600 非道の者、突如として現れる
勿論、村人たちの誰もがゴギャクの言ったことなど信用しなかった。
それどころかゴギャク自身が毒殺したものだと考えた。
年寄(村の役職)を仰せつかっていた一ノ坂トウエモン(ジュウエモンの兄)は皆を代表してゴギャクこそ真の犯人だと宣言した。
ところがその瞬間、彼はゴギャクの手下と思われる大男に切り伏せられてしまったのだ。
ゴギャクはそれを見るなりにやりとほくそ笑んだ。
そして、大きな声で怒鳴り始めた。
「殺されたのは俺の親戚、村の棟梁だぞ! それを殺した下手人を庇いだてするなんざ絶対に許さねえ! ましてやこの俺を犯人などと言いやがる……そんな奴ぁ家族諸共全員処刑だ!」
すると、いつの間にやら屋敷に入り込んでいた見たこともない村外のならず者たちが一斉に奇声を上げて同調した。
「うひゃっはーっ! 殺せ殺せ! 全員ぶっ殺したらーっ!」
「ぎゃーっはっはーっ! ちゃんといたぶってから殺せよ! 時間をかけてゆーっくりなぁ。でないと前の村みたいにすぐ全滅しちまわぁ。んだと面白くねーからな!」
「先ずは女、子どもからやっちまおーぜぇ! えへへぇ……。いたぶってよー……えへっ、えーへっへぇーっ!」
「ひゃーっひゃっひゃっ! 逆らえるもんなら逆らってみろや! 俺たちゃ強えーからな、うっひゃーっ! 負けねーぞぉ、ひぃやぁー!! 力こそ正義だーっ!」
その場にいた村人たちは皆口を閉じるしかなかった。
下手に手を出せば自分だけならまだしも家族や知り合いにまで危害が及ぶかもしれなかったからだ。
それでもゴギャクに逆らう者はいたが全員洞窟の牢に入れられてしまった。
そんなこんなで村はゴギャク一味により一瞬にして制圧されてしまったのだ。
ユメノの祖父である月影の棟梁は話を聞き終えると先ず一ノ坂ジュウエモンに声を掛けた。
「ジュウエモン殿、此度は兄上のこと、謹んでお悔やみ申し上げまする。」
ジュウエモンは「お気遣い痛み入ります」と丁寧に礼を言うとにっこりと微笑み自分の考えを明言した。
「兄も最後まで義を通し候えば是れ本望というもの。我らこの役を担う前から村の為に命を捧げております故。」
その後、今後についての対策が話し合われ最終的には水野ソウコの考えと同じ結論となった。
敵はゴギャクとトアク一味であり、先ずはサンガの村人を助け出さなくてはならないということ。
しかし、いざ救出の作戦を立てるに当たり一つ大きな障壁が頭を擡げてきた。
それは村人のうち誰がゴギャクの仲間なのか、誰がゴギャクと内通しているのか、または協力しているのかということだ。
中にはゴギャクのやり方に反しつつも人質を取られて止む無く協力している者もいるだろう。
どっち付かずで今は取り敢えず強い方に従っているという者もいるだろう。
この人選についてはサンガ村の五人が探りを入れ、こちらに報告することとなった。
ただ監視の目もある為、何度も村を出入りするわけにはいかなかった。
そこで、その連絡役として先程の”カラス”はどうかということになった。
タイチロウはここへ来て今まで口に出さなかった疑問を口にした。
「もしよろしければ……あのカラスたちのことを教えてはいただけませんでしょうか……。いや、申し訳ございませぬ。これは余りにも不躾でありました。今の言葉はなかったことに……。」
棟梁は「はっはっは!」と笑いながら木陰シノを見た。
「ああ、あのカラスどものことか……どうするよ、シノ。」
木陰はその問い掛けに躊躇することなく即答した。
「私はこの五人であれば伝えても差し支えないかと。さすれば今後の作戦も立てやすいかと存じます。」
実は、この質問については予め想定されており既に水野と話し合われたことであった。
つまり、この質問が来たらこのように答えることは決まっていたのだ。
棟梁はその小さな目をぱちくりさせた。
「おいシノ、お前何だか大人みたいな言い回しやな。」
木陰は少し照れ臭そうに苦笑いした。
「どうやら皆さんの話を聞いているうちにうつってしまったようです……。」
皆がそれを聞いて笑う中、タイチロウだけが真剣な顔で尋ねた。
「では、あの絡繰り、といいますか……あれなる奇妙な術を開発したのはそこにおられる……!?」
棟梁はまたも「はっはっは!」と笑いながらそれに答えた。
「いやいや、そういうわけではありません。ただ、この娘たちがこの術のことを一番分かっておるということです。ではシノ、お前の口から説明してくれぬか? 儂もまだ理解が追いついていないでな。はっはっは!」




