607 影忍者
それを見ていたジュウエモンは話の成り行きから一つの回答を導き出した。
「もしや五人組か?」
すると今度はユメノの野鼠がチーッ、チーッ! と元気よく鳴いた。
ザンシロウはそれを聞くとハッとした顔で野鼠を見た。
「成程、五人組のような組織があるかと聞いておるか。ならば、我らの村にもそれに似た仕組みはありますぞ。」
タイチロウはその考えに大きく頷き賛同した。
「そうか、うん、組長であれば皆信頼できる者ばかり。先ずはあいつらに伝えれば良いということか! 人質の件に心奪われそこまで気が回らんかった!」
サンガ村の制度は棟梁の下に年寄が四名、その下にすべての五軒組を纏める組頭がいた。
この組頭というのは五軒組のリーダーである組長らの統括者という立場であり、先日まで山坂ザンシロウが担っていた。
但し、現在はトアクの命令によってこの制度は廃止されていた。
村人はゴギャク一派の触れ回る指示のみに従うよう強制されていた。
因みに、通常の村であれば五人組の統括者を名主・庄屋などと呼び、五軒組のリーダーを組頭と呼ぶ場合が多かった。
また、五人組や五軒組と言えば普通(年貢の関係で)本百姓が対象となるわけだが、サンガ村の五軒組はそれとは別に全村民を掌握、管理する為のものであった。
これはサンガ村独特の体制であり、忍びの里であるが故のシステムであった。
統括者を組頭としたのは単なる組長の取りまとめ役ではなくすべての村民に目を配るべきとの意味が込められていたからだ。
ジュウエモンはここで言う年寄の一人であり、ザンシロウは組頭であった。
ただし今は二人とも役職を解かれており、ジュウエモンはただの伏せがちな老人、ザンシロウは一農民という立場だった。
赤坂タイチロウ、ジロウ、サブロウの三兄弟もそれぞれが組長であった。
また、長男のタイチロウについてはザンシロウの後に組頭を継ぐ予定であった。
だが、その役職も今や任を解かれており、既に彼らは皆を統括する力を剥奪されていた。
さて、こんな状況にあっても元組長らは話を聞いてくれるだろうか?
いや、それ以前に裏切らずにいてくれているだろうか?
いくら義理堅い人間だとは言え家族や近親者を人質に取られ脅されればどうか。
変に反抗したところで報復として良い見せしめにされるのが落ち、なのであればゴギャク一派に迎合する者が出ていてもおかしくはない。
何せゴギャクは血も涙もない残虐な男なのだ。
それはゴギャクが村を出る前から嫌と言うほど分かっていたことだ。
いや、今はその頃を遥かに凌ぐ程の悪逆ぶりであった。
更には何処ぞの者か、知識や力を持つ多くの仲間たちが周りを固めていた。
ならば一派の命令通り動くのが得策と考える者も多いことだろう。
そのような状況にある者たちを果たして説得しうるのだろうか?
五人は道中そのような話をしながらサンガ村へと向かった。
月影の棟梁が渡してくれた大量の酒瓶が五人の肩に重く伸し掛かった。
彼らが試案を深めながら曲道に差し掛かったその時、前方にある岩陰でジャリッという音がした。
五人は思わず立ち止まった。
奴らに勘付かれたか?
するとそこから一人の男がゆっくりと姿を現した。
五人は目を凝らして彼の姿を確認した。
ザンシロウは彼の姿を見て「おお!」と小さく叫んだ。
「お前は確かコクリュウんところの……!」
このコクリュウとは次期年寄候補の一人だ。
元々、サンガ村棟梁の側近たる年寄は四人体制であった。
ここにいる一ノ坂ジュウエモンとその殺害された兄トウエモンの他に裏切者の狂坂トアク、それと大坂ゲンゾウという者が担っていた。
だが、トアクは捕縛されて牢に入れられており、そこは空席のままであった。
また、大坂ゲンゾウは三年ほど前に他界しており、今は彼の息子である大坂コクリュウがその任を引き継いでいたのだ。
このコクリュウは他の側近らと共に現在洞窟内の牢に入れられていた。
そして、今現れたこの男はそのコクリュウの息子、名をサスケと言った。
彼と面識のなかった赤坂の三兄弟は身構えたままであった。
ジュウエモンは三人に向かって微笑んだ。
「大丈夫じゃ。こやつは我らの仲間、大坂コクリュウの息子だ。」




