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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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597 二羽のカラス、村に戻る

 さて、台場タエの救出に成功した水野は次の段取りを進めていた。

 水野は早速さっそくアンフィトリテを介して金城と連絡を取った。

「タエは岬近くの民家に避難してるわ。そっちはどう?」


 金城は安堵あんどしたような声で返事をした。

「そう、よかった~! 抜け穴の方、うまく行ったんだ! こっちはね、ゴギャクたちが洞窟の奥からやったら大きい声で怒鳴りながら向かって来たんで先に村まで引き返しとったんよ。」

「そう。ミナヨも無事ならよかった。で、村の様子はどう?」

「ああ、そうそう。あの岩陰にいた五人な、既にシチヨウへ向かったみたいよ。」

「ゴギャクたちに気付かれてはいない?」

「ああ、こっちもタエが消えたってんでそれどころじゃないらしい。」


 水野はそれを聞いて少し安心した。

「そうか、そいつは都合がいい。」


 だが、金城はそううまくは行ってないことを伝えなければならなかった。

「いんや、そうも言ってらんねえ。実はな、あいつらタエが戻って来なけりゃあ、人質は無事には済まさんぞ! なんて騒いどるんよ!」


 水野はそれを聞いてまゆひそめた。

「奴ら……何て姑息こそくな! ミナヨ、このことはタエには言わんでな。」

「ああ、分かっとる。そんでこの後どうするよ、ソウコ。」


 水野は「そうな……」と呟いてから少し考えた。

「取りえず私たちもシチヨウに戻ろう。いつまでもタエをあそこには置いちゃあおけん。それと、棟梁とうりょうたちにあの五人のことを知らせておかねばならんしな。」

「ああ、そんならもう天女様通して伝えといたで!」

「そう、それは助かる! それじゃあ私たちも急ごうか!」


 そういったところで二羽のカラスは合流しシチヨウの里へと向かった。

 途中先程の五人が足早に里へ向かって行くのが見えた。


 金城はその足の速さに驚いた。

「おお、五人とももうこんな所まで! 歩くのはや!」


 水野はその力強い歩みを見て彼らの決意のようなものを感じた。

 二羽のカラスは五人の頭上に近づき「カーッ!」と一声ひとこえ掛けてから里へと向かった。


 不安そうな顔をしていた五人は二羽のカラスを見て表情をゆるめた。

 サブロウは「おーい!」と叫びながら二羽に手を振った。


 水野と金城は里に行き着くと人間の身体へと戻り、ずは棟梁とうりょうたちに今までの経緯を改めて報告した。

 棟梁の部屋には父親衆と仕事を終えた月影たちが全員そろって遅めの昼食を食べ終わったところだった。


 棟梁たちはゴギャクたちの兵力とサンガ村の惨状を聞いて顔色を変えた。

「木陰からは伝え聞いておったが……これは一刻の猶予もならんな。だが、その鉄の装甲車にしても鉄砲などの武器にしても思っていた以上……こいつはよほどの策を練らないと奴らの思うつぼじゃて。」


 水野の父は顔をしかめながら腕を組んだ。

「うむ、それに攻め入る者が人質を捕られた村人なのであれば下手に手出しもできん。」


 火柱の父は悔しそうに右のこぶしを握った。

「ああ、これがゴギャク一派だけだってんなら鉄砲の周囲に鉄粉塵を大量にいてやるところだがのう。」


 火柱グレンは父親に何度かその鉄粉塵を撒いた爆発(粉塵爆発)の実験を見せられていた。

 彼女はその威力を思い出して苦笑いしながら小声で突っ込んだ。

「それは流石に……里の考えにも反するじゃろうて……。」


 火柱の父は娘が引いているのを見て愉快そうに笑った。

「はっはっは、そうであったな……。だが、いざとなれば村の存亡には代えられんぞ。ああ、それと話は変わるんだが……。」


 皆、火柱の父の話に耳を傾けた。

「その岬の家、一度行ったことがある。」


 水野は月影から渡された握り飯を食べながら火柱の父の顔を見た。

「それはいつ頃、どういった経緯いきさつで?」


 火柱の父はその経緯を説明した。

「十年ほどばかり前のことじゃ。近くの川に釣りに行っとってな。縄に繋がれとった小舟の上でついウトウトしていたら流されてしまったんじゃ。したら、あそこの湖に流れ着いとったっちゅうわけじゃ。」


 水野は十年前の岬の家がどんな様子だったのか少し興味を持った。

「十年前であればハナコちゃんがまだ生まれてなかった頃……。」

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