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売れない地下アイドル、転生す  作者: ぷぃなつ
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596 古文書の天女

 さて、セレーネたちがここに来てから一年以上が経過した。

 この頃になると例の存在しないはずの人間による影響が形となって現れて来た。


 そのさいたるものが半年後のサンガ村による開戦であった。

 通常であればそんなことは当の昔に予測できていたはずだし今後それがどうなって行くのかも予想できるはずだった。


 しかし、その謎の存在の影響によってそれはままならぬ状態になってしまっていたのだ。

 はずのないその人間の人元は周囲の人元をざわつかせ、そのことが予測を大きく阻害するのだった。


 ただ、それの存在はデメリットばかりを引き起こすものではなかった。

 様々な実験を通して分かって来たのはその存在の影響により彼女たちがこの世界に干渉してもそれによる影響が縮小しているようなのだ。


 バタフライ効果(わずかな変化がのちに任意の場へ大きな変化を与えてしまう現象)の原因を『情報の拡散』と取るならば、これはある意味『情報の収縮』という現象にも見えた。

 勿論、GmUゲームほどの派手な行為であればそれはどうなるか分からない。


 だが、ある程度の干渉についてはこの場に限りその影響は収縮してしまうのだ。

 これが後にセレーネたちがシチヨウの里に干渉しようと考えた一つの切っ掛けとなった。


 計算によれば謎の人元の影響をこのまま放って置くことはそれこそ歴史を大きく変えてしまいねない事態となってしまう。

 シチヨウの里とサンガ村のいくさはそれ程に広範囲に及ぶ影響を与えてしまうのだ。


 この地域は大きく南側と北側に分けられていた。

 その境界線こそがこの二つの村だったのだ。


 シチヨウの里より南側の村々は大きな町に抜けることもあってシチヨウの里を中心に栄えていた。

 そして、サンガ村より北側の村々は大きな湖や山々の幸に恵まれてこれはこれで生活が成り立っていた。


 戦国の世が落ち着いて来た近年にいては尚のこと、これらの村々はより安定した暮らしを送ることができるようになっていた。

 食糧事情も改善され盗賊などの悪党や不逞ふていの輩も激減していった。


 ところがここに来て事態は急変してしまったのだ。

 もしこの戦でシチヨウの里がサンガ村に敗れようものならこの地域一帯はどうなってしまうか。


 当然、ろくな事にはならないだろう。

 セレーネたちの計算によれば全村が滅びの道を歩み村民たちには無残な未来が待ち受けるのみであった。


 今までの歴史から見てもそうであるように、ゴギャクの様なやからが権力を握ればそうなることは必至。

 この周辺は人の死を待たずして地獄と化してしまうだろう。


 そしてその時は刻々と迫り、狂気の事象は確実化していった。

 ゴギャクたち、というよりは彼らの黒幕たる狂坂きょうさかトアクは幕府を転覆しようと目論んでおり、人質を取られた村人たちは奴隷兵士として駆り出されることになるのだ。


 更に、その目論見は失敗に終わりこの地域一帯は壊滅してしまう。

 セレーネたちはこの事態を回避すべく一番安全と思われる干渉を行ったのだ。


 その第一がミネルヴァによる金城の父への接触であった。

 これはある意味実験的な意味合いもあった。


 ちなみに金城の父がミネルヴァを天女ミネと言っていたのには理由があった。

 彼は動揺していたこともあってミネルヴァの名を上手く聞き取れなかった。


 そして、彼女がミーネと呼ぶよう伝えるとそれを「ミネ」と呼んだのだ。

 また、それを後に文書で記述する際も「未音」と書き記したのであった(書いたのは水野ソウコであったが「ミネ」をどう記すかを決めたのは金城の父だった)。


 ミネルヴァたちは金城の父が鳥に憑いた状態を確認した。

 その実験がうまく行ったと見るや今度は本命である月影ユメノたちへの干渉を行ったのだ。


 勿論もちろんこの実験がうまく行くことは分かっていた。

 だが、子どもたちにいきなり試させるのは気が引けたし憑依ひょういの実例を見ておいた方が理解が早いとの考えから先に金城の父への接触を行ったのだ。


 また、最初にミネルヴァが接触した理由は仮想世界にいてはこの時点で彼女の力が抜きん出ていたからだった。

 これならいざという時も様々な形で対処できるし何よりミネルヴァ自身がそれを臨んだ。


 そして今に至る。

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