに立った時の観客や撮影ポイントをコンピュータに算出してもらって決めた。
私の動き。最初はいい感じに思えたが疑いの目を持って何度も見直すと色々気になる点が見つかった。
「アテナの様な安定感、メーティスの様な大胆さ、ニーケの様なしなやかさ、ミーネの様な軽やかさ……欲しい……。」
「後は……他に何が足りないんだろう。」
私は自分の衣装に目をやった。
「これ、衣服の動き……。」
こちらの電脳世界ではデータが私の中でイメージ処理されてる為、衣装やアクセサリーの動きが自然である。
だが、モニターの向こう側では実際の画像として処理する為、どうしても動きが不自然になる。
この前サユリが『オーナーポイント』(19話参照)を使って服の動きを改善してくれたが、まだ自然の動きにはほど遠い。
因みに髪の毛を含む私の全身の動きは滑らかだ。
どうやらこれは、私の大きなステータス数値の為せる技らしい。
それはファランクスのメンバーにも言えることで既に確認済みである。
だが、それ故に余計衣装のぎこちなさが目立ってしまう。
そう言えば他のボカロたち、衣装の違和感を感じさせない様に上手く立ち回ってたな。
私もそういった振舞い方を考えるべきか……。
まあ、これはまた後で考えることにして、後は……振付そのものか。
前世ではピンのアイドルが激減し、多人数のユニットばかりが目立っていた。
多人数でのパフォーマンスはフォーメイションが組めるし様々なバリエーションを試すことができる。
まあ練習とかは大変なんだろうけど……。
しかし一人だとどうしても斬新さに欠ける。
それは他のボカロについても薄々感じていた事ではある。
いっそのこと振りを最低限にして歌のみで勝負ってのもありかな。
でもアイドルがそれじゃ寂しいよね。
昭和ならまだしも。
選曲もしちゃってるし……。
ピンアイドルの振付けで何かいいやつ……。
私は記憶を振り絞った。
そう言えば何人か思い当たるな。一人で頑張ってたアイドル……。
でも、バックダンサーとかが付いてたんだよね。
うん。よく考えてみると他のボカロでも何人かダンサーが後ろにいた様な気がする。
かわいいキャラクターと踊ってた人もいたし。
でも、今更バックダンサー探しても後一週間しかないしな……。
私は何とはなしに呟いた。
「だいたいボカロのバックダンサーなんて何処にいるの?」
「私がやりましょうか?」
「え、ホントに……って……お前! お・ま・え!」
そこには私のアイスを勝手に食べながら寝そべっている山本がいた。
【人物紹介】
私…異世界に転生したら進化型ボーカロイドになっていた
【私のオーナー】
本田サユリ … 私のオーナー。大学生。サナの姉。しっかり者
本田サナ … 私のオーナー。9歳。サユリの妹。歌が大好き
【ファランクス】ボーカロイド4人のユニット
アテナ・グラウクス … オーナーは柿月ユタカ(ヨナの兄)
メーティス・パルテ … オーナーは星カナデ
ニーケ・ヴィクトリア … オーナーは春日クルミ
ミネルヴァ・エトルリア(ミーネ) … オーナーは大地ミノル
【私のナビゲーター】
斎藤節子 … ナビゲーター。部長
ナミエ … 正式名称C73EHT-R。AIポリスの特殊捜査隊隊長。
新米ナビゲーター(仮)
山本春子 … ナビゲーター(自称)。私の喧嘩相手
【株式会社3Dボーカロイド】
蟹江ジュン … 第1研究開発部主任。2児の母
蛯名モコ … 第6研究開発部主任。美人。ヲタク。蟹江の大学講師時代の教え子




